研究所生活1
「どうした。最近いやに真剣じゃないか」
「だから、私はいつだって真剣で真面目です。失礼なことを言わないでください」
「そうか? 見てるとすぐに飽きて別の事を始めることが多いと思うが」
「それはですね、同じ体勢でいるのが辛いだけですよ。ゴロゴロしてて良いならいくらでも続けられるんですけどね」
ゲームだって読書だってアニメ鑑賞だって、私はゴロゴロダラダラ派だ。スフィンクスのポーズが一番楽で何に関しても集中できて捗る。机に向かうなんてお尻が痛くなって休憩挟まなくちゃ我慢できない。
「別にいいぞ」
「いいって、ゴロゴロしてもってことですか?」
「ああ」
「えっ、本当にいいの?」
「ベッドを持ち込むのはさすがに見過ごせないが、ソファーくらいなら良いんじゃないか。俺は胡座が楽だから座り込んでる。同じだ」
そっか、自由な格好して良いんだ。
「でも問題があります。残念なことにソファーを買うお金がありません」
あめ玉を作るのに夢中になりすぎて有り金殆ど使い果たしてしまっているし、それにそもそもソファーがいくらするのか分からないが多分購入できるほどのお金は元々持ち合わせていない。
「それくらい経費でどうにかしてやる。俺にだってそのくらいのことはできる」
「良いんですか!?」
「その代わりちゃんと結果は出せよ。サボったら没収するぞ」
「勿論です!! ありがとう師匠」
付与や錬金術に関してもちょっとしたレポートにまとめてみようと決めて、今は先に頼まれた辞書の翻訳と魔法に関してのレポートを急いでいた。やらなくちゃならないことが山積みで、気休めに街を出歩く暇も無い。
もっともうっかり出歩いてまた誰かとの出会いイベントが起こるのも面倒だし、それにお金も無く出歩いても全然楽しめないからサボるなんてあり得ない。
「それじゃ俺がいつも利用している取引先に頼もうと思うがなんなら自分で探してくるか?」
「師匠にお任せします。ついでに急いで貰えると私としては嬉しいんですが」
自分で探すっていっても街中の家具屋を見て回れないし、そもそも経費で購入するソファーなんてどれも同じようなものだろう。ベンチじゃないなら全然大丈夫。
「分かった、急がせよう」
師匠は本当に急いでくれるらしく研究室をさっさと出て行った。有言実行、行動力のある人は信用できる。一度口にしたことは守るべきだよね。
そうして夕方には本当に立派なソファーが研究室に届いた。ソファーだけでなくローテーブルも一緒に。まるで図書室の一角が応接室になったかのようだ。ここは研究室だというのに。
「師匠、本当にこれ私が使って良いんですか?」
あまり期待していなかったソファーは見るからに高級品。デザイン的にはシンプルだが、総本革でクッション性もフワフワしている感じ。まだ怖くて触ってないけど絶対に座り心地が良いのが一目で分かる。
こんなソファーにゴロゴロできたらそれはもう最高だろう。
「そのためのものだろう」
「ちなみにちょっと確認したいんですが、もしかしなくても師匠ってどこぞのお坊ちゃまだったりスゴく偉い人だったりします?」
こんなスゴいソファーをポンと何の躊躇いも無く買えるなんて、師匠は元々そういうレベルの生活に幼い頃から馴染んでいた人なのだろう。多分どこぞの貴族の令息とか大商会の息子とかそんな感じだろうか。
それに研究所がこれを経費として簡単に認めるのなら、絶対に間違いなく師匠は下っ端研究員な訳がない。
「まぁ俺の所に国内の古文書すべてが集まってくるくらいにはだがな」
「それって本当にスゴいんじゃないですか」
「おまえが来てからは俺も形無しだがな」
「私の能力はズルみたいなものですけど師匠は実績なんですから比べられません」
「ハハハ、気遣ってくれるな。俺はこれからも俺であるだけだ」
「師匠、なんかちょっとカッコイイです」
師匠の何の陰りも無いちょっと照れたような笑顔に、研究室にソファーが置かれた嬉しさよりも心が動かされた気がしていた。




