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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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冷静になる


ロザリアと次の約束などする事なく普通に別れ、あめ玉作りの材料をかなり買い込んでご機嫌で宿舎へ帰った。


あめ玉の作り方が知れたのは本当に収穫だった。別に流行りに乗るつもりもなかったけれど、宿舎にあるあまり使われた形跡も無い共同のキッチンを借りてさっそく作ったあめ玉を配って歩いていると、お世辞でもみんな喜んでくれるのでちょっと気分が良い。


だって仕方ないんだよ。練習のつもりであれこれと作り過ぎちゃって一人じゃ消費しきれないんだもん。

これという私なりに満足のいくあめ玉が作れたら是非アデス様にも召し上がっていただきたいのだが、それには試行錯誤練習あるのみ。


アデス様の疲れた脳と心を癒やす究極のあめ玉が作れるまで頑張るわよ。そして心から喜んでくれる笑顔がいただけたなら、私は他に何もいらないわ。次に会える日までに必ずや作ってみせる。


そう気合いを入れて頑張っていたのに…。


「姉さん、僕もうあめ玉は飽きたよ。これはたまに食べるからいいんだと思うよ」


リオンはあめ玉をあまり喜んではいないようだ。


「えぇぇ~、そんなこと言わないでもっと協力してよ」


「それに姉さんお金は大丈夫なの。お砂糖って安いものじゃないよね。必要じゃ無い物を作るのって完全に無駄遣いじゃないかな?」


アデス様の笑顔が見られるならけして無駄じゃないわよ。それに目的がアデス様なんだからこれは言わば推し活の一種なの。まぁリオンに言っても理解できないだろうけど。


「私はその辺で買ってくる物より美味しい物を作りたいの。それでみんなが癒やされるなら無駄じゃないわよ」


「あのね姉さん、買ってくれる人が居るから売り物になるんだよ。それには美味しいって評判が必要で姉さんがちょっと作り方を覚えて作るのとは違うんだよ」


それじゃまるで私が作るのは美味しくないって言ってるみたいだよ。なによリオンったら。見た目は手作り感満載だけど味は悪くないと思ってるのに。


「どう違うって言うのよ。私だって頑張ればいつかは作れるようになるわ」


「そうだね、いつかはね。でも、やっぱりプロの作る物を超えるのは簡単じゃないと思うんだ。だから姉さんも昨日の今日で簡単に作れるなんて考えずに気長に考えたらいいんじゃないかな」


「…」


でも、次にアデス様に会える日までには喜んで貰える物を作りたいんだからしょうがないじゃない。


「今できあがってるのは研究所の食堂にでも置いて貰って研究員さん達に自由に食べて貰ったら良いよ。それでそれが無くなったら研究員さん達の反応を参考にまた作ったらいいんじゃないかな」


「でも、私は一日でも早く上手に作れるようになりたいのよ」


「どうしてそんなに急ぐの? 急ぐと大抵失敗するよ。本当にそんなに焦ってしなくちゃいけないことなの?」


「……」


だって、次にアデス様に会ったときに喜んで貰いたいんだもん…。


「それにそれって本当にあめ玉じゃなくちゃダメなの? 他に姉さんにできることって無いの?」


「私にできること?」


「うん、なんでそんなにあめ玉に拘ってるのか僕にはちょっと理解できないよ」


だって今街でスゴく流行ってて、みんなが欲しがっててあげると喜んでくれて、折角ロザリアに作り方を教わったから…。


でも…。あれっ、そう言われれば私って何でアデス様に手作りのあめ玉あげたら喜ぶって思ったんだろう?


プロ並みのあめ玉作る気力も時間も別の事に使ってアデス様の実績に繋がるようなことを成し遂げた方が絶対に良いに決まってるのに。


例えば全然捗ってない辞書の翻訳を急ぐとか、アデス様に頼まれた魔法に関するレポートをさっさと仕上げるとか、やらなくちゃならないことも沢山あるのに。


なんでだろう?


冷静になってみると前世の経験上あめ玉配るのって大阪のおばちゃん的な一種のコミュニケーションを深めるアイテムでしかなくて、ムキになって手作りしてまでプレゼントする物でもないと普通に思えた。まるで憑き物が落ちたように。


ホント私ってばいったいなに考えてたんだろうか?


「リオンありがとう冷静になれた。あめ玉作りは趣味にするよ」


「それが良いと思うよ。それにこれからもっと忙しくなってそれどころじゃなくなると思うな」


「なによそれ。今だって十分忙しいのに」


「そうだったね」


リオンのなんだか良く分からない予言めいた言い方はちょっと気になるが、でも忙しくしてた方がアデス様のことを考えなくて済むからそれも良いかも。明日からまた頑張るよ。うん、そうするよ。



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