出会いは突然に2
「私ってばいったい何をしてるんだろう」
リオンとプロトが並んで歩く姿を追いながら、二人が仲よさそうに楽しげにする度に心が淀んでいく。
これが赤の他人の美少年コンビなら脳内であらぬ妄想を膨らませ楽しむこともできただろうが、自分の弟と攻略対象者となると何とも微妙な気分だった。
ゲームをプレイして楽しんでいるような気分にも到底なれず、上手く行って欲しいと願う気持ちにも何故かなれなかった。
「これ以上の干渉はやめよう」
敢えて口にする事でリオンにはリオンの人生があるのだと自分に言い聞かせた。
彼らがこのまま仲のいい友達でいるのかカップルになるのかなんて私にはまったく関係ないことで、私はただリオンの幸せを願うだけでいいだろう。
そう思い踵を返すがこれと言って行く当てもなく何をしていいのか今さらながら思い悩む。そうして当てもなく街を歩いていると、いつの間にかよく知らない路地へと迷い込んでいた。
「ここどこだろう?」
まったく見覚えのない住宅街。それも閑静な住宅街とか高級住宅街といった雰囲気ではなく、日本で言うところのマンモス団地をもっと密集させた感じ。本当に迷路にでも迷い込んだようだった。
「迷路ダンジョンにでも入った気分だね。出口はどっちだろう?」
知らない道を行くのは案外好きだ。思いも寄らない近道を見つけたり、小さな店を見つけどんな物を売っているのか覗いたりとちょっとした冒険気分を味わえるのがいい。
だから今日も何か新しい発見があるかとさっきまでの疎外感を払拭させ知らない路地をズンズン歩く。
いつもならリオンが一緒だから怖いもの無しの楽しさ二倍だけど、今日はたった一人での冒険だ。たまにはソロプレイも悪くないよね。
「こんにちは」
テンションが少し上がり気分が良いので知らない人にも挨拶をして歩く。袋小路に突き当たったら戻り別の道を行き、見覚えのある道に出たらやはり別の道を行き、方角だけを頼りに迷わず歩く。心に焦りも迷いも無い。ただ楽しむだけだ。ホント絶対に迷ってなんかないんだからね。
「ねえあなた、もしかして迷ってるの?」
突然声を掛けられびっくりして声のする方を向くと、身に纏う服は質素なのにどこかの貴族令嬢を思わせる凜とした雰囲気を纏った美少女が居た。
(ロザリアじゃない! 何でここに!?)
彼女も攻略対象者の一人で、平民なのにその頭脳は貴族の子息令嬢よりも優れ、特待生として学園に入学し同じ平民育ちという事で主人公と出会うことになっている。
学園入学前に出会うイベントなんて無かった筈なのに訳が分からずただ呆然としてしまう。
「どこへ行きたいのか教えてくれれば案内するわよ」
「あ、ありがとう」
「それでどこへ行きたいの?」
「えっと、何か変わったあめ玉を売っている店は無いかと探してたんです」
自分でも忘れていた本当なら今日リオンと果たすはずだった目的を思い出し口にしていた。
「この辺にある店を探してるってこと?」
「店と言うよりもっと美味しいあめ玉がないかと思って…」
「自分で作ればいいじゃない」
「えっ?」
「自分で美味しいと思える物は自分で作る方が簡単じゃない」
「作れるの?」
「作れない物が何で売られてるのよ」
そういう意味じゃなくてですね、作り方を知っているのかって聞いたのですよ。
ここが日本だったなら料理本やネット検索で作り方はいくらでも調べられるけど、この世界にはそのどちらもないんだよ。どうやって作り方を知れと。
「私は作り方を知らないから」
「どおりで商売になるのね。あめ玉なんて普通母から子へと作り方を教えていくものよ。その家の特別な味がるから友達と交換したり持ち寄って楽しむ物なのにあなた知らないんだ。お母さんが教えてくれなかったの?」
「私は孤児だからそういう家庭の味を教えてくれる人なんて居なかったの仕方ないでしょう」
子共は残酷だ。遠慮のないその物の言い方になんだかスゴく馬鹿にされているようで気分が悪くなる。
それに孤児院の料理はいつも決まっているみたいで何の工夫もないただお腹を満たすための料理だった。手伝ったことは何度もあるがあれを家庭の味とは認めたくはない。
「孤児ってなに? 私聞いたことないわ」
「お父さんもお母さんも居ない子ってことよ。そんな子ばかりを集めた孤児院ってところで育てられたの」
「ふ~ん、そうなんだ…」
ロザリアは頭脳明晰だけど知らないことも多いみたいだ。そして今孤児と言う言葉を覚え何かを考えている模様。
「じゃぁ私はあなたに失礼なことを言ったのね。ごめんなさい」
素直に頭を下げるロザリアになんとなく腹を立てた自分が恥ずかしくなっていく。自分の方が精神年齢はだいぶ上なのに上手に諭すこともできなかったと。
「別に気にしてないわ。それより道を案内してくれる?」
折角の申し出だから素直に受けておこうと決めた。
突然の攻略対象者との意外な出会いではあるけれど、何も身構える必要などないだろう。問題はきっとこの先どう関わっていくかってことだ。
「いいよ。良かったらあめ玉の作り方も教えてあげる」
「ホント、お願い。作れるなら私も挑戦してみたい」
「私ロザリアっていうの、あなたは?」
「私はオランジュよ」
これからよろしくとは敢えて言わずにおいた。彼女と次に関わるのはきっと学園に入学してからだろうし、それまでロザリアが私のことを覚えているかなんて分からないからね。
そうしてあめ玉の作り方を聞きながら大通りまで案内して貰うのだった。




