プロローグ2
ある日孤児院の院長室を清掃していた私は、びっしりと並んだ書棚の中の古びた書物の一冊が無性に気になり思わず手に取っていた。
表紙には古代文字で何か書かれているが何と書いてあるのかまるで分からない。しかしその然程厚くもない本を何気なく開くと驚いたことに本は私の手から離れ宙に浮いたかと思うと自動的にペラペラとページが捲れ始め、やがてあるページになってピタリと止まる。
すると突然目の前の空中に訳の分からないものが現れた。それは透明なガラス板のような不思議な物だった。と同時に私の中に一気に流れ込んで来たのは前世の記憶だった。
地球の日本という国で三十年以上を過ごして得た知識と数々の思い出。しかし自分の名前や家族構成、それにどうして死んだのかなどの記憶は霞が掛かったようにはっきりとは思い出せなかった。
流れ込んできたと言うより今まで封印されていた記憶を一気に取り戻したと言った方が正しいかもしれない。
私が戸惑っているとウインドウにはいつの間にか《どの能力を選択しますか?》と表示されていた。
そして選べる選択肢として《予見》《癒やし》《聖属性魔法》《闇属性魔法》《知識》とあった。
これはかの乙女ゲームで主人公を男子にするか女子にするか決めたあとに選択する自分が開花させる特別な能力だ。
そしてもう一つここがゲームの世界だと疑いようのない事実を思い出す。それはオランジュとリオンは私がゲーム内で使っていた名前だった。
これで能力を選べばゲームがスタートするという事なのだろうか?
さて、ここでどの能力を選ぶかは実はそれほど重要ではなく、ただ単に攻略しやすくなる相手が決まり、予見は王族が囲おうと必死になるので王子王女を、癒やしは教会に囲われるので神官候補を攻略しやすくなり、属性魔法はその特性に応じたストーリーが用意され貴族に囲われるので貴族の子息令嬢なども攻略しやすくなるというだけだ。
そして最後の知識は特別どこかに囲われることはないので結構幅広く相手を選べ、ゲーム内での自由度はかなり増えるがその分トゥルーエンドまでの攻略はハードモードといった感じだった。
そうして前世の記憶を取り戻し改めて先程の本を確認すると、さっきは読めなかった表紙の文字が《運命の扉》と日本語で書かれるのが分かる。
「日本語じゃん!」
この世界で解読不能とされていた古代文字がまさかのどうってことは無い日本語だったのだと知り私は思わず笑ってしまう。
「ハハハハハ…。勝ったね!」
これで今まで解読不能と言われる古文書や魔導書は読み放題になる。そしてそれによってこの世界の失われた色んな知識を手に入れ、古代魔術も取得することができるのかと思うと既にチート能力を手に入れたような気分になっていた。
それに多分きっとあの文官様とこれでお近づきになり関わっていく理由が増えたのだと思うと今から出会うのが楽しみで仕方ない。何しろ古文書や魔導書の解読はきっとあの文官様の元々の領分だからね。
「今度こそあなたを落としてみせる!!」
私は決意を新たにしかし気持ちは冷静に今後について慎重に考えるのだった。




