出会いは突然に1
「美味しいでしょそれ」
「僕はさっきの甘い方が好きだな」
リオンは柑橘系の果汁が入ったちょっとスッキリ系よりべっこう飴のような甘さ重視のあめ玉の方が好みらしい。
「それじゃ今度一緒に買いに行ってみる? 私ももっと他の味も探してみたいし」
「魔法の練習しなくていいの?」
「たまにはいいんじゃない。それに初級程度の魔法ならどれも習得したし十分じゃないかな」
光魔法のライト以外に火・水・風・土属性の初級魔法と言われるファイヤーボールにウォーターボール、風の刃のウインドに土塊を飛ばすストーンバレッドは既に習得済みで、さらにスタンガンのような電気ショックを与える雷系魔法と氷魔法のフリーズもそこそこ使えるようになっている。週末だけの訓練としては上出来の結果だろう。
それに魔力循環や魔力操作はかなりスムーズにできるようになっていて、リオンは教会でも練習しているせいか私よりスゴいし魔力量もかなり増えている感じだ。
「それじゃ僕友達を誘ってもいい?」
「友達できたの?」
「うん、司祭様との連絡係になった子が僕と気が合うんだ」
「へぇ~」
意外だった。リオンは何でも話してくれていると思っていたのに、気を許せる友達ができていたなんて初耳で、なんだかリオンを取られてしまいそうな気がしてちょっとショックだった。
それに別に隠していた訳じゃないんだろうけれど、それでも二人で出かけようと言ってるのに他に誘いたい子がいると言われて正直面白くないと思ってしまう。
「誘っても来るかどうかは分からないけどいいかな」
「いいよ」
リオンが友達ができたって喜んでいるのにダメって言える訳無いじゃない。それに私にリオンを縛る権利なんて無いしリオンの人生はリオンのものだ。リオンの好きにしたらいい。そう頭では分かっているけどやっぱりどこか寂しいと思ってしまう。
「姉さんは友達できたの?」
リオン、ここでそれを聞くのは酷というものだよ。できてたら私も自慢気に話してるよ。
研究所では何人か顔見知りの職員さんや研究員さんもできたけど師匠以外に親しくしてる人なんて居ないし、何より同年代の子なんて研究所には居ないよ。友達なんて作れる訳無いじゃないか。暇も無いし。
「分かった。じゃあ今度の休日は別行動ね。リオンは友達と出かけるといいよ。私もそうするから」
「えぇ~、どうしてそうなるんだよ」
「たまにはいいでしょう。もう決めたから」
「…分かったよ」
私は半ば意地になっていた。私には友達が一人も居ないと口にするのも嫌だったし、休日を一人で過ごせないなんて思いたくもなかった。
(私は一人でだって何でもできるのを証明してみせる。リオン見てなさい!)
そうして迎えた休日の朝。
「本当にいいの? 姉さん大丈夫?」
「何の心配してんの。私のことは気にしないで友達と楽しんで来なよ」
「うん、じゃぁ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
リオンを機嫌良さげに手を振って送り出すと私はすぐにコートを羽織りリオンの後を追う。
やっぱりリオンの友達がどんな子か気になるし、ここは姉としてちゃんとチェックしておく必要があるよね。
別に寂しいとか他にすることが思いつかないとかそんなんじゃないからね。
そうして探偵にでもなったつもりでしばらくリオンの後を付けていくと、待ち合わせ場所に着いたのかリオンが笑顔で手を振り駆け寄る子を見て驚いた。
(プロトじゃない!)
思わず声に出しそうになり私は慌てて両手で口を塞いだ。
リオンの友達とはまさかの攻略対象者の一人神官候補のプロトだった。
彼はあくまでも神官候補なので、この先リオンとの親密度によっては神殿に奉職する事なく結ばれると言う結末もあるが、今はただの小間使いというか教会に才能を見込まれて囲われている子供の一人に過ぎない。
この世界では魔法と認識されていないようだが貴重な回復魔法を使える一人で、学園入学後その才能をめきめきと発揮させていく。
しかし教会でお金を取って治療する行為に思うところがあり悩む彼を励ますというイベントで、返事を間違わなければ一気にかなり親しくなれる。結構チョロイ攻略対象者の一人でもあるがそこまで行くのに時間が掛かる面倒なキャラだった。
そろそろ出会うイベントがあるとは思っていたが、まさか既に友達になっているとは考えてもいなかった。
それに確かプロトは司祭様との連絡係と言っていたが、そもそもその設定というか出会い方がまるで違っている。
どういう事だろう?
ゲームの設定とはまったく違う出来事にオランジュはひたすら戸惑うのだった。




