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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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18/27

リフレッシュ


「どうした珍しく真面目な顔して、何か考え事か?」


「珍しくは余計です。私はいつだって真面目です」


アデス様に会えない寂しさを埋めるべく、何か面白そうなコミックはないかと書棚を探していてある事に気が付いた。


そう、不思議なことに写真が使われている書籍が一冊もないのだ。

写真集とか料理本などの写真がメインだったりする書籍だけでなく、エッセイ集のように合間に写真が使われている書籍もまるで見当たらない。どおりでラノベやコミック誌がやたらと目に付く訳だ。


(なんでだろう?)


この世界は元々乙女ゲームという絵の中の世界だから写真は邪道ってことなのか?

それともより古文書っぽく見せるために敢えてリアリティがありすぎる実写は避けられたってこと?


これじゃこの世界に写真だけでなく映像関係の技術は発達しないってことになり、アデス様の尊い姿を納めたお写真を手に入れる事は絶対に無理ってことになる。


もっとも推し活なんてまったく知られていないこの世界でそんな物持ち歩いていたらなんだか色々と勘違いされる気もするから別にいいのだけど、何日も会えないとなるとやはり写真の一枚くらいは欲しいと思ってしまうし、できることならポスターを部屋に飾りたい。


(あぁ、アデス様グッズが欲しい…)


少し時間をくださいって言われても、少しって曖昧すぎる表現だよね。はっきりと何日とか何時間と言われた方がまだ我慢できるのに、少しなんて言われちゃうとそれがいつまでかはっきりしないから余計に長く感じてしまうじゃないか。


「師匠、ちょっと街に出てきてもいいですか?」


「なんだなんだ、何か必要な物でもできたか? 別に構わないが、一人で大丈夫か。なんだか心配だな」


「ちょっと出てくるだけなのに何が心配なんですか。意味分かりません」


「おまえを一人にすると何をやらかすか分からんから心配してるんだよ」


「余計なお世話です!」


さっき食堂でご飯食べたばかりだけど、気分を紛らわせるには何か美味しい物を食べるしかないと思ってるだけなのに、いったい私が何をやらかすと言うんだか。ホント失礼しちゃうよ。


孤児院に居た頃はお小遣いを貰ってなかったから買い食いなんてできなかったけど、今は一応お給金のようなものをいただいている。だから行こうと思えば飲食店にだって行けるけど、でも子供一人では入れて貰えない。


それにこの世界にはコンビニとか駄菓子屋なんて店は無いし屋台なんて決まった日にしか出ない。なので買い食いなんて言っても個人商店独自のお菓子を買うしかない。


雑貨屋のお母さん手作りのあめ玉とか、八百屋のお姉様手作りのあめ玉とか、薬屋のおばあさん手作りのあめ玉とか、そう何故か今街は空前絶後のあめ玉ブームなのだそうだ。


どの店も独自の味付けをしていて何玉でいくらという売り方をしているので購入しやすく、それに自分のお気に入りのあめ玉を探すのも楽しいらしい。


昨日研究員の一人に貰ったあめ玉が意外に美味しくて、私も是非欲しいと思っていたのだ。

それにできることならお気に入りを見つけて沢山常備しておきたい。甘い物は脳の活力だけでなく心まで癒してくれるからね。


私が出かける支度をして街に向かい歩いていると、何故か師匠が追いかけて来た。


「やっぱりおまえ一人にするのは心配だ。俺も一緒に行くぞ」


「研究はいいんですか?」


「たまには息抜きも必要だ」


「たまにはって、師匠って研究所から出たことないですよね?」


「俺だって研究所を出ることくらいある。ただ街に出るのが久しぶりなだけだ」


師匠は私の知る限り研究所から出たことがない。最近では他の人の研究室にも出入りしているが、基本食堂と自分の研究室を往復するくらい。もしかしたら宿舎にも帰ってないんじゃないかと思うくらいに研究室でしかその姿を見かけない。


だから私を追いかけて来るなんて本当に意外だった。


「一緒に出かけてくれるのは嬉しいですが少しは気を遣って欲しいです」


「おまえを心配して一緒に行くと言ってる俺に言うかそんなこと」


「ええ、この際はっきり言わせて貰います。その格好全然身だしなみを気にしてないですよね。一緒に歩く私のことも少しは考えて欲しいです。ちょっと前まで孤児だった私に言われるって相当だと思いますよ」


何日同じのを着てるんだという感じのヨレヨレの服に相変わらずボサボサの伸ばし放題の髪。街を出歩いていい格好だとはどうしても思えない。


「そんなにか?」


「そんなにです。出かけるついでです、この際その髪だけでもさっぱりさせましょう」


私は無理矢理に師匠を理髪店へと連れて行く。孤児院では職員が髪を切ってくれていたので私もこの世界の理髪店は初めてで、正直ちょっと店に入るのに勇気がいるがそんなことを言ってはいられない。

私は思い切って店のドアを開け師匠を中へと押し込んだ。


「すみません、この人の髪を綺麗さっぱり切ってしまってください」


どうせまた手入れもしないのに決まっている。ならばスッキリサッパリ短くししまった方がいいだろう。


「よろしいのですか?」


「ああ、好きにやってくれ」


師匠も自分の髪型にこだわりはないようだ。そりゃそうだよね。気にしてたらもう少し身綺麗にしてるよ。

そうして待つこと三十分程度。髪を刈り上げてスッキリサッパリ短くした師匠の顔を見て驚いた。


「師匠って美形だったんですね」


何というか女の人と言われても不思議じゃないくらい中性的な美しい雰囲気で、これで耳が尖っていたらエルフじゃないかと思ってしまうくらい整ったとても美しい顔立ちだった。

もしかしてこの世界って元が乙女ゲームの世界だから美形率が高いのか?


「そうか?」


「言われたことないですか?」


「アデスと歩いていると女達がやたら騒ぐのは感じていたが俺自身は言われたことないぞ」


それはスタイルとか服のセンスの問題ではないですかねとは言えなかった。

それよりも格好良く決めた二人が並んで歩いているところを想像して、私の脳内が騒がしくなっているのを収めるのが先だ。


このままでは師匠まで意識して危ない妄想に取り憑かれてしまいそうだ。BLとか三角関係とか歴史物も面白そう…。

ヤバいヤバい今はダメだろうと私は激しく頭を振る。


「まずはその猫背をどうにかしたらいかがです。そうすれば師匠も少しは騒がれるようになるだろうし、それにきっとアデス様にまけない美人の奥さん見つかるかもしれませんよ」


「大きなお世話だ。それより出かけてきた目的を忘れてないか」


「そうでした。それじゃ次は私の用事に付き合ってください」


私は師匠と何店か店を回り目的のあめ玉を買って歩き、思った以上の楽しい時間を過ごし気分をリフレッシュさせたのだった。



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