告白3
「おはようオランジュ。レポートの進みはどうかな?」
昨日の今日で早速の催促。でも…。連日で朝からお目にかかれて感激です!
「慣れないことなので師匠に手伝って貰いながら頑張ってます」
というていで行こうと昨日師匠と話し合って決めた。実際たいしたレポートを書ける訳もないので監修は師匠に任せることにしたし。
「私も思ってもいなかった話につい興奮してしまい、帰ってから無理を言ったと反省していたのですが大丈夫そうで安心しました」
アデス様でも興奮することがあるんですね。しかしそれにしても朝からその笑顔は反則です。
「はい」
「それで一つ確認したいのですが、オランジュはその古文書にあった魔法に関しての訓練を自分で試したりはしたのですか?」
私は返事に困りチラッと師匠に視線を送る。ここで否定するのは簡単だが、それはアデス様に嘘を吐くことになりとても心苦しいし、それに万が一あとでバレたときに信頼関係にヒビが入りかねない。それだけは絶対に嫌だ。
師匠も好きに返事をしろとでも言うように小さく頷いている。
「休日に弟の癒やしの能力の練習がてら森で試してます」
「リオン君は教会で訓練しているのではないのですか?」
「なんだか部屋で祈らされているだけのようです。だから少しは練習も必要だろうと思ってたんですけどダメでしたか?」
「ダメという事はないのですが、魔法の練習の話もリオン君の教会での話もちょっと意外でした。できれば報告をしてくれると私も嬉しいのですがね」
「すみませんでした。これからは気をつけます」
なんでしたら毎日アデス様の執務室までご報告に伺っても良いのですよ、私は。わざわざ足を運んで貰うのも申し訳ないですし、それに毎日顔を合わせる口実になりますから。でもきっとそれはご迷惑ですよね。
「それでどうなのです。古文書の通りにできるものなのですか?」
「はい、それはもう驚くほど簡単にできてしまって、私もリオンも驚いたくらいです」
「ゲホン、ゴホン。それじゃオランジュは既に魔法を使えるって言ってるように聞こえるぞ。そうなのか?」
師匠が慌てたように口を挟んできたので慌ててしまう。魔法を使えるのはまだ誰にも話していなかったし、しばらくは秘密にすべきだと決めていたのに。私のバカバカバカ! なんでいつもこうなんだろう。ホント嫌になっちゃう。
でも、そう言えば夕べリオンがそろそろアデス様に全部話してしまった方が良いなんて言いだしてたのよね。その方がアデス様も私達を守りやすくなるし私も活動しやすくなるだろうって。
ぶっちゃけ私もよくよく考えてみれば別に隠す必要もないかなって思うし、まぁひけらかすのは違うだろうけど普通に生活する分には別になんの問題もない気がするし。
それにもし何か問題があればアデス様がきっとバッチリ対策してくれるだろうし、師匠も指摘してくれるだろう。
うん、この際スパッと話してしまおう。やっぱり私に隠し事は無理だ。
「実はお話ししなければならないことがあります。聞いていただけますか?」
「「勿論です」だ」
アデス様も師匠もまるで私が何か言い出すと察していたのかタイミングバッチリの返事が返ってきてちょっと驚きだ。
そんなに聞きたいのなら全部話してしまった方が良いよね。何を話していて何を隠しているかごちゃごちゃになる前に。
そうして私は前世の記憶があることから始まって、今現在に至るまでの洗いざらいを話した。
突然記憶が蘇り古文書が読めたために知識の能力を得たと勘違いされてしまったこと、リオンの練習に付き合って試してみたら聖属性魔法と闇属性魔法を発現できてしまったこと、リオンと私が既にかなりの魔法を使えるようになっていることなど。
もっともこの世界が乙女ゲームの世界であると言うことだけは言えなかった。話したとしてもリオン同様理解できないだろうしね。
「…」
「それじゃオランジュは古代人の記憶を持ってるってことか!?」
アデス様は何かを考えているのかそれとも驚きすぎて言葉もないのか黙り込んだままだが、師匠は何やら大げさに驚いている。
「そういう事になりますかね」
「弟もか?」
「いえ、リオンには前世の記憶はないようですよ」
「それじゃなんで…」
リオンも特別な能力を授かったのかと言いたいんですね。それって院長にも言われた疑問なので分かります。
でも答えられないんですよ、そこは。だって聞いても理解できないでしょう。それに私はリオン以外に頭おかしい扱いされたくない。
「もう一つ聞かせてくれ。おまえは前世でも魔法を使ってたのか?」
「えっと、使ってみたいとは思ってました」
使えるものなら魔法も念能力も使えるようになってみたかったよ、本当に。なんなら超能力と呼ばれる何か特別な能力が自分にないかと願ったこともあったよ。
それに今さら古文書が創作物だなんて話をしたら、私とリオンが魔法を習得できたことに矛盾が生じるからそこは敢えて言わないことにする。
想像はいつか実現すると信じていたいし、この世界なら可能だと私達がすでに実証しているしね。
「そうか」
師匠は私の答えに満足したのかすべてを理解したかのように呟いた。
「想像もしてもいなかった話を聞いて少し驚いてしまいました。ですがオランジュこれだけは信じてください。私はこれからも私を信じてこのような大事な話をしてくれたあなた達の味方で居続けます。そしてこれからの対策を練り直しますので少し私に時間をください」
それってしばらくアデス様に会えなくなると言うことですか? それは嫌です。寂しくなるじゃないですか。明日からの頑張る原動力をどうしたらいいのかどうか教えてください…。
「その間俺がしっかりコイツを見張っておくから安心しろ」
「なんですかそれ。見張られなくちゃいけないことなんて私はしませんよ!」
「おまえは突然何をしだすか分からないから危なっかしいんだよ。もっと自覚しろ」
そりゃぁ思いつきで動いてしまうことは多いけど、危険を招いたことなんて無いと思うよ。多分…。
「それではジャッジ、頼みましたよ」
そう言い残し研究室から去って行くアデス様の後ろ姿を見詰めながら、私は少しだけすべて話してしまったことを後悔するのだった。




