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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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告白2


「おいオランジュ、おまえは師匠である俺には古文書の解説はしないのにアデスにはするんだな。それに、何か隠しごとをしているだろう。俺の目を誤魔化せると思うなよ」


いつの間にジャッジさんが私の師匠になったんだろう? それに隠し事をしてるなんてどうして思ったんだろう? ちょっとぉ、突然不安にさせるようなこと言わないで欲しいよ。


「アデス様は忙しい方なんです。だからお手伝いしないといけないじゃないですか。当然のことですよ。それにジャッジさんは私が手伝わなくても順調に古文書の解読を進めているのだから大丈夫でしょう」


時々はあれこれ解説を頼まれたり意見を求められたりして、知らない振りをしながら話し合うことも多いが、ジャッジさんは自分なりの解釈でそこそこ解読を進めている。


最近では例の戦闘技術指導解説書の主人公の友達が愛用していたスケートボードの開発を別の研究者と一緒に始めていたりして割と忙しそうだ。


それもかなりハイテクな物だと勘違いしているようなので、もしかしたらバック・トゥ・ザ・フューチャーに登場したような浮遊型のスケートボードができあがるかもしれないと私は何気に期待している。


「オランジュ、おまえ案外可愛いヤツだな。俺を師匠と呼ぶなら黙っててやるぞ」


「何をですか?」


誰に何を黙ってて欲しいと言うのかまったく意味が分からない。ジャッジさんのこういうところが苦手だ。


私が本当は知識の能力を得たのでは無く聖属性魔法と闇属性魔法の能力を得たなんてことはジャッジさんは知る筈もないし、魔法を使えるなんて当然バレている筈もない。


他に誰かにバレて困ることなんて無かった筈。

最近は厨房に盗み食い目的で忍び込むなんてことしなくてもいいほどご飯には困ってないし、ご飯抜きの罰も受けていない。


何しろ研究所の食事は作り置きの料理が多彩に用意されていて、何時に食堂に行こうがいつでもお腹いっぱい食べられるし、私をご飯抜きの罰で叱る存在は居ないのだから。


それに夜は魔力枯渇まで魔法を使うから朝までぐっすりで、夜中にこっそりリオンと部屋を抜け出すなんて余裕も無い。


孤児院での生活を思えばここ研究所の生活は天国のようで今のところなんの不満も無く、本当にジャッジさんが何を言っているのか意味が分からない。


「うりうり、おまえ実はアデスに惚れてるだろう? 可愛いヤツだ、初恋か?」


「そんなんじゃありません!」


「隠しても俺にはバレバレだぞ。だが、しかぁし、ヤツは妻帯者だ、諦めろ。なんなら今度とっても美人な奥さんに会わせてやる!」


知ってるし…。

それにホント何言ってんだろうこの人は。それも自慢気に私を指差して人の傷を抉るなや。


「結構です!!」


「まぁそんなに怒るなって。俺をこれから師匠と呼べば俺も黙っていてやると言ってるんだ、文句は無いだろう?」


「なんでそんなに師匠と呼ばせたいのかまったく意味が分かりません。私はジャッジさんの助手で、弟子になったつもりは無いです」


今私はジャッジさんの臨時の弟子でしかない。そう、あくまでも臨時のだ。師弟関係なんて結んだ覚えも無い。


「この古文書に出てくるこの師匠っヤツはなんとなく俺に似ている気がしないか? フフフ、それに俺が教えたことで弟子が強くなって行くってなんとも気分が良さそうじゃないか。だから俺も助手じゃ無くて弟子が欲しくなったんだよ。どうだ、参ったか!」


そんな理由? ってか、どうだとか参ったかと言われても反応に困るよ。なんとなく気持ちが分かるし…。


「はぁ…。仕方ないですねぇ。分かりました。これからは師匠と呼ばせていただきます。私が師匠に教わることなんて何も無いと思いますけどね」


「一言多いぞオランジュ。それにこれから先俺に教わることは多いと思うぞ」


「そうですか?」


「おまえ自分が案外常識知らずなのを理解してないな。さっきも折角俺が助け船を出してやったのに迂闊にアデスに返事しやがって、俺はハラハラしたぞ」


「な、何をですか?」


やめてよそんなもったい付けた言い方するの。いったい自分が何をやらかしたのかと考えると冷や汗が吹き出るじゃない。


「一介の孤児が何でレポートなんて言葉知ってるんだ? それにおまえがそんなに詳しく古文書を解読しているとも思えんし、そんな時間も無かった筈だ。アデスは騙せても始終一緒に居る俺を騙せると思うなよ」


かなり真剣な顔でズバリと言われてしまうと身も蓋もなく、なにも言い返す事ができない。本当にその通り過ぎる。


「…」


「まぁいい。おまえが話さないなら無理に聞くつもりはないが、気をつけないと同じ疑問を抱くヤツは出てくるだろうしアデスも騙せなくなるぞ。大人しく俺の助言は聞いておけ」


「あ、ありがとうございます」


オランジュは初めてジャッジの鋭さを感じ、なんとなく尊敬し始めるのだった。



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