アデスside2
「アデス様大変です」
「どうしたルヴァ。おまえがそのように慌てるなど珍しいな」
「これが慌てずにいられますか。私も報告だけでは到底信じられないのですが、あの双子が何やら森で秘密裏に魔法の練習をしているようです」
「なに。魔法だと!?」
魔法は学園を優秀な成績で卒業すると入れる学院で習わなければ使えないとされている古代から伝わる神秘の技法だ。
そしてこの世界で普通に生活するには必要とされてはいないが、遺跡に入り魔物やオートマターを倒すためには絶対に必要とする力だった。なので現在は学院で魔法を習得し卒業したものだけが遺跡に入るのを許されている。
逆に言うと魔法を習得するのはそれほど大変で、また魔法を使うのには厳しい決まりがあり、遺跡以外で魔法を使うには申請も必要で街中でそう簡単に使えるものではなかった。
「影がしっかりと確認したとのことです」
「それは問題だな。しかし誰の目にも留まらぬと考えての森での練習なのか? いや、そもそもなぜあの二人は魔法を知っている? そしてなぜ使えるのだ」
アデスは双子の秘密の一端を垣間見た気がした。しかしどう考えてみてもアデスの欲しい答えは見つからない。
そもそもただの孤児が魔法を知っているとは到底思えなかった。魔法の存在自体一般の市民は知らず、すべては奇跡として扱われているのだから。
それに魔法を習得するのはそう簡単ではない。自分自身も学院で魔力の存在を確認することに苦労し、結局魔法の習得を諦めたのだから確かだ。
アデスは魔法を習得できていたなら是非遺跡に入り、古代の文明に触れてみたいと思い描いていた一人だった。
なのでまだ幼い双子が魔法の練習をしていること自体本来なら信じられないのだが、不思議とあの二人ならあるいはあり得るのかという思いもありどこかで納得していた。
「それともう一つ信じられない報告がございます」
「これ以上何があるというのだ。もったい付けずに早く言え」
「姉のオランジュが聖属性魔法と闇属性魔法を発現させていたようです」
「な、に……」
アデスは耳を疑った。
オランジュが得た能力は知識の能力では無かったのか?
それにそもそも一人の人間がそんなに複数の能力を得られるものなのか?
知識の能力と聖属性魔法と闇属性魔法の能力者は帝国が有していると情報が入っているが、それは帝国の発した偽情報なのか? だとしたらなんのために?
それからなぜ双子は能力を隠している? 何かを企んでいるのか。あの幼い身で。
即座にあれこれ考えを巡らすが何一つ回答は得られなかった。
「どういたしましょう。これは大問題ですよね。ましてやあのドットマンの耳に入ろうものなら双子がこの先どのように扱われるか心配です」
「せいぜい自分の養子にすると息巻くくらいのことだろう」
「そうなると世間に大々的に公表する事になり即座に帝国に狙われる身となるとは考えませんよね、あの人は…」
「本人は天下を取った気になるだろうが守る術も知識も持ち合わせてはいないからな、簡単に帝国に奪われることになるだろう。そしてその皺寄せは全部私の所へ来る」
「ではどういたしましょうか」
「影に厳重に申しつけろ。この件に関して誰にも悟られることが無いようにしろと」
「それだけで良いのですか?」
「私が直々にもう少し探りを入れてみる。しばらく公務の方が疎かになるが頼めるか?」
「はい、それは勿論お任せください」
「それと帝国への探りにももう少し人員を増やしてくれ。私の所有する影だけで足りぬようなら信じられる者を使ってでも探るんだ。頼んだぞ」
帝国が保有していると公表している能力者が本物なのか、それと双子に対し何か仕掛けてこないかも心配で、アデスは今までに無く焦っていた。
アデスは国がまだそれほど重要視していない二人に自費を使って警護を付けていた。
国から派遣することもできるのだが、そうなると国への報告が義務づけられ双子の扱いが変わることを危惧していたのだ。
しかしこの先二人の抱えた秘密次第ではそうも言っていられなくなるとある種の覚悟を決めていた。
そしてどうやって二人から秘密を聞き出そうかとあれこれと考えを巡らせるのだった。




