アデスside1
「それで能力は確認できたのか?」
アデスは上司であるドットマンと内密に話をしていた。
「はい、古代文字を読めるとのことですので、ただいま研究所で古文書の分類をさせています」
「知識の能力とはその程度のものなのか? 実はそちらが偽物なのではないのか」
「古代文字を読めるだけでなくある程度の理解もできるとのこと、これはまさしく知識の能力だと思われます」
「それでは帝国に居るかの能力者の方が偽物だというのか?」
「それは判断できかねます」
この世界で一番の大国である帝国は世界に一人と言われる特殊能力者を自国で独占しようと裏で動き、他国に能力者が現れると手段を選ばず自国に取り込もうと画策し活動していた。
そして大きく公表されてはいないが、帝国は聖属性魔法能力者と闇属性魔法能力者に知識の能力者を手にしているとされていた。
「癒やしの能力者の方はどうなのだ?」
「教会は先代の聖女の件もあり、かなり慎重になっている様子。教会内のことはいまだに詳しく探れずにいます」
「あっさり攫われた上に酷使され死なれたとなったら教会の立場もないわな。隠すのに必死なのだろう」
先代の聖女は五年前に亡くなったとされていたが、実は帝国に攫われ帝国で酷使されていたのだった。
教会は攫われた事実を隠すために亡くなったと世間に発表し、聖女を救い出そうともしなかったのだ。
「我が国が平和すぎるのです。教会もまさかまた自国に癒やしの能力者が現れるとは思ってもいなかった様子。それで今頃になって対策を考え始めるなど、本当に呆れかえります」
「それでは事実上まだ二人ともはっきりとは能力を確認できていないのだな?」
「はい、今のところは」
「まあ良い、万が一帝国の耳に入れば何があるか分からん。教会にこのまま対処を任せる気もないが、双子であったことは本当に助かったな。お陰で教会に完全に囲われずにすんだ。いずれはこちらに取り入れるチャンスも訪れようよ」
「ドットマンさま、迂闊な発現はお避けください。どこで誰が聞いているやもしれません」
「アデス! おまえが二人を屋敷に引き取り手懐けることさえできていれば儂とてこのように頭を悩ますことも無かったわ。分かっているのか」
「申し訳ございません」
「早急に能力を確認し役に立つのか立たないのかさっさと報告しろ。分かったな」
「はい」
アデスはドットマンの執務室を退出すると自分の執務室へと戻り大きく溜息を吐いた。
「アデス様いかがでしたか?」
「相変わらずだ。ヤツには目先の権力しか見えていない。少しは視野を広げてほしいものだ」
「仕方ありませんよ、あの方はあの地位にしがみつくことしかできないのですから」
アデスの秘書であるルヴァは、公爵家の血筋というだけで今の地位に就いているドットマンを激しく嫌っていた。
「本人は次期宰相の座を狙っているのだ、そう言ってやるな」
「次期宰相はアデス様ではないのですか?」
「私にそんな大役は務まらないよ」
「そんなことは絶対にありません。寧ろ他に務まる方が居るとは思えません」
「そんなことより二人に付けた護衛は大丈夫なのだろうな」
アデスはオランジュとリオンには秘密裏に護衛を付けていた。先代の聖女の件もあって二人の身の安全を考えてだった。
「先代の聖女様の件もありますし教会は信じられませんからね。かなり優秀な影を付けていますのでご安心を」
影とは国や高位貴族が契約する優秀な者を集めた隠密集団で、公にできない情報収集や護衛などの仕事を主にしていた。
「ならば良いが、くれぐれも二人には悟られないようにな」
「なぜですか? 寧ろ知らせた方が守りやすくなる気がしますが」
「あの二人はどうも何か秘密を抱えているように思えるのだ。それにあの二人の間に入り信頼を得るのは簡単ではないだろう。ならば陰から見守る方が得策というものだ」
「そういうものですか?」
アデスは双子が何か重大な秘密を抱えていると確信していた。なのでそれがどんな秘密なのか知っておく必要があると少しばかり焦ってもいた。
姉の方はハキハキとものを言うがどうも思慮に欠ける様なので扱いは簡単に思えるが、問題は弟の方だと思っている。
一見姉に流され従わされているように見せているが芯は強く、あれできっと姉を自在に操っていると思われる。自分と同じ匂いがするからなんとなく分かるのだ。
「まぁしばらくは様子見だ。それから予見の能力者の発見も急いでくれ。ルヴァおまえだけが頼りだ。いつも無理ばかり押しつけて申し訳ないが頼んだぞ」
「はい、お任せください」
こうしてオランジュとリオンの知らぬところでも事が動き出しているとは思ってもいないのだった。
すみませんがこれからは更新時間を9:00と15:00に変更させていただきます。と言うかもしかしたら一日に一話しか更新できない日もあるかと思いますがどうぞご了承ください。




