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私の推しはモブ文官  作者: 橘可憐


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古文書解読2


「ちょっと待て。俺に古代文字を教えるのが先だろう」


私はジャッジさんに襟首を掴まれ分類作業から引き戻される。


「く、苦しいじゃない。まったくもぉ。ハァハァ…」


「おまえは俺の助手になったんだ。まずは俺の言うことを聞け」


「えっ、そうなんですか?」


私は助けを求めアデス様に視線を送ると、アデス様はゆっくりと頷いた。


「しばらくはジャッジの助手という扱いになるが私もちょくちょく様子を見に来させて貰うよ。それにもしかしたら他の研究者の手伝いもして貰う事になるかもしれない。ジャッジ、あくまでも臨時だぞ。そこは勘違いするなよ」


あっ、私ってばアデス様の活躍を応援するつもりが、つい日本語書籍を前に興奮して我を忘れてしまっていた。反省反省。


「ジャッジさんの手伝いをするのはアデス様のお役に立つことになりますか?」


「おや、私のことを考えてくれるのですね。ありがとうオランジュ。勿論ですよ。古文書の解明は失われた文明の発見にも繋がりますからね。是非頑張ってください」


ここにある殆どは作り話ですよとは言えず、私はアデス様の笑顔についうっとりしてしまう。

まぁでも考えてみれば日本の文化文明が解明されるってことは間違いないし、それを何にどう繋げるのかはここに居る研究者達の仕事だろうから問題ないよね。


「はい、頑張ります!」


「納得したんならさっそく俺に古代文字の読み方を教えてくれ」


「ですから分類が先ですってば。文字が読めても意味が分からなくては意味ないじゃないですか」


「ここの書物を分類すれば意味が分かるようになるって言うのか。オランジュの言ってることの方が意味分からん」


「私は文字の読み方を教えるとはいいましたが翻訳まではしませんよ。だとしたら先に分類した方が関連性がつながり理解しやすくなるじゃないですか」


「おまえもしかして翻訳までできるのか?」


「読めるってそういう事じゃないんですか」


「いや、文字が分かるってだけだと思っていたぞ」


「あぁぁ、もう、ジャッジさんはそれでも本当に研究者なんですか。それでは聞きますがその手にしている書物にはいったい何が書かれていると思っているのですか?」


「これはあれだ、戦闘技術に関する指導解説書だ」

 

自信ありげにジャン! と私の目の前に突き出される超有名某コミック。


ええ確かにそのコミックを読み、みんな一度は念能力を習得しようと頑張ったと思うよ。それに水見式に挑戦したこともあるだろうが、でもそれ作り話ですよとはさすがに言えないよなぁ…。


だって私は無理だったが、本気で頑張ったら本当に習得できるかもしれないし、習得できた人はいるかもしれないからなぁ…。

っていうかそれ今何巻よ? 私もまた読みたくなってしまったじゃないか。あれから完結したのか?


「戦闘方法の指導書なのは間違いないようですが、そこにはナンバーも書かれているでしょう。それだけではきっと全部は解明できないと思いますよ。ですから分類が先だと私は思うのです」


「なに!? どれがナンバーなんだ。よし、俺も分類を手伝う。まずはこれと同じタイトルの物を探せば良いのだな!」


おぉ、漸く理解してくれたようで良かった良かった。さっさと分類を終わらせて私は読みたい本を片っ端から読むわよ。


それにしてもジャッジさんは戦闘に興味があるのだろうか? けして戦闘向きなタイプには見えないが。まぁその辺はどうでもいいか。


そうして私は書店よろしく書物を分類し整理整頓しながら並べていった。勿論ジャッジさんには数字だけは先に教えてある。


そうして本棚も作って貰い、さながら図書館のようになった研究室内を満足げにジャッジさんと一緒に眺めた。ここまでするのに十二日もかかってしまった。休みながらとはいえ正直疲れたよ。


「どうです、スッキリしたでしょう? これで解読にも力が入りますね」


これから私はこの研究室で読書三昧できるのよね。


「考えたんだがな、オランジュおまえ俺にこの古文書を読んで聞かせろ」


「それってもしかして翻訳しながらってことですか?」


「そうだ。おまえは文字を読めるだけでなく意味も分かるのだろう。ならば俺に理解できるように読んで聞かせてくれ」


まさかそのコミック誌を翻訳しながら音読することになるなんて思ってもいなかった。それってかなり大変な作業だよ多分。それに何より読み聞かせなんて恥ずかしいよ。戦闘シーンはどうしたらいいか分からないし。


今さらながら文字が読めるだけだと言い張ればよかったと後悔しても遅いよな…。


「約束通り文字の読み方を教えます。それになんなら辞書の翻訳も手伝います。だから読み聞かせは勘弁してください」


「なぜだ!? 俺に協力する気が無いということか?」


「答えが簡単に分かってしまったら何よりジャッジさんのためにはならないじゃないですか。解明を手がけての研究じゃないのですか。それに私も全部を正しく理解できる訳ではないし他にやりたいこともあります。それに何より私はずっとジャッジさんの助手をしてられませんよ」


今さらだけれどこれで上手く誤魔化せただろうか? まぁ事実専門書とか読まされても意味までは理解できないし嘘は言っていない。だからどうかこれで納得してください。


「……仕方ない。ではその辞書の翻訳はオランジュに任せる。取り敢えず文字の読み方を教えてくれ」


「マジかぁ」


考えてみたら辞書の翻訳ってもの凄く大変な作業だよね。どうして手伝うなんて口にしてしまったのだろうと後悔してももう遅い。

それでもジャッジさんなりに納得してくれたのだから私もここは譲歩すべきだよね。


私はひらがなカタカナの五十音表を作りジャッジさんに渡し、漢字は読めないことにして辞書の翻訳作業に入るのだった。



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