プロローグ1
本作品に興味を持っていただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけると幸いです。
あまり売れることはなかったが極一部のマニアが熱狂的になった乙女ゲームがあった。
まず主人公をショタ系男子か可憐な女子か選べ、攻略対象者は王子に王女に未来の騎士に神官候補に貴族の子息令嬢に将来有望な有能実力者と性別を選ばず幅広く共通で、カップリングは王道からBL百合と何でもあり。
その上カップリングに対するエンディングは、バッドエンドからお友達エンドに駆け落ちエンドにトゥルーエンドと多彩だったので、当然そのパターンの多さからストーリーの数も多く全部をコンプリートするのは至難の業と言えたのもこのゲームの不人気の理由となっていた。
しかし私はその至難の業と言われた全ストーリーを攻略した。
すべてのスチルを手に入れ、ゲームの隅から隅まで確認し、ゲームでは描かれなかったサブストーリーまでも妄想で埋めていった。
なぜなら私の推しはストーリー上では名前もない出番も少ないただのモブ文官様だったから。
孤児である主人公が特別な力を目覚めさせたことから王家の庇護を受けることになるのだが、その時に迎えに来てくれるのがその文官様だった。
私はまずロン毛で垂れ目でキリリ眉に薄い唇というその容姿に目を奪われ、次にパイロットの制服を連想させるスッキリとした貴族服(?)に銀縁眼鏡が完璧に似合うその均整の取れたスマートなスタイルにうっとりし、そして全体的に漂う知的で尚且つ温和な雰囲気についには陥落していた。
なので当然ゲーム内では声もないはずのモブ文官様の声が私の脳内にははっきりと響いていた。それはもう色気たっぷりの穏やかで艶やかなハイバリトンボイスで。
王の代理として重要な役目を仰せつかるくらいだからきっとかなり有能な文官なのは間違いないし、それに多分身分だって低い訳がない。そんな将来有望な逸材がどうしてモブなのか私にはまったくもって理解できない。
世の乙女ゲームには攻略対象として教師枠があったりするのだから、私としては多少年齢が上でもそこは是非攻略対象に加えて欲しかった。
それにそんな文官様はまだ幼い主人公にはとても優しかったが、きっと悪事を企む者には非情となるだろう。できることなら文官様の冷酷無比な表情も見てみたいと私の妄想は留まることを知らず、そうして私は次に文官様がどこで登場するのか確認せずにはいられなくなり、気付けばいつの間にか全ストーリーを攻略していた。
しかし残念なことに文官様が次に台詞を持って登場することは一度も無かった。
だが私の妄想ではこのシーンの隅には絶対居るはずと思える場面はいくつかあったので、けして努力は無駄になることはなく、ぶっちゃけ用意されたストーリーにはあまり熱中することなど無く、攻略対象者に食指が動くことも一切なかったが、それなりには楽しめたゲームだった。
そしてなぜ私がそんな乙女ゲームのことを今さら思い出しているかと言えば、どうやら私はその乙女ゲームの世界に転生しているようだと気付いたからだった。
本日は四話更新します。他にも書きたいものがあるのでサクサクと書き上げる予定ですが、作者のモチベーションに繋がりますので、よろしければ評価・ブックマーク・いいね・感想などなどいただけると幸いです。




