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KBIアストラル  作者: 一二三ケルプ
Episode #1 コード・ゼロ
1/20

1 地下トンネル

 そこは――真っ暗な場所だった。

 街なかにある、現在はまだ整備中の地下トンネル。


 その中を、一人の大学生が歩いている。

 彼・飯田いいだ隆司たかしは、とある動画共有プラットフォームの配信者だった。

 禁忌きんきと呼ばれている場所に一人で侵入。

 その動画を配信し、オカルトマニアの支持を集めている。


「いやぁ、どうもこんにちは。今日はですね、なんとあのうぐいすみさきちょうにあります、地下トンネルに来ております。えぇ、もちろん一人ぽっちです」


 軽いトークを繰り広げながら、彼はトンネルの奥へと進んでいく。

 懐中電灯が照らす闇の中、カツーンカツーンという彼の足音だけがひびいている。


「いや、ここはですね、いわゆる『雨水うすい貯留管ちょりゅうかん』ってとこなんですよ。現在、工事中。わかりますかね、雨水貯留管?」


 地下トンネルの四方に、彼が懐中電灯を向けていく。

 円筒えんとうがたのコンクリートの壁が、ずっと向こうまで続いていた。

 その先は――やはり闇だ。


「ほら、大雨が降った時とか、洪水になったらヤバいでしょ? そういったことを想定して、ここに一時的に雨水をためるんです。非常に重要な場所なんですよ、ここ」


 周囲を撮影しながら、彼はさらに奥へと進んでいく。

 途中、狭い通路を発見し、そちらに歩く方向を変えた。


「こっちにも行けますね。中は――ちょっと迷路っぽいって言うか――とにかく暗いです。闇が濃厚のうこうで、懐中電灯の光が吸い込まれていくような気がします」


 足音が、さっきより大きくひびきはじめる。

 同時に、彼の息づかいも少し荒くなってきた。


「空気が、薄くなってきました。ところどころに水たまりがあります。これは、今までで一番ヤバい感じです。工事で生き埋めになった人の霊とかいるんでしょうか?」


 そこで――彼が突然、歩みを止める。

 懐中電灯とカメラが、地下トンネルのさらに奥へと向けられた。


「い、今……何かが動いたような気がします……き、気のせいですかね?」


 立ち止まったまま、彼は四方を照らし続ける。

 コンクリートの壁が、静かに彼を見つめていた。


「でも……たしかに今、少し先の通路を、誰かが横切った気がしたんですよ……ホームレスの方でしょうか? まさか地底人なんてことはないと思いますが……」


 ふたたび、彼は歩きはじめる。


「でも地底人がいても、まぁ、不思議ではないのかもしれません。なんと言っても、ここは鶯岬町。ついこの間も、海側でUFOが撮影され、ニュースになってました」


 タッ!


 その時――誰かが素早く、前方をダッシュしたような音が聞こえた。

 あわてて彼が、そちらに懐中電灯を向ける。


「い、今、マ、マジで何か通り過ぎませんでした? いや、冗談ではなく……」


 彼の呼吸音が、さらに激しくなってくる。


「このトンネルは、海に近い河川かせんに通じています。ってことは……今、通り過ぎたのは、マジで海底人である可能性も……」


 彼は、さらに奥へと進んでいく。

 自分のチャンネルの、再生回数を上げるために。


「みなさんもご存知の通り、この鶯岬町は昔からオカルトのメッカです。UFO、UMA、幽霊。もう何十年も前から、そんな話題に事欠かない町であり――」


 またしても、彼がそこで足を止める。

 今度は、ちょっとフツーじゃない止まり方だった。

 彼の声が、急に小さくなる。


「い、いや、ちょっと待ってください。これ、マジかもしんないです。少し先の方に……人影が見えます。人かどうかはわかりませんが、人のカタチをしています」


 彼が、そちらにカメラを向ける。

 たしかに、彼が映した先には人影のようなものが立っていた。


 身長からすると、大人の男性くらい?

 ボンヤリとしたカメラのライトを反射し、全身がわずかに光っている。

 ウロコっぽいと言うか……それに似た素材の服を着ている?


「か、確実に、誰かがいます……トンネルの点検に来た職員の方には見えません。細身です。男性っぽいですけど……体のラインは女性っぽくもあります……」


 ゴクリと、彼がツバを飲み込む。


「し、しばらく観察してみましょう……ひょっとしたら、マジで海底人かも……」


 カメラを構えなおし、彼が人影にフォーカスを合わせようとする。

 その瞬間――時間が止まった。

 その人影が、いきなり彼の目の前に立っていたのだ。


 足音は、まったくしなかった。

 まるで瞬間移動でもしたかのように、奇怪な生物が彼の目の前に現れる。


 身長が高すぎて、カメラにはそいつの腹部しか映らない。

 ネチャネチャとしたその生物のお腹には、ビッシリとしたウロコのようなものが広がっていた。


「う、うわああああああああああああああああああああ!」


 彼の叫び声が、地下トンネル内にひびきわたっていく。

 同時に、カメラが床に落下した。

 その瞬間、おそらく彼は昏倒したのだろう。


 最後にカメラに映ったのは、缶詰のような円筒形の物体だった。

 倒れた拍子に、彼がカメラといっしょに落としたのだ。


 謎の生物が、カギ爪がついた細い指先で、その缶を拾いあげる。

 確実に、見たこともない生物の手だった。

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