9. 白馬に乗った不審者
白馬に乗った王子様があらわれた!
恋に落ちる
▷たたかう
逃げる
仲間にする
「なんでだよ!? 恋に落ちろよ! お前も乙女だろ」
「だって、ユニコーンに乗った魔導士だぞ? 国家の脅威でしかないぞ」
「もしくは不審者でやんすね」
プロジェクトラブコメ。
この作戦は、そう名付けられた。シンプルだろ?
王の勅命となった、このプロジェクト。
女騎士が恋に落ちてくれないと、国家滅亡の危機なんだが。
「ほらほら、遊んでないで、オリハルコンを掘りなー。ミスリルも見つかったよ」
「ユニコーンをトロッコ代わりにしよう」
僕達は、母さんが見つけたオリハルコンの鉱床を掘削中だ。
オリハルコンの鉱床には魔物や神獣が棲み着くそうだ。
ドラゴンは狩ってしまったが、ユニコーンはテイムしたよ。
ヴァンパイアは剣にしちゃったんだっけ?
「こいつのツノもレアアイテムなんだよね?」
「そうだけど、折ったらタダの白馬だよ。価値が下がる」
「むむっ。それは判断に悩むね」
「もっと他の事で悩んで欲しいんでやんすがー」
そうだった。
このプロジェクトの根幹を成す「僕が男」っていう前提が崩壊したのだ。
僕は、メンタルが乙女の男の娘だったのだ。
性同一性障害のはずが、一周回ってメンタル通り乙女だった。
だから、ユニコーンにも乗れるのだけど。
このパーティ全員ユニコーンに乗れる。
どうやったら、ここからラブコメに発展するんだろうか?
「実は、女騎士ちゃんは男なんじゃないの?」
「バカ言うな。男が女騎士になれるものか」
そりゃそうだ。
でも、男にしかなれない魔導士になってた僕は乙女。
国の人事担当は何してんの?
「性別で差別すんなって最近うるさいから。チェック出来ないんす」
「ややこしい世の中だなあ」
男女同権ってやつかい?
そりゃ結構。
「そうは言ってもなあ。魔導士と女騎士がツガイになれないんじゃなあ」
「ホントに、魔導士と女騎士を組ませるのは、ツガイにするためなのか?」
「古代の記録だと、そうなんすけど」
こいつ、1万2千年前の建国以来、ずっと国王のクセに。
自分で決めた制度を覚えていない。
無理もないかな。
そんな昔の事、覚えてないよね。
僕だって、昨日何食べたかも覚えてない。
「いや、さすがにドラゴンの肝食ったのは、忘れんなよ」
そうだった。
国家の心配をする前に、まずは我が身だよ。
ドラゴンの肝を食べた僕達は不老不死になったのだ。
永遠の命を支えるだけの経済力が必要なんだ。
オリハルコンを、せっせと掘るよー。
「これだけあれば、一生安泰かもね」
「そりゃ無理でしょ。だって永遠の命なんだよ」
「お前には、経済も教えておくべきだったかねえ」
母さんはそんな事を言うけど。
母さんに教わったのは「魔女の魔法を人前で使うな」だけだ。
経済の事なら、前世で学んだよ。異世界のだけど。
「株とか米相場で運用するのかな?」
「なんだ知ってるのかい。でも、もっと確実に稼げる商売がある。お金はお金を生むんだ」
「へえ? 何かな?」
通貨なら、この辺は全て帝国が支配したから、為替差益なんて無いよ。
僕らの国は、王様がいるのに、帝国なんだよ。
武力上等の暴力国家だから。
「金貸しだよ。年1割程度の金利でボロ儲けさ」
「どういう仕組なの?」
ボロ儲けするなら、10日で5割の金利とかじゃないの?
「元金を返済させないのさ。金利にも金利がかかるように仕向けるんだ」
「うわ、悪魔の発明。まさに魔女」
いや? それって前世の知識として僕が教えたやつじゃん。
「キングちゃん、これって違法?」
「騙される奴が悪いっす」
この国は、実力主義だからね。
騙される奴が悪い。
殺される奴が悪い。
支配される奴が悪い。
何事もそんな感じ。
少子幼齢化も当然なのでは?
そんなガールズトークをしながらでも、オリハルコンはズンズン掘って行くよ。
僕と母さんの魔法と、女騎士ちゃんの怪力でね。
奴隷のキングちゃんは、さほど役に立ってないね。
「キングちゃんてなんですか。あっし王女でやんすよ」
「じゃあ、プリンセスだ。プリンちゃんだな」
「なんでもいいっすよ、もう」
「おい、俺の事も名前で呼べよ。スズメだぞ」
「まあ、待ちなさいよ」
罵り合っていたのに、いつの間にか名前で呼び合っている。
それが、ラブコメの基本なんだぞ。
「ミーナの言う事は分からん」
「いきなり名前で呼ぶなよ」
女騎士は情緒を理解しないな。
戦闘マシーンっていうか、兵器そのものだもんなあ。
「なあ、もう家畜みたいに繁殖すりゃいいんじゃないかい?」
母さんも情緒を理解しないなあ。
そもそも、子作りを作業として捉えようにも、手順を知らないのだ。
恋愛感情が盛り上がって、自然とそうなるのを待つしか無いでしょ?
「やっぱり教育を間違ったねえ」
そういう母さんも、教えられる知識は無い。
「ラブコメと言えば、ハーレムが基本だろ」
なんて言って、このパーティに参加してきた。
確かにね?
ハーレムもラブコメの基本だよ。
でも、全員乙女のハーレムって何だい?
僕は大いにアリだと思うよ。
でも、子供は出来ないでしょ。
「なあ、子供くらい、魔法で作れないのかい?」
「そんな魔法は知らないなあ」
「王都に戻って魔導書を調べてみるかい?」
「いや、王都の魔導書なら、僕があらかた読んだ」
僕は、これでも勉強熱心なんだよ。
決して魔導書がラノベみたいな書物だったから、ハマったワケじゃないんだ。
イラスト入りで、すごくおもしろかったよ。
「魔導書なら。王国に行けば、もっとあるでやんす」
「王国? そこはもう占領済みなのかな?」
「お前はものを知らんな。王国は三大列強のひとつだ」
「そうなんだ」
だったら、行くのは難しいのかな?
「どうでやんしょ。あそこは魔法少女隊が強過ぎて、潜入工作員も帰って来ないでやんす」
「ここからなら近いよ。行ってみるかい?」
そうなんだ。
母さんも方向音痴だから、あてにはならないんだけど。
「でもその前に、オリハルコンとミスリルを掘り尽くすんだね」
「棲み着いてる神獣の駆除もするでやんす。野に出してしまったら、国家滅亡の危機」
ラブコメしている場合じゃないでしょ?