8. やっぱり詰んでます
「ラブコメって何だい? そんなのお伽噺だろ」
「僕だってそう思うよ。でも王の勅命なんだ」
さっきまで任務だったのに。
王の勅命に格上げされてしまった。
このポンコツ王女、とうとう自分の身分を隠さなくなった。
「でも、ドラゴンスレイヤーといえば英雄だ。神話の世界だよ。美女を3人もはべらせているんだ。ラブコメのひとつやふたつこなせるんじゃないのかい?」
「美女なあ。まあ、否定はしないけどなあ」
僕が性同一性障害じゃなくても、無理だと思うよ?
女騎士に、王女に、大魔女だよ?
うちひとりは里親だしね? ウサギはドロップキックしないよ?
「それよりもだー、早くドラゴン爵寄越せよキングちゃん」
「この勅命が完了してからっす」
「奴隷のクセに生意気だぞ?」
「奴隷でも王女としての使命だけは曲がりません」
なんかもう、奴隷を奴隷として扱う事に抵抗が無くなってきたよ。
人の倫理感なんて脆いもんだね。
「奴隷に子供産ませるのは合法なんだっけ?」
「違法でーす」
「めんどくせえ法律作ったなあ」
「まったくだー。自分でもそう思うー」
王女が子供を産んでも勅命は完了なのになあ。
こいつの子供なら、騎士になれるでしょ。
「相変わらず難儀な生き方してんなあ。我が娘は」
「息子だって言ってんだろ?」
「性同一性障害ってやつかー」
いやそうだと思うけどね?
僕は自分を女だと思ってる男だよ。
「違うんだなー」
「何が?」
「あんたは、自分を女だと思っている男の娘なんだなー」
ちょっと待て。
いや、待っても何も変わらんが。
それ一周回って期待通りの位置に着地してない?
「あんたは、尻尾が生えてるだけなんだよ」
「だから、その尻尾が男の証でしょうが」
「違うんだなー。教育間違ったなー」
どういう事?
初等教育なら、他の異世界でも何度も学んだんだよ?
「そういえば、あんたは魔法も異世界留学で学んで来たんだっけー。私、何も教えてないわー」
異世界留学って何ソレって思うじゃないですか?
でも、そのまんまなんだな。
駅前の塾に通う感覚で、異世界に通ってた時期があるのです。
それこそ神話みたいな魔法大戦の世界に。
そこで覚えた魔法は、魔力の理が違うこの世界では使えないんだけどね。
応用と改良には役立っているよ。
「それって、さっきの武士をドログチャにした魔法か?」
「いやー。違うよー。さっきのは枝毛をカットする魔法の応用だよ」
「枝毛をカットする?」
「ハナゲでもいいけど」
「何をどうしたらハナゲカットで山が無くなって、人がドログチャになるんだ?」
「ドミノ倒しって知ってる?」
「知らんなあ」
「あ、将棋倒しなら?」
「え? どういう事?」
どういう事って言われても。
要件定義をサボった案件は、構築時に泥沼になります、って感じだよ。
なーにが、要件定義はバッチリだよ。
現場に行ったら、全然違う事リクエストされたじゃねーか。
しかも、一日で構築して納品する約束って何だよ?
「分からん、という事は分かった。何よりも、そんなキテレツくんに惚れる気がしないってことが良く分かった」
「そうかい。もうどうにもならんね」
その前に、さっきからおかんが言うには、僕は娘だって事だけども?
「実物を見せるワケにもなあ。どうしたもんかなあ」
「尻尾見る?」
「だったらお風呂へ行こうか。裏にあるから」
「いいね」
女騎士もオフロスキー、王女もオフロスキー、おかんもオフロスキー。
みんなオフロスキーだから、世界は平和だね。
「おおっ。不思議な湯だね。真っ黒だよー」
「そうだろ。美肌と若返りの効果があるよ」
「すげえな、この温泉」
「さっき食べたドラゴン肝は、不老不死だねー」
「まじか!?」
「え? 騎士なのに死ねないの?」
「あっしは、何も変わらんでやんすが」
で、なんだっけ? 僕の尻尾だっけ?
「ほら、ちゃんと尻尾がある」
「尻尾だなあ」
「尻尾でやんすなあ」
「尻尾だからね」
ちゃんと、おしりの上から生えてますよ。にょろんっと。
短いから、パンツの中に隠せるし、座る時も邪魔にならない。
「だから尻尾じゃないって、アレ?」
これ尻尾じゃん?
正真正銘の尻尾じゃん?
「あれ?」
「やっと理解したかい?」
何で尻尾生えてるのー、は一旦置いといて。
「女同士でどうやって恋愛するの?」
「それは問題ないだろ?」
「あ、そうか」
問題は、何かと言うならばですよ。
子供が作れません。
「子供は女同士でも作れるの?」
「無理だよ。あんたが居た異世界だと、そんな不思議がまかり通るのかい?」
「通りません」
困ったなー。
肝心な事を知らないまま、何年も生きて来たぞ。
困ったか?
もうどうでも良くない?
「ダメです。王女との約束を破ったら、死刑です」
「死刑にしても死なないんだよ? 不老不死だから」
「あー、そっかー! なんだこいつー! 人選間違ったわー!」
今度こそ、この勅命は詰んだね。