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7. ドラゴン爵

「おい、お前のインチキ魔法で、このおっさんやっつけろよ」

「えー、無茶言うなよ」

「なんだ? さっきので魔力切れたのか?」

「お伽噺じゃないんだ、そんなパラメータは無い。ただお腹減ってやる気無いだけだ」

「なんだそれ。俺は剣が無いとクッコロだと言っただろ?」


「なんだい? 剣があればいいのかい?」


 母さんは、そう言うと、ヴァンパイアのおっさんの頭をむんずと掴んだ。

 まるで、他人の傘を盗もうとする様にね。

 そして、傘を折り畳むように、しゅるるんっとおっさんを剣にしてしまった。


 漆黒でツヤツヤと光る剣。

 カッコいいなあ。

 さすが、リアルチュウニだよ。分かってる。


「え? いや、剣はありがたいけどな? もう敵が居ないぞ?」

「心配すんな。あんたの好きな敵ならうじゃうじゃ出てくるから」


 もしかして。

 オリハルコンの採掘権が発見者に与えられるのって。


「ヤベえのが、うじゃうじゃ貼り付いてるからでやんすよ」


 ああ、やっぱり。


 この物語をラブコメにするのなんて、もう無理でしょ。

 なんで、そんな呪いがかかってるの?

 この世界の創造神が、「異世界ラブコメ」がテーマの文芸賞にでも応募してるの?

 そんなもん一次選考の前に、あらすじだけでポイでしょ。

 今からでも、「異世界キテレツ」にジャンル変更した方がいい。


「あっしは奴隷であってー、非戦闘員なんですけどー」

「参ったな。奴隷の命は守る義務があるんだよなあ」

「そうですよー。あっしが決めた法律ですよー。守ってくださーい」


 うるせえ奴隷だな。国家公務員よりも優遇されてやがる。


「腹減ってるんだけどなあ。そうだ、お前を食ってやろう」

「ひっ! ブヒィと泣きますが、あっしは食用ではありませんぜ」


 嘘だよ。

 例え魔女でもニンゲンは食べない。


「ドラゴンが居そうだよ。がんばりな」

「おー、ドラゴンかー。ホントにオイシイの?」

「さあねえ? 私だってワイバーンくらいしか見た事ないよ」

「じゃあ、ここに居るのマジドラゴン?」

「オリハルコンの鉱床だからねえ。ブラックライトドラゴンくらい居るんじゃないかい?」

「どんなドラゴンなんだそれ」


 うぇいうぇいでぱーりーな感じなの?

 うーん、パーティのイメージが古い。


 しかし、ドラゴン肉か。

 種族によっては、若返ったりするんだっけ?

 19歳から若返りたくはないけどなあ。


 よし。

 魔女は気合と根性!

 魔女じゃねぇわ。男だってば。


「後方支援してやるから。騎士ちゃんやってよ」

「なんだ? 何をしてくれんだ?」

「痛くなーい魔法をかけてやる。死ぬまでやれ」

「そんなものなくても、騎士は死ぬまで戦うぞ?」


 そうだった。

 騎士は死ぬ事が名誉なのだ。

 死ぬために生きている。それが騎士。

 死んでもまた次の人生が始まるしね。

 この死生観が、この国の強さなんだろうな。


「でも、親分はもう死んだらそれっきりっすよ? 騎士をクビになったので」

「だからどうした。死ぬために生きる事に変わらん」


 そうだった。

 スズメは「今度こそ死んだら終わりかも」と思っている騎士だった。

 元から「次があるしー」なんて思ってないんだ。


「強くなった気がすーる魔法、をかけてやろう」

「あほか? 俺は、強い。自分の強さを疑った事など、この1万年間一度も無い」


 そうだった。

 もう何がそうだったのか分からないけど、そうだった。


「おい、漫才は終わりか? ワシ帰ってもいいか?」

「何処に帰るかによる」

「小さき者め。ワシを侮っておるな」

「うるさいな。目に見えるものだけが大きさじゃないぞ」

「なんだと?」


 何だよ、このドラゴン。

 いつからそこで待機してたの?

 さっさと襲って来いよ。

 さては、絶対強者の自信があるんだな?

 根拠の無い自信なら、僕だって負けてないぞ。


「こういう事だよ」

「ぐっ、いって、痛い、痛い痛い! 痛いよー!」


 大きいものを出すと思わせておいて、小さい炎で脳を焼いてやった。

 脳に痛覚は無いと言うんだけどな。どこの神経に作用したんだろうか。


 ああ、こいつ、ろくに打撃を食らった事なんか無いんだな?

 痛みに馴れて無いんだ。


 じゃあ、うるせーから、喉も焼くわ。


「ごひゅっ」


 足の腱に、小石を挟んでやろう。

 

 ドラゴンはうずくまってしまった。


「もう斬れば?」

「どこ斬ればいいんだろう?」

「さあ? 脳じゃない?」


 僕が知る限り、脳が破壊されても死ななかったのはニワトリくらいだ。

 うーん、ドラゴンも似たようなもんかな?


「ドラゴンは尻尾を切り落とせば死ぬよ。その剣ならほころびもせず斬れるはずさ。あんたが雑魚騎士じゃない限りね」

「なんだと?」


 雑魚呼ばわりは、騎士への最大級の侮辱だ。

 ドラゴンの逆鱗よりも先に、スズメの逆鱗に触れてしまった。


「いや、あっさり曲がったけど」

「あんた修行が足りないねえ?」

「殺したからいいだろ?」


 確かに、ドラゴンはピクリとも動かなくなった。

 尻尾の付け根の逆鱗が砕けたからかな?

 尻尾が弱点だなんて、ニンゲンのオスみたいだね。


「さあ、新鮮な内に肝を抜いてしまいな。剣なら直してやるから」

「生で食えるの?」

「生はよしときな」


 スズメは剣で見事に、ドラゴンを三枚に下ろした。

 騎士を廃業したけど、立派なシェフになれるよ、きっと。知らんけど。


「へえ、見事なもんだ。立派な婿になれるよ」

「俺は女だって言ったよな? それにジェンダーロールは差別だって、お前の娘が言ってたぞ」

「僕こそ男だって言ったよね?」


 というわけで、今日も焼き肉だ。

 ドラゴンの肝は小さくて、4人でワケたらほんのちょっとだった。

 肝っ玉が小さいとはー、ドラゴンのくせにー。

 これってドラゴン差別かな?

 ドラゴンロール?


「これで俺も伝説のドラゴンスレイヤーだな」

「そういえばそうだった。王様が爵位くれるんじゃないの」

「そんなの欲しいか? 私と結婚すれば公爵になれるんだが」


 なるほど。

 打算から始まる恋もあるかもね。


「ドラゴンスレイヤーにはドラゴン爵をやってもいいっすが」

「へえ、じゃあ結婚は無しね」

「なんで、俺は振られた気分なんだろうか」


 いいじゃん。ちょっとラブコメっぽかったよ、今のセリフ。

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