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6. 働く魔女

「あー惜しいなあ! この武士が曲がり角の向こうから走って来ていれば!」

「だとしても恋には落ちてないよ」


 確かに、乾パンなら口に咥えてたよ?

 大魔法を行使するとお腹が空くからね。


 それになによりもだ。


 その武士なら、ドログチャになって死んでますよね。


「おい? これ何をしたんだ?」

「聞きたいの?」


 スズメは大きな目を見開いて僕をじーっと見つめている。

 可愛いんだけど、トキメキは無い。

 殺されるのかな? っていうドキドキだけだ。


「あ、やっぱり!」

「ちょっと、母さんいきなり何なの」

「「母さん!?」」


 そんなに驚かなくても。


「お前の母親は、何処に行ったとも分からんと。生き別れじゃなかったのか?」

「え? 気まぐれだからね。何処に行くか分からんのよ、このババア」

「あぁ? 私は確かにババアかも知れないけどね。あんたはどうなんだい」

「僕は、おじいちゃんだよ」

「僕ぅ? まあ、いいや。それよりも、あそこの山使ったのあんただろ? 私が目をつけてたんだけどなあ」

「あー、あの山やっぱり何か埋まってたの? すごいカロリーだったよ」

「まだまだだねえ。修行が足りないよ」


 なんてことだ。

 スズメが隊長に言われてた様な小言を言われてしまった。


「隣の山にもまだ埋まってるから。掘るの手伝いな。そっちのボウズも」

「え? 俺? ボウズじゃない。乙女だぞ」

「どっちでもいい。さっさと来な」


 母さんは来た時は突然現れたのに、山に向かっててくてく歩き出した。

 転移魔法は、さっき僕がやった事よりも多くの代償が必要だからね。

 お腹も空くし、滅多な事では使えない。

 それこそ、もう死ぬかも!? って時だけ。

 

「そんなに慌てる程のものなの? 転移魔法まで使って」

「そんな不思議な魔法はこの世に無いって言ってるだろ? 死角からいきなり現れただけだ」

「え? まさかずっと潜んでたの?」

「そうだよ。野盗が道を塞いでるんだよ? のこのこ出ていく方がおかしい」

「だけど、母さんなら、あんなの一撃じゃないか」

「あのね、その暴力のお陰でどんな目に合ったか知ってるだろ? そういえば、そこの小娘には恨みがあるね」

「ひっ!」


 母さんは昔、魔女を見逃してやる代わりにと、国王から特命を受けた。

 詳しくは語らなかったけど「人前で魔女の魔法は使うな」ときつく言われたっけ。

 国王と言えば、今僕らの奴隷である、このポンコツ王女だね。

 国のトップだから国王って事になっているけど、実際は王女だ。女王と呼ぶべきかね?


「あんた、まだ生きてたのかい。あんたの方が余程魔女じゃないか」

「う、うるさいな。あっしはトシもとらないし、死なないんでやんす」

「あっし? あんたかい? この小娘に妙な呪いかけたの?」

「あ、うん。けつに奴隷の紋彫ってやった」

「これ国王なんだよ。自称は王女だけど。建国当時からこの姿の悪魔だよ。親も居ないし、子供も居ない。おかしな生き物さ」

「あれ? そんな生き物居るの? ああ、女騎士の上位互換って感じ?」

「あんたは王立魔導士なんだっけ? 知ってる世間が狭いね。巫女もそうだよ。あいつはまた別の復活をするゾンビだよ」

「えー、この国おかしい」

「あんたが言うかね?」


 王立魔導士は、女騎士以外とは仕事でも組まない。

 引き籠もりで社交性ゼロだから、パーティにも行かない。

 王の勅命も受けない。

 その上、僕は仲間はずれのはぐれ者。

 世間が狭くなるのも当然だね。


「おい、さっきから話について行けないぞ。お前ら母娘はどうなってるんだ?」

「今、娘ってニュアンスで言わなかった?」

「そんな事は、もうどうでもいいだろ?」


 良くないだろ。

 僕達は、子作りの秘術を探してるんだぞ?

 まさか、この世界は女同士でも子作りが可能なのか?


 間違っているのは僕の方なの?


「母さん。知ってたら教えてくれ。子作りってニンゲンに出来るの?」

「何言ってるんだい? そのちょんまげは、あんたの旦那じゃないのかい?」

「違うよ。こんな戦闘ゴリゴリ女に興味ないよ」

「あんたが言うかい? 何度このセリフ言わせるんだい」


 まるで僕が戦闘モンスターであるかの様に。

 ちょっとあれじゃん。子供の頃に、近所のガキをアレしただけじゃん。

 あの頃は、まだこの世界の加減が分かんなかったんだよ。

 いや、今も分からんな?


「で? この山に何があるんだって?」


 何か掘るなら、早くしないと。日が暮れてしまう。


「オリハルコン」

「まじで!?」


 オリハルコンの鉱床を発見したら、3代先まで遊んで暮らせると言う。

 もっとも、母さんは不老不死の魔女なので、ほんの僅かの間にしか感じないだろうけど。

 ついに、見た目だけは僕よりも若くなってしまった。

 14歳くらいなんだよなあ。19歳とは明らかに違う。

 じじい的な視点では、どっちも一緒だけど、世間の印象では僕の妹にしか見えない。


「この山貰ってんだよね? ポンコツ王女ちゃん」

「え? あぁ、採掘権は発見者にあるから、好きにしてよ」

「じゃあ、さっさと掘れよ、奴隷」

「えー? 分かったでやんすよ。あっし、人選を間違ったのかなあ」


 掘ると言っても、何の道具も無いよ。

 道具が会った所で、オリハルコン掘ってる場合じゃなさそう。


「騒がしいと思って出て来れば、山が無くなっているではないか。直射日光が当たると茹だるんだが?」


 何か地下から出てきちゃったよ。

 これは冬眠中のヴァンパイアって奴かなあ? 


 なんだかなあ。

 僕はハードボイルドなSFにしたいのに。

 どんどんキテレツな異世界ファンタジーになっていく。

 任務的にはラブコメにしないといけないのになあ。

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