28. 男の娘とおまんじゅう
「は? うちに奴隷に食わせるメシはねーんだけど」
魔獣国に生きるニンゲンは、さぞかし強いに違いない。
違いました。
この国ではニンゲンは奴隷なのです。
居酒屋で入店拒否されました。
魔獣国のニンゲンが、魔獣と共存出来るのは、魔獣並みに強いからではなく。
奴隷として使役されているからでした。
「あ? じゃあてめえを食ってやるよ」
「ブヒッ!?」
黙って引き下がるスズメではありませんでした。
ブタ魔獣は食用になるのでしょうか?
食用になるのが魔獣で、ならないのが魔族という説もあります。
「はあ、いやほんと帰ってくださいよぉ」
なんだか、様子がオカシイですね?
奴隷であるはずのニンゲンに怯えていませんか。
「私達は奴隷じゃないよ」
「見た目で判断しているのかしら?」
私達、3人共ジャージです。
猫魔獣との戦闘で、ゴスロリドレスはボロボロになりましたからね。
「確かに、奴隷はそんなボロ着てねえなあ」
どういう事ですかね?
「いやしかし、尻尾生えてないしなあ?」
ニンゲンと魔獣の差は、尻尾の有無なのでしょうか?
尻尾はともかくとして。
私達は、魔国の者ですからね。
ニンゲンだから奴隷ってわけではありませんよ。
魔国は実力主義。
奴隷になるかどうかに種族は関係ありません。
公平なのです。
国が違うのだから、事情が違って当然ですね。
そもそも私達がニンゲンなのか? といえば。
そこからして違う気もします。
「私は魔女だ。この魔女っ子ステッキが見えないのかな?」
「魔女!?」
私は、魔女っ子ステッキをピカピカと光らせてやります。
魔法じゃなくてLEDを内蔵しているんですけどね。
「あ、あの、全裸で土下座した方がよろしいでしょうか!?」
「いや、そんなの求めてないし」
ブタ魔獣が全裸になっても、ブタにしか見えませんし。
「じゃあ、私を食べちゃいますか!?」
「食べないよ。何でよ」
さっきスズメが「てめえを食ってやる」とは言いましたけど。
喋るブタを食べる事に情緒が耐えられませんよ。
でも、お肉になった後なら食べちゃうかな?
「うちには、おまんじゅうと酒しか無いんんですけど」
「それでいいよ」
誰ですかね?
魔獣国に魔女の恐怖を植え付けたのは!?
「おい、あれ魔女だってよ」
「だったら、俺ちょっと挨拶しとこうかな」
「バカやめとけ、気分次第で殺されるぞ」
この国の魔女は一体何をやったんですか?
「恋に落ちる余地は無さそうですわね?」
「それよりも、まんじゅうだけってどういう事だ」
「お酒も飲めませんし、他に行きません事?」
今のアンは6歳児なので、お酒は飲めません。
スズメも16歳くらいなので、やめておくべきでしょうね。
となると、おまんじゅうだけ?
「肉まんもあるよ」
何の肉が入っているかと言えば、ブタ魔獣ではなくブタですよ。
ブタを調理するブタ魔獣。
うーん? そんなもんですかね?
「なあ、この国の奴隷っては貴族って意味なのか?」
「へ? いや、奴隷は奴隷っすけど」
スズメが近くにいた魔獣に話しかけています。
魔女の仲間に話かけられてビクっとなってますね。
「魔女さん。お話聞いて貰っていいっすか?」
「なにかな?」
魔獣達の陳情によると。
この国では奴隷がのさばり過ぎて魔獣の生活を圧迫しているのだとか。
お肉も、こうやってまんじゅうに入れて隠さないと食べられないのだとか。
ニンゲンに取り上げられちゃうから。
なんでも、魔獣王が元ニンゲンのせいか、行き過ぎたニンゲン優遇政策なのだかとか。
「メシがマズイだの、風呂がヌルいだの、奴隷達が好き勝手してまして」
「服だって、ドレスじゃないと嫌だの、朝昼晩で着替えたいだの」
「それホントに奴隷なの?」
立場が逆転してませんか?
ああ、なるほど。
団子屋のタヌキ親父が言ってた「ニンゲン共はこえぇ」ってこういう事ですか。
「ただなあ、魔獣王の野郎が強いんですわ」
「強いのは背後にいる魔族だろ?」
「ああ、あの男か女か分からんヤツな」
「あれって魔獣王の息子らしいぞ」
「なんで三毛猫魔獣の息子が魔族なんだ?」
なんだか、嫌な予感がして来ましたよ?
うちの身内が絡んでませんか?
「魔獣王の棲家って何処よ?」
「やってくれるんで!? 魔女の姉御!」
「お、おう。任せなさいよ」
私は、漆黒の魔女っ子ステッキをギュッと握りしめ、魔獣王の棲家へ向かいました。
「ここが魔獣パレスですわ」
パレスって。
ありきたりな木造一戸建てですけどね。
ここまで居酒屋に居た魔獣達が送ってくれました。
「どうしますの? お得意の放火にします?」
「そんなものは得意じゃないよ」
魔獣達が見守る中、私は玄関を開けて勝手に入って行きます。
「ありゃ? 姉ちゃん。やっぱり来ちゃったか」
黒ゴスのミニスカートの下から、にょろっと尻尾が見えています。
私の弟です。
弟は女の娘というワケではありません。
尻尾を仕舞うためにスカートを履いているのです。
ノーパンではなく越中褌を巻いて。
中性的なイケメンなので、スカートを履いていると女の子にも見えるのです。
本人のメンタルは男です。
こいつの尻尾はおしりから生えてる尻尾ですよ。
前についている方の尻尾がどうだかは知りません。
以前スズメに生えた尻尾は、前に生えただけの尻尾でした。
今、目の前にあるものとおおむね同じ。
魔法はイメージが重要ですからね。
異世界ゲートの力でも、本人がイメージ出来ないものは生えないのでしょう。
今は、尻尾の話はどうでもいいですね。
「どういう事か説明してもらいましょうか?」
話を聞いてやろうかと思ったのですが。
面倒になったので、魔獣王と魔王を魔女っ子ステッキでボコボコにしてやりました。
「やっぱ魔女さんはヤベえっすわー」
魔獣国に恐怖の魔女伝説が新規追加されました。




