25. ぼた餅もおはぎもおいしいのです
「このおはぎは出来そこないだ。俺が本物のおはぎを食わせてやろう」
「こんなものを食わせおって! 女将を呼べ!」
「はあ、これおはぎじゃなくて、ぼた餅だし」
なんだか賑やかなソバ屋があったので、入ってみたよ。
「ぼた餅って何ですの?」
「知らんな。食べてみればいいだろ」
「そうですわね」
「こいつら斬ってもいいんだよ?」
「雑魚でしょ? 捨て置きましょう」
さっき弟に何か言われましたけど、こういう態度では恋愛なんか無理なんでしょうねえ。
「なんだおまえら。誰が雑魚だ? 新聞にあること無いこと書き立ててやるぞ」
「お前らを売れない皿にしてやろうか!」
なんだコイツラ。
ふたりして悪人ヅラしているけど、妙な迫力がありますよ。
皿にしてやるとか言ってますけど、うーん? 魔法を使える魔族ではなさそうですね?
「あ、漆黒の女王様。こいつら食べ物にケチつけて回ってる、この界隈の邪魔者なんですよ」
「なにそのカッコいい二つ名。ジャージの色見てつけたの?」
「そのジャージは酸化した血の色なんでしょ?」
「そういえばそうだったけー? いや、違うよ!? ジャージはちゃんと洗ってるよ」
こっちの世界の私は、どんだけ血に飢えてるんですかねー?
ソバ屋の店員からも、こんな呼ばれ方しちゃってますよ。
それはともかく。
この悪人ヅラ共は、息子が大手新聞記者、父が王室御用達の陶芸家で、どっちもバカ舌なのに、ペンの力と権力にモノを言わせて暴れまわっている有名な悪党父子ですね。
ペンの力は魔国でも強力なんです。なんでも炎上させます。
陶芸家はセンスの無い皿しか焼けないのに、センスの無い太后に気に入られちゃったんですよねー。
なので、そういう背景を怖れて誰もこいつらに手を出せないんですよ。
こいつらがつけあがってる原因の半分は王室にもあるワケですから、いずれ私にも苦情が来ます。
ここで会ったのはチャンスでしょう、始末しておきましょうか。
「お前が、皿になれよ。いや、剣になれば?」
「こんなのナマクラにしかならんぞ」
「だよねー」
はてー、どうしたもんかー?
この物語は、ハードな戦士ものとして始まった風だったのに、ラブコメを目指すという謎展開になり、すっかりファンタジーコメディになってしまいました。
ラブコメからラブをとってしまえば、コメディしか残らぬのは道理ですね。
元からこんなですかね?
「あらー、このお店のお皿は素敵ねえ」
「母さん!?」
「ちょっと母さん、この皿は何の特徴もないよ」
「お前まで何やってんの。護衛も付けず」
「姉ちゃんが居れば十分でしょ?」
「ついてきてたの?」
あれ?
私、随分と油断してますね? アマテラスにも気付かなかったし。
妹と母が居るのにずっと気づいてませんでした。
いや、元からこんなでしたね。
「アマテラスは?」
「ん? 黒猫の事? そこで板わさ食べてるじゃないの」
「にゃふっ」
猫が板わさ食べながら、大吟醸を冷やでグイグイいってる。
大丈夫なの? あ、猫じゃなくてドラゴンなんだっけ?
「それはそうそうと王室御用達の陶芸家気取りが、って居ない」
「あいつらなら逃げましたわよ」
「王女と太后を見て逃げるとは、要領のいいやつらだわー」
「とにかく飲もうぜ。ここお酒飲むとこだろ?」
「ソバ屋で飲むのもいいね」
そうね。恋愛の先輩がふたりも居るのだ。
ガールズトークで、任務のための情報を仕入れましょう。
あてにはならんけど。
「この天ぷらオイシイですわね? 何のお肉かしら?」
「ドラゴンだよ」
「穴子じゃないの?」
「魔国で養殖しているプラチナバンドドラゴンだよ」
ドラゴンの名称がいちいちどうかしてるなあ。
日本の感覚基準だけどね。
「まさか、こちらの卵焼きは?」
「フェニックスの卵だね」
「養鶏場のニワトリはフェニックスだったかー」
「姉ちゃんがたまに行ってる帝国だと激レア食材なんだっけ?」
「激レアどころじゃないよ。奪い合いで国が滅ぶくらいだよ」
おかしいな?
魔国民は短命だから結婚が早いんじゃなかったのか?
こんなの食べてたら、みんな不老不死で不死身なのでは。
どうであれ、アンも不老不死と不死身の加護を得ちゃいましね。
「魔国民って不死身なの?」
「悪魔の湯もあるしね」
「それって温泉よね? どんな効能なの」
毎日浸かっていれば不老不死になるそうです。
右脳の損傷以外は治せる万病に効く温泉なんだとか。
「治せないのは左脳じゃなかった?」
「そうだったかしら? 母さんどっちもおかしいから」
「王宮のお風呂って、もしかして」
「悪魔の湯だよ。もともとこの辺は温泉地でしょ」
なるほど?
私も妹も年齢の割には若いなって思ってましたよ。
母さんなんて17歳くらいにしか見えないし。
「あれ? でも魔国って少子幼齢化なんじゃ」
「いや? 子供はむしろ増え過ぎてる。だから魔獣国をとりに行ってるんじゃん」
「そうか。帝国の話とごっちゃになってたかな」
「トシとらないからね、幼齢って事はないけど、老人は居ないねえ」
なんてことか。
私は魔国の常識すら知りませんでした。
思えば、魔法の勉強以外していないね。
こっちでは小学校に通ったけど、授業中も魔導書ばかり読んでたわー。
「じゃあ、結婚を急ぐのは何でよ? 戦い大好きで早死にするからだと思ってたんだけど」
「どすけべいだからだよ」
「あ、そう」
妹と母さんのどすけべいは、もっぱら薄い本に向かっているようだけども。
「あんたらの場合は、薄い本で掛け算でしょ。どっちが前かで殺し合いになる」
「最近は、同担の方が問題かなあ?」
「どっちもでいいよ」
個人の趣味は尊重しますけどね?
私には意味が分からないので、理解するのは難しい。
「確かに攻めの反対は受けですわねえ」
「お前、それは騎士として問題発言だぞ?」
「そうですわね。剣を受けてしまうと、刃が痛みますからね」
女騎士の会話の方がまだ分かるなあ。
尊重すべきなのか悩むところだけど。
殺し合いの最中に、剣技として美しいかどうかを気にしてる余裕がよくあるもんだわ。
「お代は120万円だよ」
「ええ!? ソバ屋でボッタクリなんて斬新だなぁ!?」
また始まった。
お会計で店と客が揉めてます。
「アンは遊んできていいよ。ああいうのは、どっち斬っても罪にならんから」
「どっちに正義があるのかしら?」
「見りゃ分かるでしょ?」
「主君の判断に従います。騎士は兵器、自律判断は致しません」
「あれ? 騎士ってそういうシキタリなの? 俺知らんかった」
「スズメさんは、予備校で何を学びましたの!?」
「剣技だけ」
どっちが悪いってなあ。
客の方も暴れたみたいだもんなあ。
さっきから隣で騒がしかった。
まあ、いい悪いじゃないんよね。この国は。
「勝てば官軍って言うけど。テロリストもクーデターに成功すれば英雄なんだよね」
「ワタクシ達は官軍ですわね」
「帝国でも王女配下だし、魔国でも漆黒の女王配下だもんな」
「私が正義だとは到底思えないけどね」
日本での私の故郷では、長州藩の維新の志士達は地元の英雄なのだ、と小学生のうちに
刷り込まれます。
でも、維新の志士はテロリストだし、新選組は地廻りのヤクザ。
客観的に見れば、そういう事だよね。
そういえば、おはぎと言っても、あんことは限らないんでしたっけ?
えごまとか枝豆とか、そういうので包んだのもあります。
ぼた餅と言ったりもしますね。
どっちがオイシイかで争うなんて無益な事ですよ。
きのことたけのこで争うのもよくないですね。
食べ物なら、オイシイが正義。
「王妃としては、どっちでもいいけどね。ただ、さっきの陶芸家は王室御用達から外しておくよ」
「あらあ。じゃあ魔獣国のお皿でも買い付けに行きましょうかねえ」
やっぱり、行っちゃいますか? 魔獣の国へ。




