22. 思い出は全て灰になる
私の実家を焼く火はもう消えてしまった。
大きな家ではないのだ。
一戸建てだけど6畳間ひとつきり。
魔女を隔離するために王宮の外れに建てられた家。
それが私の実家。
小さい頃からずっと住んでいた家。
それが無くなってしまった。
「うちが無くなっちゃってるよ」
「母さん」
ユニコーンに乗って母さんが帰って来た。
後ろにモコモコうさぎ服を着た王女を乗せて。
感傷に浸っている暇は無かったね?
「あー、こりゃまた派手にやったっすねー」
王女はそう言うけど、派手 の一言で済む状況ではないかなあ?
「ミーナさん、大将クビはどこかしら?」
「その辺に埋まってるんじゃないの?」
王立騎士団は増援もやって来たので、ここには300体くらいの死体が折り重なっています。
大将である影武者王子が何処に埋まっている事やら。
魔法を使った索敵は生き物の気配を察知するものなので、死んでしまったら探せません。
ところで、王女の影武者なのに王子ってどういう事ですかね?
この国のトップが王女である事すら秘匿されているから成立するワケですかね。
王女が居る事すら、私も母さんを通してしか知りませんでしたし。
「やっちゃったのは第16王子っすかね?」
「いや、知らんけど。王子ではあったね」
影武者は一体何人居るの?
それが全員、派閥争いしちゃってるんですか?
帝国は、いずれにしても終わりなのでは?
「この国は100年前からこんなもんさ」
「今回は王立魔導士と魔導士学校っていう利権を潰したでやんすから」
だから、こういう手合いでも出て来ると?
100年って何? 帝国は1万2千年前に建国したんじゃなかったの?
まさか、それも御伽噺なの?
「建国してから145年だっけ?」
「163年だったっすかね? 覚えてねっす」
母さんと王女が魔女で長寿命なのは確からしい。
でも100年ちょっとを正確に数えられないのだ。
1万2千年を数えるのは無理でしょうねえ。
女騎士の輪廻転生はどうなんでしょうか。
アンの言う通り御伽噺なのか、それとも国家機密隠蔽のためにアンが嘘をついているのか。
「そういえば女騎士は平気で嘘つくんだっけ?」
「それも任務ですのよ」
「俺は、嘘はつかんぞ」
めんどくせえなあ!?
まあ、それは今はどうでもいいや。
「家無くなっちゃったね? どうする母さん」
「まかさ魔女の家に火を放つ度胸があるとは思わなかったすわー」
「魔導士学校のかわりに魔女学校作るんだってよ」
「そうっす。王立騎士団までごっそり減っちゃったし、これからは魔女育てるっすわ」
「だったら、資金はともかく、大工が足りないだろうねえ」
王宮の敷地内で建築を出来るのは、国家認定の大工さんだけです。
どれだけお金を詰んでも、国の仕事が優先されます。
魔女を隔離する家も国家事業ではあるけども。
「私は、魔女学校に住むよ。あんたは好きにしな」
「まさか母さんが教師やるの?」
「他に魔女が居るのかい? あんたは人に教えるの無理だろ」
「そうだね」
私は理屈優先なので、人に教えるのに向いてません。
生徒の感情を理解出来ないからです。
一方で母さんは感覚優先なので、何言ってるか分からない。
スコーンっとしてバッキーん! とか言われてもねえ?
母さんも教師に向いてないと思う。
「魔女って教えてどうにかなるものですの?」
「ミーナっていう実例があるだろ?」
「私は、母さんから教わってない。異世界留学で学んだよ」
「へぇ。やはり異世界留学にはワタクシもしてみたいですわ」
「じゃあ、早速行こうぜ。結構オモシロイぞ」
「あら、スズメさんのオススメですのね。ますます興味深いですわ」
あんたらは、学びに行くんじゃなくて、クビを狩りたいだけでしょ。
「そんなにクビが欲しいかなあ」
「あら? 欲しいのはクビではありませんわ。勝ち星の証になるなら、尻尾でもよくってよ」
なんだかなあ。
話が下品になってきちゃったね?
乙女の恋は何処行ったの?
国家滅亡の危機を恋する乙女が救うんじゃなかったの?
「あっしも魔女を育てる先生になるでやんすよ」
「乙女の恋作戦はどうすんの?」
「それは継続でお願いしやっす。ただし、3日後には戻って来て欲しいなあ」
また面倒な事態が進展中の模様ですね。
「聖国に魔法少女隊が帰って来たでやんす」
「気まぐれだとは思うけどね。あんたらが聖国の都を燃やしちゃうから」
「そんな、火に集まる虫みたいな」
「あんたも似た様なもんだろ?」
猫耳の魔法少女達なら監獄に収監されてたはずなんだけどなあ。
異世界留学先で。
脱獄しちゃったかあ。
そりゃするだろうけど、どうやって異世界を越えたんだろうか。
「魔法少女隊ってのは戻って来れない世界に居たんじゃないのか?」
「魔国でやんしたか?」
「いや、魔獣国だよ」
「それって異世界留学先の?」
「異世界留学先の私の実家があるのは、魔国。隣がまんじゅう」
魔獣国、通称まんじゅう。
完全にダジャレ。
「留学先は御魔国ですのね」
「魔国ね」
頭に御を付けるのはダメな気がするよ?
「早く行こうぜ。時間がない」
「強制はしないっすけど。3日後でやんすよ」
3日後に何が起きるんだろうねえ。
それまでは異世界に行ってよう。
「おっちゃん。行ってくるよ」
「おう、たまにはおみやげ買って来い」
王女に貰ったスマホのナビで探偵事務所まで迷わず来れました。
おっちゃんは相変わらず。
だらっとしたスウェットを着て、カップラーメン食べてる。
「ミーナさん。こちら殿方ですのよね?」
「そうだね」
「お前の初恋の相手なんだろ? こいつと結婚しろよ」
「お、おまえら、ば、ばかか!?」
こいつらにも乙女回路があるなんて、幻想でしたかね。
何言ってるんですか!?
「帝国って女同士で結婚出来たっけ?」
え? おっちゃん何を言い出すの?
「出来ますわよ。え? 女同士?」
「女同士で良けりゃ結婚すっか? ミーナ」
おう?
私の初恋相手はお姉さんでした?
アディオス、私の初恋。
いや、女同士もいいけどね?
王の勅命で子供作らないとね?
「女同士でも子供作れるの?」
「お前は、魔法の事以外なんも知らんなあ」
いっつもダルダルのスウェット着て、サンダル履きだからさー。
乙女だと思うワケないじゃないの!?
そういえばヒゲは生えてないなあ。
顔は中世的、っていうか何の特徴も無い。
強いて言えば、イケメンと言うよりは美女?
年齢も不詳。
「俺の、この格好が不思議なのか?」
「そうだね」
「素行調査は目立たっちゃダメなんだぞ」
え?
この国の庶民ってそんななの?
みんな、その格好で外うろついてんの?
うーん。
私の乙女回路が、雑魚騎士も雑魚王子もスウェット庶民も嫌だと申しております。
外見よりも中身かも知れんけど、19歳の乙女回路なんて、こんなもんですよ。
はあ。
おっちゃんが、いや、お姉さんが私の全裸に興味無いのは、お姉さんと同じ体だからですよ。
「巨乳か尻尾なら着替えを覗くけどなあ」
「やかましいわ」
魔国で婿探しした方がいいのかなあ?




