21. 因果応報
家に放火されなくて良かった。
不幸中の幸いってやつです。
「迂闊でしたわね。影武者王子の事を忘れておりましたわ」
「何が、敵はもう居ないだ。アホかお前ら」
「あんたも泥酔してたじゃないの」
「うーん、この体は酒に弱いなあ」
前も酒盛りしてたじゃん、王女と旅先で。
学んでないなあ。
私、ダメっ子萌え回路は無いので、不安しか感じません。
それでも、剣以外ポンコッツの女騎士達を責められません。
私も、異世界留学先では酒豪だったので、油断してました。
こっちの世界の体は、酒に弱々でした。
アンも弱々。
泥酔した私達は、あっさり捕まって牢獄の中です。
影武者王子か魔導士派閥の貴族の手先による犯行なのでしょうね。
さすがに牢獄で始まるラブコメは無いかなあ。
「恋なら女の子同士でも出来ますでしょ?」
「そうだけどー」
あれ? なんでコイツはあの茶室に入れたんだ?
アンも邪悪な存在なのでは?
主君と一緒なら入れるって事かな?
いや、だとすると他の女騎士はー?
ああ、そうかアイツらは影武者王子が主君なのか。
今のアンはどうだろうか?
近衛騎士は除名されてたけど。
「アンの主君って今誰なの?」
「もちろん、ミーナですわ」
もちろん、の意味が分からないのだけどー。
そうかー、この女騎士は、もう帝国には仕えてないのかー。
だったら、女騎士の絶滅と共に国家が滅んでも気にしないかー。
「だったら、主君として命じるよ。影武者王子でいいから恋をしなさい」
「嫌ですわ」
「俺も嫌だ」
「今の命令は私もヒドイとは思ったけど、なんでよ?」
「恋は乙女の命ですわ。主君の命令でも曲がりません」
「俺も、最近そんな気がしてきた」
主君のせいで、こんな目に合っても乙女回路は健在ですかー。
だったら、まだ何とかなるかしらね。
「そろそろボンジリやボクサツが迎えに来るでしょ」
「あの子達も泥酔してましたけど、逃げましたものね」
「しかし、神獣に随分な名前つけたもんだな?」
「ボクサツは、あんたの命名でしょ」
にゃーん
「お、アマテラスだ」
「あら、お猫様のサイズですわね?」
「あんた体のサイズが自由自在なんだね?」
「にゃあ」
猫サイズになったアマテラスが、檻の隙間からするんっと入って来ました。
「にゃあ」
「え? 見張りは全員やっつけたから今がチャンスだ?」
「ホントにそんな事言ってますの?」
「いやでも、ここの鍵を咥えて来てるし」
アマテラスの持って来てくれた鍵は、違う鍵でしたけどね。
「まあいいや、こんな鍵なんて魔法にかかれば」
かかれば。
ちょちょいっと。
えーっと、鍵ってどんな構造なんですかね?
「斬るか」
「その剣、どこに隠し持ってましたの!?」
スズメがヴァンパイア刀を、何処からか出しました。
異世界留学で体の中に一体化させる技でも見つけましたかね?
「いや単に背中に隠し持ってただけ」
そういえば、身体検査とかされませんでした。
そういうのはコンプライアンス的に良くないって。
賊は全員男でしたからね。
意識の高い賊で助かったわ。
「ワタクシも持ってますけどね。しかし、この檻の鋼は厳しいかしら?」
「斬れないの?」
「刃こぼれしてしまいます」
この状況でも騎士としての矜持が!
立派ですけども、こういう時は剣を道具扱いするスズメの方が頼もしいですね。
ごっきん
鈍い音がしましたけど、檻は破壊されました。
「ちょっと、やり過ぎじゃないかな」
牢獄の建物が崩壊してしまいました。
重要な支柱ごと破壊しちゃったんだね。
私達の酔いが覚めてなかったら逃げ遅れて生き埋めでしたね。
「証拠隠滅に燃やしておく?」
「放っておきましょう。早く逃げますわよ」
犯罪者集団なのか、正義を代行する騎士なのか。
もう分かりません。
「あーあー」
「因果応報ってやつだなあ」
「異世界留学ですか? それをやるしかありませんわね」
私の実家がゴウゴウと燃えています。
確かに因果応報ですかね。
フェニックスが放火犯を咥えてますね。
放火はフェニックスの仕業ではないようです。
どうであれ私の責任ですけど。
母さん怒るかなあ。
よし、アンの言う通り異世界に逃げよう。
「あ、放火犯なら燃やしていいよ」
「クエー」
今更ですけど。
異世界転生して以来、一体何人の命を奪ったんですかねえ。
食べるワケでもないのに。
「はーっはっは! のこのこ帰って来るとはな!」
「あんた誰」
聞くまでもなく影武者王子ですね。
護衛の王立騎士団をゾロゾロと引き連れています。
女騎士だとアン相手には役に立たない事を学んだのですね。
ですが、純粋な戦闘ならこちらに分があるんじゃないですかね?
相手は、50人足らず。
こっちは、女騎士2人に魔女ひとりですよ?
戦闘の優劣は数では決まりません。質です。
「やっておしまいなさい」
見せる印籠も持ってないので、ただひたすら武力行使するのみです。




