17. 報連殺
「こりゃダメだな。確かに闇討ちは受けじゃないと修行にならん」
ベロベロに酔っ払ったスズメは、大通りで行きずりの剣士を真っ二つにしちゃいました。
ヴァンパイア刀は、この世界2人目の血を吸って大喜びですが、不意打ちなんかしても修行にはなりませんね。
この刀、異世界留学して漆黒から玉虫色に変わっただけで、中身は同じ様です。
そういえば乙女の血じゃなくてもいいのでしょうか?
「巻藁割りみたいなもんだなあ」
天下の往来で、まだ日も高いうちから、生きた巻藁を斬るのは闇討ちとは言いませんね。
辻斬りです。
「そうでもないみたいよ?」
わらわらと腕に覚えのある連中が、私とスズメを取り囲み始めました。
「おうおう、可愛い姉ちゃん連れてんじゃねえか?」
「ソレ寄越せよー」
おっと、私が景品ですか?
これは、ラブコメの王道パターンです!
見事、返り討ちにしたスズメにトゥンク出来るかも!?
「いやでも、この女スットンツルリンだぞ?」
「ああ、それにトシもくってんな」
「贅沢言うな、戦争で若い女は不足してんだ」
「そう言ってもなあ」
「ツラだけはかなりいいぞ」
「そうだなーツラだけな」
「ほんとに女か?」
なんですと!?
「あーあ、やっぱ修行にならねえや」
この世界の魔法は火力が段違いなのです。
ライターどころじゃない、火炎放射器を越える炎だって起こせます。
ひゃっはー! 汚物は消毒でーす!
まとめて黒焦げにしちゃいました。
「でも、スズメが今の私にトキメキを感じたり」
「しないよ。生命の危機なら感じた」
むー、私達やっぱり恋に落ちる運命にないのでは?
酔っ払ってもこんなです。
「あーあー、もうこんなに散らかしちゃって」
「いつもすまんねー」
「ありゃ? ボッスン様ですか。そんな格好してるから痴女かと」
「お前も黒焦げになりたいの?」
王立騎士団の連中です。
こういう死体を片付けるのが彼らのお仕事です。
「この国の騎士は男なのか?」
「そうだよー」
「活きの良いのを見繕って帝国に持って帰ったら?」
「向こうでも男だとは限らないでしょ」
「あ、そうか」
「それに、コイツら雑魚だよ」
「なんだー、じゃあ要らねえ」
こうやって罵ってやっても、襲いかかっては来ません。
まっこと雑魚よのう。
「うーん。お前の事ライバルだと認めてやってもいいぞ。嫁にはせんが」
「どこにライバル要素を感じたの?」
「暴力上等なところ」
そんなに私バーサーカー女ですか?
そうですね。
魔法に目覚めた時に、日本でのストレスをぶつけてスッキリしちゃったので、もうやめられません。
確かに、嫁にしたいとは思わんだろうなあ。
「あー! 血が足りませんよ! むっきー!」
「ラブコメってこんななの?」
「こんなですよ!」
不良ものラブコメなら、ライバル認定は恋の始まり。
このまま、ヤンキー街道を突っ走りますよ。
「たーのもー!」
一気に場面は飛んで、帝国の王立魔導士の寄宿舎です。
「うわ! 魔女が帰って来た!」
「誰が魔女だコラー!」
この魔導士長、散々ムカつく事してくれましたね!
「お前を、撲殺用バットにしてやる!」
「え!?」
かっ飛ばせ! ホムーラン!
私、野球のことはちっとも知りませんけどね。
右中間に痛烈なライナーって感じですよ、今のヒットは。
魔道士長バットが、ボッコとヘコみましたけど。
いいあたりでした。
「なあ、こんなクソ雑魚斬っても刀が痛むだけだぞ」
「その刀は生きてるから、自己修復するけど、確かにつまらんね」
ヴァンパイア刀は、異世界留学で漆黒から玉虫色になってましたが。
こっちに帰って来たらプラチナの如く白い輝きに変化しました。
異世界留学をすると、こういう変化がたまに起こります。
スズメと私は、乙女に戻りました。
私の見た目は、向こうとこっちでほぼ変わらないんですけどね。
スズメは元通り?
いえ、イケメンになっちゃいました。
でも脱衣所で見た限りでは、尻尾はありませんでした。
乙女デス。
完全に、女の息子です。
ラブコメ展開に向けて、一歩前進です。
いえ、後退ですかね?
「おい、ここ王宮に近いんだぞ? こんなに燃やして大丈夫か?」
「大丈夫じゃないね」
小さな火を、どんどん大きくしていくのは、自然の摂理にお任せでいけます。
しかし、ちょっとの水で大きな火を消すのは、どうやっても無理ですねー。
うっかり魔道士の寄宿舎を燃やしちゃいました。
轟々と燃えてまーす。
「バットもボコボコだし、逃げるか」
ボコボコになった血濡れのバットを火の中にぽいっと投げ捨てます。
ぼぼんっ!
あらあ、魔導士長のヤツ、脂身が多いせいですかねー。
火の勢いが増しちゃいました。
「完全に魔女だなあ。これが俺の嫁なの?」
「そろそろ発想を変えるべきかもね」
私達唯一の上司、王女に相談しに行きましょう。
問題を起こしてしまった時は、上司の責任にするのが社会人の常識です。




