15. 異世界園芸
異世界ゲートの手前には脱衣所があります。
「なんで服を脱ぐんだ?」
「ゲートを通ると素っ裸になるから」
銭湯みたいなものですよ。
服をすべて脱いでロッカーにしまいます。
女騎士スズメは、脱ぎ散らかしています。
他に誰も来ないのでいいですけどね。
彼女が脱いだメイド服やパンツを拾い集めます。
女騎士の正装はメイド服なのです。
上質な生地を使い、丁寧な仕立てですが、防刃仕様だったりはしません。
普通のメイド服。
何故、これを着て戦うんだろうか。
「刀は持って行っていいのか?」
「あー、それはヴァンパイアだから持って行けるかも」
異世界には物質は持って行けません、持って帰る事も出来ません。
ゲートを行き来出来るのは、魂とでもいうべきモノだけです。
自我と知識や記憶、そして魔法や剣技などのスキル。
「向こうに行くと、その刀は少し変わると思うよ」
「そりゃいい。こいつ夜になるうるさいんだ」
血を吸わせろー、っと騒ぐそうです。
ヴァンパイアだからね。
ヒトを斬ってやれば血を吸って満足します。
刀にしておくには丁度いい種族ですね。
刀はヴァンパイアの天職かも。
でも、現役の騎士以外に所有されて床の間に飾られちゃうとツライでしょうね。
「僕達も変わっちゃうからね」
僕達の肉体も、ゲートを行き来できない物質なのです。
向こうに行けば、別の肉体に入ります。
年齢も違えば、性別も違います。
もしかしたら、スズメは男になるかも。
それが、今回の異世界留学の目的。
異世界移民式のゲートの場合だと、向こうでは生まれたての赤ちゃんになるよ。
親ガチャに失敗すると悲惨なので、オススメしません。
異世界留学式のゲートの場合も、成人年齢以下に転生すると同じリスクがありますね。
でも、このゲートで行ける異世界なら大丈夫。
赤子か幼児にならない限りはね。
騎士の場合は、赤子や幼児だと刀を使えませんからね。
魔女である僕なら赤子か幼児でも平気かも知れない。
それに、毎回同じ人に転生する仕様だからね。
親ガチャの心配など無用。
「お金も持って行けないんだろ?」
「スズメなら無一文でも大丈夫だよ」
「どういう事だ?」
「欲しいものは暴力で奪っていい世界だから」
「なんだそれ、パラダイスか?」
スズメにとってはパラダイスでしょうね。
並のニンゲンには地獄でしかありません。
こんな異世界ゲートが商売になるわけないですね。
「おっちゃーん。行ってくるよ」
「はいよー、気いつけてな」
小窓からおっちゃんにロッカーの鍵を渡します。
乙女が全裸でいるのに、チラリとも見ませんよ。
自分で言うのも何だけど、結構な美少女だと思うよ?
さあ、スズメと一緒にゲートの向こうへ行きますよ。
見た目、銭湯の暖簾ですけどね。
「もうここは異世界なのか?」
「そうだよ、その辺の服を適当に着てね」
異世界側にも脱衣所があります。
実は、中間にお風呂もあります。
源泉かけ流しの温泉です。
向こうから帰って来た時に、汚れてる事も多いですからね。
入って来た方と反対に抜けて、暖簾をくぐれば、そこは異世界なのです。
全裸で外に出ても別にいいけどね?
全裸だと戦闘力が若干落ちます。
そんなに揺れるモノも無いけどね!
私は、いつものクソダサジャージか、ロックTシャツとジーンズにするか?
「うーん、任務のためだもんなあ」
思い切って、フリフリのゴスロリピンクドレスを着ます。
ああ、弟がビックリするだろうなあ。
「ちょっと、スズメちゃん。メイド服はダメでしょ」
「そうだな、サイズが合ってない」
サイズの問題じゃない。
スズメが、ムキムキマッチョのお兄さんになってます。
強面だけど、なかなかのイケメン。
髪型もポニーテールっていうよりも、武士のちょんまげって風情ですねー。
伝説の尻尾が揺れてますねー。
おしりじゃなくて、前側にぶら下がってます。
「あ、コレってアレか?」
「アレでしょうねえ」
ふたりでしばらくマジマジと見つめます。
「いじっても大丈夫かな?」
「腐ってもげたりするかも」
「やめておこう」
スズメは、真っ黒なジャージを着ました。
イケメンが着れば、何でも許されますね。
トゥンクまで、もう少し。
「あ、あのっ、む、ムラムラすんだけど」
「俺も、なんか落ち着かない気分だぞ」
どうすればこの気持ちが鎮まるのか分かりません。
これは恋する乙女の気持ちですか?
何か違う気がしますよ?
野獣になった気分。
「事故が起きる前に、さっさと行こうぜ?」
「う、うん」
その事故こそが、我々の求めるものである気がしますが。
さっき見た尻尾がボッキリとイっちゃう事故とか起きそうな気がします。
さて、脱衣所を出ると何処に出るのかと言えば。
「あ、姉さん。久しぶりだね」
「おい、私の部屋で何してたんだ」
「姉さんがベッドの下に隠してる薄い本を読んでた」
「それは母さんのだから、持って行っていいよ」
「そうなんだ。王妃がこういうの好きなんだよ」
王妃も腐ってましたか。
それはどうでもいい。
この部屋は、王宮の中にある私の私室です。
ゲートの脱衣所の扉が、この部屋に繋がっています。
その扉から異世界ゲートの脱衣所に行けるのは、向こうから来た者だけ。
そういう魔法の術式が組み込まれているそうです。
母さんの仕事で、未だに私が理解すら出来ない技術です。
「そっちの人誰なの? 姉ちゃんの旦那? 姉ちゃんもスゴイカッコしてっけど」
「旦那なあ。まあそんな様なもんだなあ」
「じゃあ、ご祝儀に領地いる?」
「ずっとこっちに居るわけじゃないし、いらない」
「代官置いとけばいいじゃん」
「あ、そうか。でもいいや。それよりもあんたに教えて欲しい事がある」
「なにかな? 僕、暴力以外はダメだよ。この薄い本も意味分からんし」
「あんた子供居るでしょ。作り方教えて」
「んー、姉にそんな事聞かれてもなあ。弟としては何と答えていいやら」
こいつは、この世界での私の弟。
当代の王様です。
王女を手籠めにして、成り上がりました。
倫理とかモラルとか問うてやらないで下さい。
ここは、そういう世界なのです。
王女も幸せそうですよ。
薄い本貢がれてるしね。
「そもそも子供の作り方なんて知らんのだ」
「じゃあ、どうやってるのさ。側室にも10人以上産ませてるじゃないの」
「んー、魔法で雄しべから雌しべに受粉させたって感じ?」
「あんた園芸好きだもんね。そのイメージかあ」
「姉ちゃんもサボテンくらい育てたら?」
「枯らせる自信しかない」
「そりゃ植物がかわいそうだ」
園芸好きな大魔法使い。
それが私の弟です。
「王宮の植物園欲しいなあ」
それが、動機で国をとりました。
「そうだなあ、男女で酒盛りすると勢いで出来ちゃうらしいよ? 近衛騎士達が、そんな話してた」
「んー、それは試す価値あるのかもなあ」
異世界なのです、倫理感とか問うてはイケマセン。




