12. 恋は戦争
「ここ聖国じゃん」
馬車を引くユニコーンも、女騎士を乗せたペガサスも、自走する猫も。
みんな同じ方向に走るから、王国に向かっているものとばかり思っていたら。
こいつらも方向音痴でした。
僕ら、帝国に帰れないんじゃないの?
「ところで、こいつ猫じゃないだろ?」
「そうだね、ジャガーだね」
「ジャガーか? 漆黒のジャガーなんて居るのか?」
大地を駆けるユニコーンはとても速かった。
マッハ越えそうなくらい速かった。
僕達が不死じゃなかったら、危なかった。
そんなユニコーンにペガサスが並走可能なのは分かる。
でも、猫にそのスピードは無理でしょ。
アマテラスと名付けた猫は、みるみる大きくなって、ついに僕が乗れちゃうくらいのサイズになった。
ヒョウかも知れないし、タイガーかも知れない。
でも、うっひょう! って感じでもないし、じれったいがー、って感じでもない。
不思議なのじゃがー、でジャガーだ。
だいたい猫は寝るのが仕事なんだ。
自らの足で走り回ったりしないでしょ。縄張りだって狭いんだ。
ネコ科ですらないわ。完全に神獣です。
「後は、巨大ロボが欲しいところだね」
「ゴーレムでも作ったらどうだい? オリハルコンで作るとカッコいいよ、きっと」
「それは魅力的。作り方知らんけど」
「私も知らないね」
まずは、オリハルコンで金策だよ。
「これは、帝国が純度を証明する刻印までありますね」
「いくらになるかな?」
「1キロなので、1億円ですね。5キロまでならうちで買います」
「そうなんだー。ちょうど5キロあるからなー」
「5キロで6億出します!」
「うーん、どうする? テラちゃん」
「あんたの好きにしな」
「俺は、6億6千6百万円なら売ってもいいと思う」
「女騎士ちゃんも分かってるね。カッコいい数字が」
オリハルコンは全部で50キロもあるんだけどね。
一度に売却すると値崩れしちゃんだけどー。
「5キロあるなら、7億円出しまっせ!」
「7億7千7百万ならなー」
「いいでしょう! 買いましょう!」
この国の商人はバカなのか?
情報の連携してないの?
相場が存在しないのかな?
最初の提示価格は、どこも似通ってたんだけど。
50キロ全部売れて、66億円になりました。
5キロづつ10軒の商会を回って売ったよ。
「100億円行けたんじゃないのかー?」
「やり過ぎは良くないからね」
それに勝負はコレからなんだから。
「既にやり過ぎでやんすよー。こんな高級スイートに泊まっちゃってー」
「これも作戦の一貫なのだ」
フラッとやって来た旅人が、高級スイートで贅沢している。
スグに聖国中に知れ渡ったよね。
金づるの匂いには敏感なのが商人ってもんよ。
実際、帝国の王女っていうスーパーウルトラ上流階級だしね。
侵略軍だけど。
「あかーん! オリハルコンが大暴落やー!」
「今スグみんな売ってまえー」
なんだ、ちゃんと市場があるんじゃん。
日次でしか価格更新してないんだね。
翌朝から、商人達は大騒ぎだよ。
だって、流通している全量の3割ものオリハルコンが突如市場に出て来ちゃったのだ。
ああ、やっぱりバカなんだね、この国の商人は。
5キロでもどうかしてる量なのに、他を出し抜きたくて、連絡をしなかったんだね。
帝国の刻印の威光も大きかったみたい。
魔法で精錬した時に僕が刻んだものなんだけどね。
純度に偽りはないし、帝国の王女もちゃんと「いいよー」って言ったからね。
偽造ではありませんよ。
「こいつら帝国から来たんちゃうんか?」
とは思わなかったんだね。
敵国に侵略物資を流すはずが無いもんね。
売り浴びせて暴落させておいて、底値で買い取る。
シンプルにそういうやり口だよ。
株式市場なら犯罪かな?
でも、ここは中世の異世界だもん。そんなん知らんがな。
「あのー、すんまへーん。こちらに帝国のやんごと無いお方がお泊りだと聞いたんやけどー」
「それは、私の事かな?」
オリハルコンを売って回った時には、王女ちゃんは同伴していない。
今この場所では、僕達は同席していない。裏からこっそり見てるだけ。
「このままやとオリハルコンの在庫がはけまへんねん」
「ふーん? 帝国にお願いがあるなら、相応の身分の奴が来なさいよ」
「は、はいー!」
えらそうに門前払い。
そろそろ、底値のオリハルコンを買い叩きましょうかね。
66億円でいくら買えるのかなー?
「聖国の聖女様が会談をお望みです、聖宮までお越し頂きたい」
「は? てめえが来いよ」
「は、ははー!」
ついに、聖国のトップまで動き出してしまった。
これは、ホントにやり過ぎたかな?
王国が、暴落したオリハルコンを狙っているらしい。
関税を上げたり、入国審査を遅らせたりで、防御してるみたいだけど。
「何しに来たの?」
「え、あのお願いが、ですね?」
「それなりの態度があるでしょ?」
「え?」
「え、じゃねえ。ブヒィだろ」
誰ですかねー、うちの王女にあんな交渉術を教えちゃったの。
聖女が全裸で土下座してますよ。
うーん、聖女もスットンツルリン。
やはり、巨乳は魔獣なのでしょうか? 神獣よりも希少なファンタジー生物ですかね。
「おい。王女がお前の真似なんかしてる。国際問題だぞ」
「違うよ。あれは女騎士ちゃんが教えた事だよ」
「どうする? 聖女斬っちゃう?」
「なんで、そうなるんだ」
僕達が全員乙女なのだから、男は聖国で調達すればいいじゃない。
って思ってたんですけどね。
聖国は、トップの聖女はもちろん、国家の重鎮がみんな女なんですよ。
使えねえ。
もうこんな国要らないんだけど。
はやく王国行こ?
「この国のオリハルコン全部買ってあげてもいいよ?」
「いかほどで?」
「50億円かな」
「あ、ありがとうざいます。なんとか国家財政を破綻させずに済みますー!」
「哀れだから、侵略はやめてあげるよー」
「ありがとうございます」
なんでも、たった3日で国家の財政までピンチに。
国債の担保としてオリハルコンを抱え込んでたんだってさ。
重要戦略物資が暴落した影響で、王国に軍部が丸っと亡命しちゃったんだってー。
クーデターを起こしてくれれば聖騎士団が戦えたのにね。
聖国は三大列強の中では最弱になってしまった。
もはや列強でもないね。
そのうち、王国に侵略されちゃうでしょ。
「なあ? お前が悪魔にしか見えないんだが。どうやって惚れたらいいんだ?」
「女騎士ちゃんの言うことももっともだね」
僕達は目的を忘れていました。
でも、もう引っ込みがつかないから、王国へも行くよー。




