10. ここは馬小屋じゃないんですけど
「魔法で子供が作れたなら、あんたなんか拾ってないよねえ」
「どういう意味だい?」
ラブコメ要素皆無のまま、僕らの重労働は三ヶ月も続いたよ。
真っ黒になった顔同士で、どうやったら恋に落ちるというのか?
同じ釜のメシを食って、連帯感は深まったね。いいことだ。
僕の初めての仲間。尊い。
「フェニックスの肉は便利だな。丸焼きにして食べたのに、復活してる」
「これ、携帯食料として最適だね」
鉱床に棲み着いてる魔物も神獣も狩り尽くした。
フェニックスもそうだけど、いろいろと食べたよ。
お陰で食料には困っていない。
水も湧いているしね。
僕の魔法でも水なら出せる。
自分でも飲みたくは無いけどね。
どんな成分なんだか、さっぱり分からないんだ。
この世界では基本魔法だから、原理を理解出来なくても覚えられるし。
「分かった俺が飲んでやる。お前の水を寄越せ」
「なあ、もうちょっと色っぽく、もしくはエロエロで言ってくれよ」
「どうしろって言うんだ」
今のチャンスだったぞー?
恋じゃなくてエロだったけど。
女騎士は、毒見役も躊躇しない。
だから、王都ではこいつらの自炊を禁じているのだけど。
スズメは、僕が作った水をごくごくと飲んだ。
ああ、なんだろう、この背徳感。
ちょっとラブコメに近づいたんじゃない?
違うなあ。
貴重な女騎士を殺害してしまうかも知れない、罪悪感だわ、コレ。
「おい。これ名水なんじゃないか? うまいぞ」
「お? 魔女の水、として売り出しやすか?」
「だから、もっとトキメキのあるネーミングをだな」
ポンコツ王女も乙女の情緒が無い。
奴隷になっちゃう奴だし、おしりの入れ墨も乙女から程遠い。
情緒は関係無いと思うんだけど。
面倒な事になったよ。
「うーん、苦しー、いっそ殺せー」
「クッコロ!」
女騎士のクッコロ、ついに聞きました。
でも、マジでピンチだから、トキメキも無い。
プリンとスズメは、ドラゴンの肝を生で食べても平気だったのに。
僕が魔法で作った水を飲んだら、苦しみだしてしまった。
「こいつら置いて行くかい? オリハルコン掘り尽くしちゃったし」
「いや。精製しても50キロもあるんだよ。こいつらが運ばないと誰が運ぶのさ」
「それもそうか。私達は魔女だから非力だもんね」
早くも仲間の連帯感が崩壊寸前。
動かない女騎士なんて、ただの肉の塊だよ。
ポンコツ王女は言わずもがな。
「産まれるー」
「え!? なんだって!?」
確かに、女騎士と王女のお腹が膨らんできている。
コレは伝説の妊娠!?
「ついに、やったか!?」
「それはフラグだって、あんた言ってなかった?」
やったか? と言えば、やってない、というのはお約束でしたね。
「母さんは、出産したことないの?」
「産んだことも無けりゃ、立ち合った事もないよ。実子が居れば、あんたなんか拾ってないよ」
「だから、どういう意味だい?」
そうだね?
僕だって尻尾の生えた赤ちゃんを拾って育てるかと言えば、躊躇するかな?
「尻尾が生えてるってどういう事だろうか?」
改めて、自分の尻尾を触ってみる。
短いから、自分では見えないね。
何をしているのかと言えば。
山の中でパンツ下ろしてるワケじゃないよ。
女騎士と王女を風呂に沈めているのだ。
この温泉、骨折まで2~3日で治る程の、強力な効能があるのだ。
お腹が膨らんだ苦しみもやわらぐみたい。
「お湯の中なら、赤ちゃんが産まれても平気な気がする」
「そうかねえ? それよりもあんたの尻尾クサイよ?」
「あれ? なんでだ?」
もしかして、女騎士と王女を妊娠させた事で、用済みになったんだろうか?
やはりこれは尻尾じゃなくて? アレ?
「えいっ」
ブチッと、尻尾を引きちぎってみた。
「痛みもないし、キレイにとれてない?」
「そうだね? でもこれ逆鱗じゃないかい?」
母さんによると、尻尾の抜けた跡に、ドラゴンの逆鱗の様なものがあるらしい。
「僕ってドラゴンだったの?」
「そうかもね」
だったら、ニンゲンを妊娠させちゃって大丈夫なのかな?
抜けた尻尾は、お湯の中で、ドローっと白い液体を吐き出してから、シオシオに萎びてしまった。
んー?
コレって何だったの?
コワイから燃やしてしまおう。
「あ、なんか逆鱗みたいなのも、擦ってたらとれちゃった」
「どれどれ? ありゃ、これは角質だね?」
「どう? キレイになった?」
「ツルンとしてる。もうニンゲンにしか見えない」
ニンゲンにも尻尾が生えてる事はあるらしいよ。
脊椎と直結してるから、抜くのは困難なんだって。
無造作に引きちぎってしまったけど。
今、それを思い出したところでなあ?
「う、うーん」
なんて事だ。
母さんまで苦しみだした。お腹も膨らんじゃった。
ああ、僕は3人の子持ちになるんだね?
双子とか3つ子だったら、もっと子沢山だよ。
「え、うそ。死んじゃう」
なんて事だ!
僕まで苦しいよ!
お腹も膨らんで来た。
「ああ、さっきの白い液体ってまさか … 」
僕は意識を失った。
自分で自分の子を妊娠って、まるで神の子だね。
こういう事は、馬小屋でやらないと。




