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痛くて、いやな、思い出

 じつのところ、《(ふう)(じん)にはこれに関して少々痛い思い出がある。

 なぜ、簡単な願い事に躊躇したのか。

 白の皇帝から話を持ちかけられて、《風》神はそれを思い出していた。


 ――自身がまだ、少年期の中盤だったころ。


 自分よりもまだ幼い子どもで、「(りゅう)五神(ごしん)」のなかではもっとも最後に誕生した《()(ぞく)の族長、《()(かみ)と遊んでいたときのことだ。

 いつも失敗ばかりで肩を落とし、下ばかりを見ていた《地》神を励ましたくて、楽しませたくて、


「空を飛ばせてやろう!」


 と、自分だけに可能な案に至ったのだ。

《風》神は可愛い弟分を楽しませるぞと張りきったのはいいが、わずかによそ見をした瞬間に、飛ぶことに慣れていなかった《地》神が――大地神でもある《()(がみ)と《()(がみ)は、天空神である《(くう)(じん)や《(ふう)(じん)とは異なり、空を飛ぶことが竜化であっても、人化であってもできないのだ――妙な方向へと飛んでしまって、大きな木に激突して怪我を負ったことがあるのだ。


 ――もちろん竜の五神がひとりなので、怪我はすぐに治ったが。


 ただ……。

 木の枝に頬をひっかけて、そのまま一文字に頬を割いて酷く流血をさせてしまったのだ。

 竜族であり、「竜の五神」であっても、いまのように人化のときにはそれなりの痛覚もあるので、べったりと血に染まった頬とそれを押さえる手で身体を震わせながら、《地》神は、痛い、と言って、わぁ、と泣いてしまった。

 そのとき、はじめておびただしい血を目の前で見たので、《風》神は《地》神を助けて手当てするどころか、普段は快活な性格だというのに血には弱いのか、危うく意識を失いかけて、騒ぎに駆けつけた《風》族の女官たちに、怪我もしていない自分が担がれた……、という恥ずかしい過去を持っている。


 ――俺……、あれから血を見るのがホントいやなんだよなぁ……。


 いまここで「それ」を思い出すということは、かなり直感としては正しいのかもしれない。

《風》神は金色をした片眼を鋭く細める。

 どうも状況は、当時に類似している。

 だとすれば……。


 ――俺の見立てにまちがいがなければ……。


 白の皇帝はぜったいに、バランス感覚が悪いだろう。

 本人はやる気満々で、どうやらすぐに自在に飛べるだろうという予測を立ててはいるようだが、ぜったいに「アレ」だ。調子に乗って失敗するか、バランスを崩して失敗するか、そのどちらかだろう。

 目の前にいる白き少年は、見た目こそ自然の静寂さや清浄、清涼を具現したかのように優美極まりないが、細い手足に、笑うと清楚な花を思わせる容姿も、終始おしとやかでは終わらない。

 ときには少年らしく活発で、遊びに夢中になってしまうと危なげで、目が離せないのだ。


 ――まちがいなく、オチは目に見えている。


《風》神に予見という能力はないが、そのようなものはなくとも、大体の予想がつく。

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