会ってみたい、竜の神さまへ
――竜の神さまが世界をお創りになられている、世界創世期。
そこはとても楽しくて、いろんな不思議に満ち溢れていて、空を見上げれば不思議な形状をした――爬虫類っぽいって言ったら、きっと怒られるだろうから、これは口に出しては言わないよ?――竜の神さまが大きな翼を広げて飛んでいて……。
きっとそこはとても素敵なところなんだろうなぁって、ずっと思っていた。
――あのね、竜の神さま。
俺の時代には、たったおひとりだけお姿をお残しくださった竜の神さまがいるの。
「化石」って言ってね、そのお姿はもう骨だけになってしまっているのだけれど、とても大きくて、とても荘厳で、とても美しくてね。背には翼のような骨の跡もあるのよ?
俺、ぜったいにその神さまは「竜の五神」と呼ばれている神さまのおひとり、《風》の神さまだと思うの。
だって、《風》の神さまだったら、あの大きな翼を広げて、鳥みたいにお空を自由に飛べるんでしょ?
爺やも言っていたの。
きっと、《風》の神さまほど早く空を飛べる竜はいないって。
――それって、ほんとう?
だからね、爺やがよく子守歌で聞かせてくれた、竜の五神たちが存在していた世界創世期の時代に憧れて、ずっと行ってみたいなぁ、会ってみたいなぁって思っていたの。
――でも、竜の五神たちが存在していた時代は、遥か彼方の「久遠の昨日」。
どんなに世界中を旅して捜しても、もう竜の神さまたち竜族はすべて自然にお返りになられたのだから、会えないよって。爺やがそういうの。
――それって、ほんとう?
世界はとっても広いから、もしかしたらお会いできるかもしれないよね?
もし、俺がお会いしたくて旅をはじめたら、俺を見つけて会ってくださいますか?
ひとりで旅ができるなんて、とっても偉いねって、頭を撫でてくださいますか?
――あのね、竜の神さま。
俺ね、《風》の神さまにお会いしたいんです。
もちろん、他の竜の五神にもお会いしたいです。ほんとうだよ?
――だからね、俺は爺やたちには内緒で、ひとりで旅をはじめたの。
でもね、俺、ひとりで居城から出たことがないから、すぐに迷子になっちゃったけど。でもね、竜の神さまに……《風》の神さまにお会いしたいから、俺、がんばって歩きました。
――もし、竜の神さまにお会いすることができたら、何て言おう?
竜の神さま、世界をお創りくださいまして、ありがとうございます、かな?
それとも、俺たち大地に暮らすすべての種族に恵みと実りの自然をお与えくださいまして、ありがとうございます、かな?
う~ん、でも、やっぱりこれかな?
もし、《風》の神さまにお会いすることができたら、お願いしてもいいですか?
――お願いします、俺、空を飛んでみたいんです。
俺、自然から生まれるハイエルフ族なんだけれど、他のみんなみたいに簡単な高さだったら飛び上がってみたり、森の木々の間を舞うように跳ぶことができなくて……。
ずっと空を飛んでみたくて、憧れていたんです。
――《風》の神さまは、どんな方ですか?
お優しい方でしょうか?
どうか俺を、あなたの背に乗せて、空を飛んではいただけませんか?
俺、ちゃんといい子にしていますから……。