第一章
島の勢力が一つになって以来、ここはとても平和だった。
とても平和だった。
スラムがそこかしこにできるようになって、飢えた子供が物乞いをするようになって、数年。
街のそこかしこから火の手があがるようになって、耳をすませば誰かが悲鳴をあげていた。
大丈夫、この島には守護者がいるから。
―――――――
「本日付けで配属になりました、アイラです。」
新人の少女は緊張で伸びた背筋に合わせて、高い位置の敬礼をした。
少女は疑問でいっぱいだった。なぜ訓練生で一位をとった自分がこんな場所にいるのだろうか、と。
ここはひとつの島だ。穏やかな波にぐるりと囲われており、一つの大きな火山の周囲を無理やり平坦にした土地で人々が生活している。新たな大陸を求めていくつもの船が出たが、一つとして帰ってきたものはなかった。
これまで島では二つの国が争いを繰り広げてきたが、西の国の軍国主義はやがて立ち行かなくなり、島の少ない資源を奪い合い戦いは収束した。これが歴史の教科書で一番ページを占める東西戦争だ。
互いの手を取り合った両国は、その後順調に土地を育て、今では肥えた土地は人々に安定した食料をもたらしてくれている。
東西戦争から八十年ほど経った今、ルーツを富を持つものは東の国の出身者しかおらず、飢えている者のほとんどは西の国にルーツをもつ。課題こそあるものの、かつての東の国の王、今ではこの島の王たるイスラ様の名のもと統治されている。
ここ数十年の間、この島の平穏は保たれていた、すべては治安維持部隊「守護者」の恩恵によるものである。戦争終結直後はことあるごとに起きていた乱闘も今ではなりを潜めており、当初は百万人を超えたと言われる人数も、今では五万人ほどしかいないと言う。その分農耕民や商人が増え、島民はもう少しで八千万人を超えるところだ。
人口に対し少なすぎると思うだろうか。
しかし現状、これで平和が保たれている。
つい最近まではそうだった。
近頃、少しずつだが取り締まりの数が増えてきたのだ。
犯罪件数の増加は急激なものであり、それに伴って守護者の必要性も高まった。
そんな頃合いに訓練生から晴れて守護者となれたこと。
不満を漏らす同期もいたが、私はそんなことは思わなかった。
むしろ、この腕で誰かを救うことができるだろうかと胸を張って迎えた配属の日。
なぜだ。
なぜここなんだ。
花形の、城下に繰り出して王を守る宮守護でもなければ。
街で多くの民を救う街守護でもない。
牢屋が並ぶ刑務所の裏でひっそりと囚人たちを監視する牢守護。通称、給料泥棒。
「なんで、私が、ここなんだ」
「おーい新人、心の声が漏れてるぞ」
私の上官はけだるそうに私をたしなめた。
この男の態度も、それなりに気に食わなかった。