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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
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ずっと待ち望んでいた

 俺とムラサキの付き合いはかなり長い。

 小学生時代からの仲だからほぼ10年近くになる。

 最初の記憶のムラサキと現在のムラサキでは、外見上の変化はほとんどない。何かの手違いで実は不老不死になったのだと言われても、信じてしまうくらいには現実味がない。


 ただ、当然としてムラサキは俺と同じ人間だ。


 俺と似た感性で笑ったり怒ったりするし。

 子供の頃、海でも山でも一番元気にはしゃいでいたのがこいつで。

 食べ物の好き嫌いが激しいから、いっつもカレーは甘口にされるし、炭酸飲めないくせに一口だけ飲んで「やっぱりいらない」って俺に押し付けてきやがる。


 そんな普通が多い女の子で。


 そしてどうしようもなく可愛くて綺麗な女の子だ。


 これで好きになるなっていうのは、男子には厳しいものがある。

 絶対認めてくれないだろうけど、オヤカタもヨウキャも1回はムラサキに恋をしたはずだ。2人に限らず、ムラサキを一目見たすべての男子がそうだろう。


 クレオパトラとか楊貴妃とか小野小町とか。

 そういうのにだって負けないレベルなんじゃないかな。


 だから、さ。


 ムラサキからの好意が自分に向くなんて、受け止めきれるはずがない。

 それこそ現実味がなさすぎる。何かの手違いが起こったのだろう、と思うことにした。だってムラサキは直接的なことはひとつも言ってこなかったから。好きとか、愛してるとか、ずっと一緒にいたいとか。


 いくら視線が熱っぽくても。

 やたら肌が触れ合うことがあっても。

 なんか2人で会うときだけお洒落な気がしても。


 全部、気のせいと思うことにした。


 俺はなにも気付いていない。

 ムラサキもなにも思ってない。


 あからさまではあっても、一応体裁だけはあった。


「む、ムラサキ……」


 だから俺は今、かなり焦っていた。


「い、いつからそこに……。あ、いや。どこから聞いてた?」


「全部」


 簡潔な答えにさらに動揺が加速した。ひざがガクガクしてる。


 え、やばい。これ、どうしよう。ほんとにどうしよう。


「ずいぶん盛り上がってたな」


「は、はは。恥ずかしいや」


「本当にな」


 ちらりと、ムラサキはうらかを見る。


「女を泣かせるのはダサいぞ、トウマ」


「さ、さきなぁ」


 うらかは赤く充血した目を細めて、洟をすすりながら言う。


「透真くんが浮気したぁ……!」


「赤髪デカチチ女をたぶらかした話なら知ってる」


 たぶらかしてねえよ。浮気でもねえ。

 あと赤髪デカチチ女ってなんだよ。ラッコのことか。属性すごっ。


「まずはそのブサイクな顔をなんとかしなよ」


「ううぅ、ひどいよぉ~」


「ひどいのはうらかの顔な。ハンカチとかティッシュは」


「もってないよぉ~」


「だろうね」


 ムラサキが目配せしてくる。

 俺はポケットからティッシュを出した。この清浦透真、こういう用意はいつでもしている男なのだ。主に目の前の猛獣系幼馴染のせいで。


 うらかはぐずぐず言いながら俺から素直にティッシュを受け取り、そのあとで俺の手を払った。めっちゃ睨まれた。最近の扱いこんなんばっか。


「トウマ。このままじゃうらかが納得しないから、あえて聞くぞ」


「お、おん」


「その赤髪デカチチ女とあたし、どっちが大事だ」


 ぶふぉっ!? と噴き出した。

 

 うらかが。


「ちょ、ちょっ、さきな……!」


 鼻水が垂れてるままムラサキに近づこうとして、額を小突かれていた。

 俺はそんな光景をどこか遠くに感じながら。

 すでに答えは決まっていた。


「ムラサキに決まってんじゃん。当たり前のこと聞くなよ」

 

「…………ふふっ」


 ムラサキがにやけた。

 思わずドキッとさせられるような、少し気の抜けた笑い方だった。

 ゆらりふらりと、まるで酔っているみたいな足取りでムラサキは目の前までやってくる。そして、小さな頭を俺の胸に預けてきた。


「知ってた。けど、あえて」


 ぐりぐりと額を擦り付けられて、こそばゆさが広がった。

 視界の端ではうらかが大きく目を見開いている。大げさに口元を両手で隠しながら。


 体感で長く感じただけかもしれないけど。

 1分近くそんな風にされ続けた挙句、俺はようやく解放された。


 堪能したムラサキは、どこか勝ち誇った顔でうらかに向き直った。


「な? あたしの勝ち」


「な、なに今の会話……?」


 うらかが困惑するのは当たり前だった。


「透真くんが都合の良いこと言ってるだけにきこえるんだけど」


「トウマが定期的に目移りするのもいい加減慣れた。ハルカちゃんとかカナコちゃんとかミドリちゃんとか。でもその度に上手くいかなくてあたしのところに戻ってくる。今回もそれと同じ」


「べ、別にムラサキのところに戻ってるとかじゃないんだけど」


 なんかすげえ嫌なやつみたいじゃん俺。キープしてるみたいで。

 ……いや、うらかから見たらそんな感じなのか、俺。


 俺の抗議を無視して、2人の話は進む。


「……付き合ってるのに?」


「そこはむかつく。けど、あたしがポッと出の年下に負けるわけないし」


「わ、わた、し、は」


 うらかは嗚咽交じりに言う。


「さきなの恋が叶ってほしい」


 ムラサキがハッと息をのむ。

 何かを反射的に告げようとして、しかし結局ためらった。


 ここまで、ムラサキの言葉や仕草はどこか芝居がかっていた。

 嘘をついているというほどではないけど、いつもより少し自信過剰で大げさな振る舞いをしているように見えたのだ。


 理由は、わかる。俺はそれを指摘できないけど。


「さきなの幸せを見届けたい」


 うらかには多分、自覚なんてないと思う。

 その純粋さにしたがって、本心をそのまま口にしているだけだ。


 たったそれだけの行いなのに、俺にはひとつのイメージが浮かぶ。固く閉ざされた厚い殻を、力づくで壊して突破していく、そんな強烈なものが。


 ムラサキが次にとった行動は、衝動的だった。

 飛びつくようにして、うらかの身体を抱きしめる。力加減をまったくしていないせいで、うらかの腰回りがどんどん細くなっていく。

 うらかは苦しげにうめきながらも、ムラサキを拒絶しない。むしろ同じようにしてムラサキの華奢な身体を抱き寄せた。


「………」


 俺は目を離せないでいた。

 こんな光景を、俺はずっと待ち望んでいたから。


 ずっと、ムラサキにうらかのような存在が現れてほしかった。



 泣きじゃくるうらかを先に返して、今はムラサキと2人きりだった。


「は~あ」


 ムラサキは欄干に身体を預けて嘆息した。

 一見疲れ切っているように見えるが、目がパッチリと冴えている。頭の中はうらかのことでいっぱいになっているはずだ。


「不覚だ」


「なにが」


「………」


 ムラサキは答えなかった。

 代わりに別のことを言う。


「あんなにまっすぐ応援されたの、初めてだ」


「………」


 今度は俺がスルーする番だった。


「よかった」


「なにが。どういう意味」


「俺たち男子じゃ、ムラサキとああいう関係は作れないから」


 俺たちは親友だ。

 オヤカタとヨウキャとそしてムラサキ。

 今よりもずっと幼かった昔から、俺はそんな言葉を使ってこの繋がりを守ってきた。そしてその言葉通りの関係性を築いたという自負もある。


 でもどうやったって男女の壁はあった。

 年齢を重ねていくごとに難しい問題が増えていく。

 俺たちの誰も、うらかのようにはなれない。


「何様だトウマ。保護者かよ」


「いやならもうちょい女子の友達増やしてくれよ」


「勝手にひがんでくる連中とは無理」


 まあね……。

 実際何度か試して失敗しているし。


「一個きいていいか」


「なに」


 ムラサキの、少し緊張した声音が返ってくる。

 その反応で逆に俺は動揺した。たぶん、お互い別のことが頭にあったはずだから。


「いや、その……なんでここにいたんだ」


 この第二校舎に、ムラサキは突然現れた。

 俺たちを追いかけてきた様子ではなかったし、待ち伏せをしていたわけでもないだろう。本当に偶然に鉢合わせしたはずだ。だとしたらムラサキはこんなところで何をしていたんだ。


「ん? ああ、そうだ。忘れてた」


 スイッチが切り替わる感覚があった。

 ムラサキは第二校舎の中に入っていく。俺を手招きしていた。


 内部に入るのはずいぶん久しぶりだった。手入れが全然行き届いていなくて埃っぽく、鼻がうずいてくしゃみが出てくる。床は踏みしめるたびにギシギシと悲鳴をあげていて、夜に訪れたなら心霊現象待ったなしだろう。


 ムラサキは空き教室のひとつに入っていく。

 俺も何の警戒もなくついていって、中の様子に愕然とした。


「は?」


 男子生徒が3人、正座をさせられていた。

 その顔面は青く腫れあがっていて、中には鼻血を流している者もいた。


「え、なに、どした!?」


 俺の声に反応して、3人は怯えた目を向けてきた。

 誰に? 俺ではない。その視線はムラサキに注がれていた。


「ちゃんとおとなしくしてたか」


「ハイッ!」


 3人は綺麗に声をそろえた。

 あれ。やばい。なんか猛烈に嫌な予感がしてきた。


 俺はわけがわからないまま、3人の正面に立たされた。

 ひとりひとりの顔を眺める。たぶん1年生だった。つまり面識がない。面識がないはずなのだが、むこうは俺のことを知っているようだった。


「このたびはっ!! 本当に申し訳ありませんでした!!!」


 シンクロみたいな動きで、3人のきれいな土下座が決まった。


「なあ、ムラサキ。こいつらもしかして」


「そう」


 ムラサキは不愉快そうに告げた。


「トウマにいやがらせしてた連中」

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