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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
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白日に晒される想い

 学校の敷地をまたいだ途端、俺はとてつもない居心地の悪さを感じた。

 誇張抜きで全員が全員、俺とラッコを注視している。あまり人前で緊張しないタチだと自負していたが、さすがにこれは怖いものがある。


「お~、みんな見てるっすね」


 対照的に、ラッコはのんきだった。

 俺たちは結局、現在進行形で手を繋いだままでいる。学校に着くまで離さないというラッコの宣言通りになってしまった。


「おい、もういいだろ」


「ええー? ここからが面白そうなのに」


 振り払うようにして俺は左手を離した。ようやく自由の身になった。

 むむっ、とラッコはなにやら不満そうにしていたが、ふと何か思いついたように反応をみせた。その表情にからかいの色が浮かぶ。


「ラッコ?」


「えいっす」


 むにゅん、と。


 その凶器じみた胸を押し当てるようにして、俺と自身の腕を絡ませる。


「ごばあっ!!」


 どこかの誰かが血を吐いた。

 ラッコがにやけた顔で見上げてくる。


「とうま先輩。いま何考えてます?」


「ここで『全校生徒男子ざまああああ!!』って叫んだらどうなるんだろうって想像してる」


「どうなります?」


「八つ裂きにされるかな」


 カップルというより愛人みたいなラッコを連れて昇降口へ。

 昨日からずっと心配だったことを確認するときがきた。


「さて、無事だといいんだけど」


「大丈夫っすよ」


 昨日はラッコと一緒に、余裕ないまま学校を飛び出していった。

 だから靴を隠しているヒマがなかった。気が回らなかったというか。


 また画鋲とか入れられてたらどうしよう。でもそれならまだマシ。汚物ごと下駄箱に詰められてたら最悪だ。朝っぱらから掃除イベントだ。


 祈るような気持ちで俺は靴箱を開いた。


「お、おお……」


「どっした」


「なにもされてない」


 いつも通りの内履きがそこにあった。画鋲もガムも入っていない。

 外靴と履き替え、迷いながらもそのまま靴箱にしまった。


「ねっ? 心配なかったっしょ」


「まだ油断はできないけどな」


 そのとき、ドタドタと騒がしい足音が響いてきた。

 音のする方を見ると、一人の女子生徒が必死な形相で走ってくるところだった。見覚えがありすぎる。ラッコのクラスメイトのコヤリ女子だった。


「ララコから離れろゴラァ!!」


 そのまま俺めがけてタックルしてくる。なかなか勢いが乗った良い攻撃だったが、相手は小柄な女子だ。特に痛くもかゆくもなかった。これがムラサキやうらかだったら話は別次元なんだけど……。


 俺はもつれたふりをしてラッコと距離を置いた。その隙間にコヤリ女子が割り込んでくる。威嚇するように犬歯をのぞかせながら。


「コヤリちゃん、おはーっす」


「おはーっす☆ ……じゃなくてララコ!!」


 コヤリ女子がラッコの肩をつかんで前後に揺らす。

 ラッコは赤い髪を振り乱しながら目を回していた。


「き、昨日言ってたことウソだよね!? こんなクソオスと付き合ってるとか人生の汚点だよ!? ララコは私とだけいればいいと思う!」


 このコヤリ女子、ときおり垣間見える独占欲が怖い。

 ララコは気付いているのかいないのか「コヤリちゃんは今日もかわいいっすね~」なんて頭を撫でていた。こっちの方がハラハラしてくる。


「でも付き合ってるのはホント。とうま先輩とアタシは両想いっす♡」


「うわあああああん!!」


 コヤリ女子は泣き崩れた。


「ぶわああああん、ひっ、ううっ、うぐぅぅうううう!!」


「すごい嗚咽だ……」


 思わず手を差しのべたくなる。というか反射的にそうしてみたのだが、勢いよくぶっ叩かれて終わった。嫌われすぎだろ、俺。


「あー、あー、もうっ。コヤリちゃんってばハナ垂れてる。とうま先輩、すんません。アタシらこれで失礼するっす」


「おう。大変だろうけど頑張ってくれ」


「また帰りに会いましょ。ではでは~」


 ラッコと昇降口で別れて俺も自分の教室へ向かう。


「あっ、透真くんだ。おはよう」


 うらかに声をかけられ、俺も返事をした。


「おはーっす☆」


「……?」


 後輩の真似をしたら怪訝な顔をされた。

 俺のあいさつを無視して、うらかは俺の頭髪を指さす。


「あれ。なんかいつもと違う」


「どうだ。かっこいいだろう」


「ハイハイ、さきなに褒めてもらいなさい」


 なんでそこでムラサキが出てくるんだよ。そんでそのムラサキはどこにいるんだよ。

 なんだかんだでここ数日学校で会えてないんだけど。またサボりか?


「おめかし頑張ったじゃない?」


「おめかし言うな。あと頑張ったのは俺じゃない」


「………。誰かにやってもらったってこと?」


 うらかの声のトーンが下がった。


「そうそう。彼女ができてさ。その子にしてもらった」


「は?」


 うらかが宇宙猫みたいになった。

 数秒間、まるで微動だにしなかった。


 俺はいつネタ晴らししてやろうかな、って眺めていた。

 

「かの、じょ?」


「うん、そう」


「……。…………。あ、ああ! そっか! さきなと付き合い始めたってことね!? もうーっ、そうならそうと早く言ってくれたら――――」


「いやちがう。バイト先の後輩と付き合い始めた」


「は??」


「あ、間違えた。バイト辞めたから、ただの学校の後輩。ほら、うらかも1回会ってるよ。赤髪のおっぱ―――」


 おっぱいデカい子って言いかけたところで、ネクタイ掴まれた。

 そのまま無言で引っ張られ、俺たちは教室を飛び出した。

 うらかはどんどんスピードを上げていく。俺はほぼ引きずられる形になった。


「う、うらか。ちょいタンマ――――」


「黙って」


 あ、やばい。完全にやりすぎた。今更ネタバレできない。


 うらかが連れてきたのは第二校舎裏の階段前だった。

 春先、ここでよく2人飯をやっていたのが懐かしい。みんなと昼休みを過ごすようになったからここに来ることもなくなったけど、こんなにも殺風景な場所だったっけ。


 ダァン!! と壁を背後にして追い詰められた。


「あのね、透真くん」


「は、はい」


 うらかは顔を俯かせていて、その表情を見ることはできない。

 けど両腕でしっかり壁に手をついているので、俺は逃げるどころかまとまな身動きも取れないままだ。


「フゥー、フゥー、フシュウウゥゥ……!」


「ちょ、ちょっとだけ人間に戻ってもらってもいい?」


「そうね。そうよね」


 獣みたいな唸り声から一転、理性的な深呼吸に切り替わる。

 何度も何度も、繰り返すことでようやく冷静さを取り戻してくれたかと思ったが、


「むり」


 ドガァン!! と背後の壁がまた揺れた。


 どれだけの力をこめればこんな音が鳴るんだ。


「透真くん、これはない。普通に幻滅した」


 うらかの瞳には光がなかった。


「別に透真くんがどこの誰と付き合おうと自由だよって、お行儀の良いこと言いかけたけどやっぱりダメ。さきなの気持ち無視して、どこの誰だか知らないぽっと出の女子によそ見するなんて許せない」


「ムラサキの、気持ち」


「さきなは!」


 もう一度、うらかは壁を強く叩きつけて。

 決定的な言葉を口にした。



「透真くんのことが好きなんだよ!!」



 のどが潰れそうな声量で、うらかは叫ぶ。


「私が君たちと出会うずっと前から、本当に何年も前から! さきなは君のことだけがずっと好きで好きでたまらなくて、想いがずっと積み重なってんの!」


「そんなの」


 とっくに知っている、とは言えなかった。


「そんなの、わからないじゃないか」


「嘘つき!」


 シンプルなその一言が、俺の痛い部分を貫いた。


「オヤカタくんもヨウキャくんも気付いてる。私だって、すぐにわかった。透真くんが見抜けないはずない。そんなの知らないふりして逃げてるだけじゃん!」


 矢継ぎ早に言葉は紡がれていく。


「どうして、さきなの気持ちに応えてくれないの! あんなに君のことを想い続けてくれる女の子なんていないのに! 透真くんは本当に今付き合っている人の方が大事なの!?」


「………それは」


 ラッコと付き合ってるなんて嘘だよ、って言い訳は無意味だ。

 ラッコとの企みがあってもなくても、ムラサキとの問題は昔から残っていた。これまでずっと避け続けて、目を背けていたことを今になって白日のもとに晒されただけ。


 ……この太陽みたいな友人に。


「ねえ。教えてよ。透真くん、どう思ってるの」


 うらかは涙を流していた。

 俺は何も言えなくなった。ここまで踏み込まれているのに、だんまりを決め込むのは悪いと思っている。でも、これは俺とムラサキの問題だ。言うとしたら、当の本人に――――


「おい、うらか」


 唐突に階段横の扉が開かれる。

 中から現れたのは小学生みたいな背格好の女子だった。ただしその目つきの悪さは大人顔負けで、容姿は精巧に作られた人形のように整っていた。


「あたしのことであたし以上に熱くなるな」


 ムラサキこと御杖村さきなが、そこにいた。

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