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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
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ヒーローみたい


「ちがうんすよ!」


 翌日、ララコは俺に会うなり言い訳じみたことを言ってきた。


「なにが」


「いつも寝こけているわけではありませんっす」


「コウハイってバイトはいつ休みなんだ」


 喫茶ほんわかで働き始めて今日で5日目になる。

 俺が毎日シフトなのは借金返済のため仕方ないとして、ララコとも毎日シフトが被っている。

 今日もこれから一緒に向かうところだから、平日全てってことか……?


「基本、休みはナシっす!」


「そんな気がした」


 過密スケジュールやべえ。


「実はコウハイも借金があるとか?」


「失礼な。キレイな身の上っすよ」


「なら休みなよ。あと、勉強もほどほどにしてさ。ちょっとくらい手抜きしても大丈夫っしょ」


 人生の先輩らしからぬ発言をしてしまった。

 しかしララコは「んー」と唸ったあと、衝撃的な事実を口にした。


「アタシ、実は特待生入学なんすよね」


「えっ!?」


 俺は驚いた。「ふふん」とドヤ顔のララコ。


「うちにそんな制度あったんか……!?」


「あ、そういうツッコミ」


「馬鹿でも入学させてくれた結衣山はどこに行っちまったんだ!」


「なんかセンセーたちも後悔してるみたいっした。アタシらの代から授業カリキュラムも全然違うみたいっすね」


 俺たちのせいなのか……!?

 俺たちがテストのたびに赤点ばっかり取ってたのが悪いのか!?


 あとでララコによく聞いてみたら、全然習ってる内容の密度が違った。同じ単元の話をしているはずなのに話が噛み合わないことが多々あった。

 結衣山は俺たち一期生を汚点として処理する気だな!


 まあ、それは別にいいけど。


「だから成績落とせないっすよね〜」


「……特待生ってやっぱり授業料が免除されたりするの」


「そんな感じっす」


「………」


 授業料免除にした上でバイト三昧?

 もしかして結構生活に困ってたりする?

 なんて聞くのは今の距離感では無粋すぎる。

 もし「そうなんすよ〜アハハ」なんて反応をされたら逆に困る。


「あれ。あれれ? パイセン? 急に静かになってどしました?」


「コウハイ」


「はいっす」


「俺はこれでもお前の先輩だ。去年のテスト過去問も持ってる。手伝えることはある」


「……え」


「それと行き帰りの電車でくらい休んでいい。着いたら俺が起こす」


「なんかパイセンが急にダダ甘なんだけど! なんでっすか!?」


「あと、借金のことも、本当、すぐ返すからな……」


「そんな悲壮な顔されても! 全然待つっすよ!?」


 なんて懐の広いお方なんだ。

 俺は恭しくひざをついた。そのまま頭を下げようとするとララコの慌てた声が響いた。


「ナシ! これナシ! なんかパイセンが変っす! 仕切り直し、ハイっす!」


 ララコ様からの許しを得て、俺は自分の足で立ち上がった。


「そういう話がしたかったわけではないっす」


「そうか」


「一生懸命働いたあとで規則正しく揺れる乗り物に乗ったら、そりゃ寝ちゃうっすよ。今まで寝ずに済んだのは自転車漕いでたからっす」


「やっぱり俺のせいだ……」


「だぁー! パイセンめんどくさっ! 今からネガるの禁止!」


 ララコは上がったボルテージそのままに、俺に指を差してきた。


「でもアタシ、1個だけ許してないことあって!」


「なんだ」


「昨日、アタシの寝顔見たでしょ!?」


 …………? そりゃあ。


「見たが?」


 ララコの顔が真っ赤になった。


「禁止! 寝顔見るのっ、禁止っす!」


「なぜだ」


「恥ずかしいからっす!」


「………。…………?」


「え、ピンときてなさそう!」


 だって実際にピンときてない。

 ムラサキと寝床をともにしたこともあるが、やつはそんなことを一度だって言わなかった。ムラサキを基準にするなと言われたらそれまでだけど。


「普段おっぱいおっぱい言いまくるくせに何が恥ずかしいのかと」


「だって本当におっぱい見せるわけじゃないでしょう!? つまりそういうことっす!」


「その理屈あってる?」


「とにかく! 昨日みたいなことになったら起こしてくれたらいいんすよ。そしたらパイセンの膝が痺れることもなかったのに」


「別に。それでコウハイが休めるならいくらでも貸すが?」


「結構っす!」


 俺はスマホで時間を確認した。随分話し込んでしまった。もう出ないとバイトに遅れる。


「そろそろ出よう。電車代はいつも通り出す」


「今日から電車通勤はNGとしますっす」


「なんだと? どうやって出勤する気だ」


 ララコは無言で俺の後ろを指差す。

 そこには俺が数日放置したままの自転車があった。



 ハンドルを取られる。加速しない。ちょっとした上り坂でもつらい。あとタイヤが悲鳴を上げている。うらかやムラサキを乗せたときとのギャップを感じる。あの2人、ワガママなようで俺に気を遣ってくれてたのか。今更気付くことになるとは。


「ど? どっすか? 初めて女の子を乗せた感想は」


「初めてじゃないが?」


「まーた、つまらない見栄張るぅ。で、で?」


「今まで乗せた中で1番重い」


「なるほど。1番のきょぬーはアタシだと」


「強いなー、この子」


 その部分に否定の余地はない。


 ララコに2人乗りを強要されたときは正気かと疑った。

 喫茶ほんわかがある安芸葉町まで、自転車で1時間はかかるだろう。シフトに間に合うかはギリギリだし、労働前に体力使うとか馬鹿のすることだ。


 でも駄々をこねるララコに根負けして、1回だけという条件でこんな状況が出来上がってしまった。


 バイト代入ったら速攻で自転車弁償しよう。


「パイセン」


「なんだ」


「これ、あれっすね。付き合いたてのカップルみたいっすね!」


「おそろしいこと言うなよ」


 つい周りを見渡したじゃねえか。見られてねえよな。

 え、本当に見られてないよな……。

 最強転校生と最恐幼馴染が実は後ろから追いかけてきたりしてないよな。


「パイセン彼女とかいないんすか」


「いない、けど。この絵面を見られたくない人はいるかな」


「えっ!? だれだれ!?」


「そんなことよりさ、この調子だと間に合いそうにないんだけど」


 そろそろトバさないとガチで遅刻する。

 ボスママに対抗する腹筋はまだ準備段階だ。


「頑張って漕ぐから、つかまって」


「ほーい」


 軽い返事をして、後輩が腕を回してくる。


 そのとき電撃が走った!



「………!! ………………っ!?」



 バカな、デカすぎる……。


「あのさ、コウハイ」


「なんすかパイセン」


「やっぱり離れてもらっていいか」


「なんでっすか」


「ツカムトコロ、チガウ」


 ララコは困惑した様子ながら、おそるおそる腕の位置下げた。


 腰っ!?

 そこもそこでどうかと思うよ!


「肩にしてくれ」


 色々と注文をつけてしまったが、ようやく落ち着けそうだ。

 平坦で長い道のりを、ほどほどのスピードで進んでいく。

 通算3回目の2人乗り、コツを掴んできたかと思っていたが今回が1番神経を使う。事故っちゃいけない感がすごい。ララコがまともな受け身を取れるわけないし……。


 そんな俺の気苦労を知って知らずか、ララコは俺の肩を揉んでくる。


「くすぐったい」


「ほんのお礼っす」


「足代わりの?」


「部活動の強制参加。あの校則がなくなったのってパイセンのおかげっすよね」


「はっ!?」


 予想外の話題にバランスを崩しそうになる。ララコの悲鳴が上がった。


「あぶなっす!」


「なんで知ってる!?」


「知ってるも何も、あれだけ大事になってますからね。パイセンの名前、1年生全体に知れ渡ってますよ?」


「こわっ!」


 まったく狙ってないところで一方的に知られてるとか恐怖でしかない。学年を超えて悪目立ちしてるとかさすがに初めての経験だった。


「観てたっすよ。パイセンがサッカー頑張ってたところ」


「うるさい」


「てっきりパイセンはサッカー部だと思ったんすけど。違うんすよね?」


「まったく縁もゆかりもない」


「なのにあんなに必死だったんすか」


「必死とかそういうんじゃない」


「えー、うそだーっ! 顔がマジでした!」


 ララコはぶんぶんと身体を振る。

 当然、俺も振られる。体勢を保っていられない。


「ゆ、揺らすな!」


「聞きたいっ、聞きたいっす! 廃部連合ってパイセンのネーミングっすか。そもそも結成のきっかけはなんすか。教えてほしいっす!」


「教えるからおとなしくしろ!」


 そして俺は全て自白する羽目になった。

 喋っている間、俺は羞恥心が止まらなかった。自分でやったこととはいえ、客観的に話そうとすると実に痛々しくてくだらない話だ。なんであんなことをしたんだろう。テンションおかしい。


「ほえー」


 一通り聞き終えたララコの反応がこわかった。

 笑い飛ばしてほしいような、いや、やっぱり流してほしい。どう足掻いても俺にとっては黒歴史確定なのだから。


「パイセンって、ヒーローみたいっすね!」


「何言ってる?」


 本気で意味わからなかった。

 なのにララコは自信満々に、どこか誇らしげに続けた。


「だってパイセンがいなかったら、たくさんの部活がなくなってたっすよね。それってその部活の人たちからしたら悲しいことっすよ」


「そりゃあ、そうかもだけど」


「サッカー部も今みたいに自由に活動できてないだろうし」


「それも、まあ」


「アタシも、おかげさまでフルでバイト入れるようになったっす」


「急に個人目線だな」


 にひひ、と浮かれた笑い声が風に乗る。


「だから恥ずかしがったり、隠そうとしたりは、もったいないっすよ。だってパイセンはカッコいいんだから。堂々としてたらいいんすよ!」


「ああ、そう……」


 別に、こんな後輩の言葉に心を動かされたとかじゃないけど。

 少しだけ気分を良くしてしまったのは胸のうちにしまっておく。


「ところでパイセン」


「なに」


「結局あの日アタシのチャリをパクったのは何故だったんすか」


「それはマジで教えない」





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