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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
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結衣山まで徒歩2時間……!?

「ありがとうございました。またお越しくださいませ~」


 午後9時半。

 最後のお客さんを見送り、立て札を『CLOSE』に直す。

 あとはこれから清掃や明日の仕込みがあるらしいが、高校生はこの時間で帰らされるらしい。パワハラするくせにそのへんは徹底している。


 ボス(店長)はニコニコ顔で近づいてくる。


「あんた中々やるわね」


「光栄です」


「またどこぞのアホがやってきたかと思ったら、案外物覚えも要領も良いじゃないか。ニコにも見習ってほしいもんだ」


「友人の食堂をよく手伝っていたので」


「ってことはキッチンもできんのかい」


「中華以外はよく分からないです」


「ふん。そうかい。ならザクロに聞きな」


「ざくろ……?」


「ウチのキッチン担当さ。明日は出勤してくるから。あんたもちゃんと来な」


 ボスはそれだけ言って厨房に引っ込んでいった。

 なんかしれっと明日も来ることになってたのは気になるけど。


 まあ、いいか。どうせ借金返済のために働かなければならんのだ。2度と来るなとか言われるような仕事ぶりではなかったってことで、ここは良しとしておこう。


 タイムカードを切って事務所へ戻る。制服姿のララコが出迎えてくれた。

 パチパチパチと、やかましいくらいの拍手をしながら。


「よくわからないけど、ありがとう」


「さすがパイセン! シゴデキ男!」


「そう?」


「てんちょーが褒めるとかレアっすよ。パイセン何者!?」


 シャーペンをマイクみたいに向けてくる後輩。

 俺としては無難にやってただけなので、そこまで持ち上げられるとかえって居心地が悪い。さっきボス店長にも話した通り、横綱食堂の経験が生きただけだ。


「注文聞き間違えないし」


「当然」


「食器の洗い残しもなくって」


「それも普通。飲食店だもの」


「会計もミスらなくて」


「なんでここ現金払いだけなんだよ。ヤバくね??」


「料理引っくり返してお皿ごとダメにすることもなさそうっすもんね……」


「あんまり自分を責めなくていいぞ」


 この後輩、やる気と元気は良いが少々どんくさい。

 勢いあまって俺とぶつかったのは数知れず、ドリンク系はめっちゃこぼしていた。

 途中からは後輩の動きを観察して立ち回り、なんとか1回だけ料理をひっくり返すのを阻止できた。それでも1回かよ。


「後輩ってスポーツとか苦手なタイプ?」


「はいっすね。この前の球技大会はバレーで出てたんすけど、アタシに集中砲火っした」


 ぴょん、とトスを上げるような動きをしてみせる。

 あかん。また胸を見そうになった。


「ところで後輩よ。そろそろ着替えたいのだが」


「はいはい、どうぞどうぞ」


「出てってほしいんだけど」


「あ~! 大丈夫っす!」


「なにが」


「アタシ、弟いるんで! お気になさらず!」


「俺がいやなんだよ」



 ほんわかを出たタイミングで俺はララコに切り出した。


「というか後輩。よくもハメてくれたな」


「っす?」


「俺は弁償代を稼いだら辞めるからな」


 1週間ほど働けば目標額だ。

 働くのはそれまでと決めている。


「ふっふっふっす」


「なにわろてんねん」


「てんちょー。パイセンのこと気に入ってるみたいでした」


「だから?」


「すんなり辞められるといいっすね」


「………」


 出会いがしらの腹パンを思い出した。


「1週間で腹筋鍛えておく」


「努力の方向性……」


 後輩は唇を尖らせていた。


「えー。マジに辞めちゃうんすか」


「おっ。なんだなんだ。そんなに俺にいてほしいのか後輩」


「そりゃそうっすよ。パイセンがいたら楽しそうじゃないっすか」


「………」


 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 この後輩、たぶん裏表とかない。異性への距離感も初対面にしては近すぎる。今までにいなかったタイプのせいか、ストレートな物言いに慣れない。調子が狂う。


 だから俺は素っ気なく「あ、そ」としか言えなかった。


「じゃあねっす! パイセン! また明日よろ!」


 ぶんぶんと大きく手を振って、ララコは駆け出す。

 その先は暗闇の道。街の喧騒からは一気に離れてしまう。


「待ちなよ。後輩」


「っす?」


「送っていく」


 と、俺は反対側を指し示した。

 このアキバ町の中心。電車だってまだ動いている。


 後輩は、なぜかきょとんとした顔になっていた。

 俺がそう申し出た意味がわからないようだった。


 やがて「ハッ」と気付いたララコは、自身の肩を抱いた。地味に俺から距離を取ろうとしている。


「これが送り狼ってやつっすね!」


「オイコラ」


「きゃー。助けてっす。パイセンに食べられる~」


「人聞き悪い。あ、おまわりさん違います誤解です」


 近くにいたポリスメンに職質された。

 疑いを晴らすのに無駄に時間がかかった。


「お嬢ちゃん。彼氏くんに送ってもらったほうがいいよ。夏場は変な人も出没するからね。それじゃあ気を付けて」


 と、散々拘束した挙句にそんな軽くその場を去っていく。


「……そう見えたんすかね」


「ん?」


「彼氏とか。付き合ってる風に」


「さあね。男女がペアでいたらそう思っちゃうんじゃないの」


「ふーん」


「………」


「………」


「おじさんって単純だから」


「あは、パイセンひっど」


 一瞬だけ訪れた沈黙はなんだったのだろう。

 そこの意味を探るにはまだまだ俺はララコのことを知らなすぎる。


 跳ねる足取りで、後輩が俺の腕を取った。

 恋人がするような振舞い。それ自体は驚かなかったんだけど。

 俺は生唾を飲み込んだ。


 まっじでデカくねえか…………?


 おっふ、とか声を漏らさなかった自分を褒めたい。


「ではではお言葉に甘えるっす」


「くっつかんでいい」


 本当に送り狼になる。


「だいたいどうやって帰るつもりだったんだよ」


「そりゃあ、歩いてっす」


 こいつは正気だろうか。

 ここから結衣山まで? 冗談抜きで2時間はかかる。やってやれないことはないが、こんな夜中にしかも女子がやっていいことじゃない。


「帰りの電車賃も出す」


「マ?」


「マ」


 遠慮する素振りを見せる前にむりやり駅へ連れていく。

 即座に切符を買って持たせてやった。


「いいんすか」


「詫びの気持ちもある」


「まあ、確かに。ララコちゃん可愛いから、ほうっておけない気持ちもわかるっす」


「はいはい。可愛い可愛い」


「……ぇん、んんぅ」


「自分で言っておいて照れるなよ」


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