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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
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波紋はそこかしこに

「なんでこうなってるんだ!?」


 オヤカタの弁当にがっつく。ものの数分で完食してしまった。

 昼休みの光景も様変わりしていた。なんやかんや5人で昼食を取るのが常だったのに今では男女で完全に別れている。うらかとムラサキは一緒に過ごしているらしいから、それだけは安心したが……。


「心当たりはないのか」


 オヤカタが表情筋を動かさずに言う。

 ヨウキャも愛用のタブレットに文字を書き込んでいく。


『下野さんはともかく、ムラサキさんがキヨくんから離れるなんてよっぽどだよ。何かあったんじゃないの』


 2人に言われるまでもなく俺だって考えていた。

 原因は何か。

 思い当たるのは一つしかない。


 ほら、あの、あれでしょ。お風呂に入ってたときの……。

 でも俺はなんも悪くないし。謝ったらそれはそれで変な感じになる。


「うらかがよそよそしくなった理由は想像がつく。けど」


 ムラサキの方はマジでわからない。なんかしたっけ。

 そう言葉を続けようとしたところで。


「まて」


『うらか?』


 珍しく、オヤカタとヨウキャが遮ってきた。

 2人の反応にこっちがびっくりしそうになる。でも俺の発言のどこに引っかかったのかはわかる。なんなら書いてくれてるし。


「下野うらかとの親愛度がランクアップ。ファーストネーム呼びが解禁されました」


 実績解除っぽい形で報告してみる。

 ヨウキャあたりにはウケると思ったが、残念ながらオヤカタともどもリアクションは薄かった。なんなら2人して固い顔になっている。


「キヨ」


「どうしたオヤカタ」


「本気で下野を好きになっているのか」


「ド直球。なになに急に。恋バナしたいお年頃?」


「………」


 オヤカタの眉間に皺が寄った。


 普通なら、怒らせてしまったと感じるところだろう。

 でも長い付き合いの俺にはわかる。これは落ち込んでいるカオなのだ。

 同調するように、ヨウキャもおろおろとしている。


「そんな顔するなよ、2人とも」


 2人が何を気にかけているか。

 それがわからないほど察しが悪いつもりはない。

 でも俺の方からは指摘しない。しらばっくれているのがバレバレだったとしても、俺からは絶対に。俺は現状維持でなんら問題ないから。


「えーと。なんだっけ。うらかを好きかどうか、だっけ」


 改まって問われると気恥ずかしいな。

 これについては取り繕う必要がない。そのまま伝えさせてもらおう。


「わかんない」


 だって、そんなに深く考えたことがない。

 いいなあ、可愛いなあって思う。そりゃあ、そう。距離感が近い。一緒にいて楽しい。いなくなるかもって考えたら動揺する程度には好きになってる。夢の中で際どい恰好のうらかが出てきたこともある。本人に知られたら殺されそうだけど。


 でも、それで惚れた腫れたの話になるかは別問題だ。

 転校デビューの効果は切れている。


「まあ、避けられるとそれなりにショックなわけですよ」


 それなりに親しくなった気でいたから。

 2人は、やはり晴れない顔つきのままだった。俺がはぐらかしているわけじゃないと感じ取れているから、余計に歯がゆそうだ。


 ヨウキャのペン先が、行き場をさまようにフラフラする。

 そのとき、教室のドアが少し大きな音を立てて開かれた。


「おーい。清浦。いないか」


 我らのクラスに突如として現れた闖入者。

 一人は岩石みたいな大男だ。もう一人はその後ろに隠れるようにして————いや、その長身は全く隠せていなかった。相変わらず気弱そうな顔がのぞく。


「ガンテツ。それとマルティンも」


 サッカー部が帰宅部ワイに何の御用向きかね?


 速水に続いてまたこいつらか。

 ヨウキャがびくびく怖がってしまうので、できればそのデカい身体を縮めてから出直してきてもらいたい。


「暇か。サッカーやらないか」


「昼食中だ。またにしてくれ」


「食べ終わってるように見えるが」


「………」


 もっとゆっくり食べておけばよかった。


「よし。来てくれ」


「いや、やらんって。どいつもこいつも人の話をきかねえな。だいたい俺なんかいてもしょうがないだろ。お前らの方がずっと上手いんだから」


「そこまで本気でやるわけじゃない。あくまで遊びだ」


「嘘つけ」


 最終的にマジになるくせに。


「それにマルティンがどうしても誘いたいってな」


 ここまで一言も発してなかったマルティンがびくっと身体を固くした。

 俺の視線を受け、意を決したように前に出てくる。


「い、一緒にやろう。き、きよ、キヨウラくん」


 たどたどしい喋り方だ。

 俺が何も言わずに構えていると、マルティンは何を感じたのだろう。焦って矢継ぎ早に言葉を付け足してきた。


「あ、え、えっと! キヨウラくんとサッカーするの、俺、すごく楽しくて。よかったら来てほしい、な、なんて。あ、もちろん忙しかったら断ってくれていいんだけど……」


「………」


 断りづれえよ。


 昔、まだそんなに仲良くなかった頃の幼馴染たちの姿が浮かんだ。

 俺が一方的に誘うだけだった関係は、いつしかお互いが声をかけるようになった。マルティンは今、かなり勇気を振り絞ってこの場に立っている。


「行ってきたらいい」


 オヤカタが勝手にそんなことを言う。

 ヨウキャもそれに続いた。


『僕たちのことは気にしないで』


「別に俺は行きたいわけじゃ……」


「すまない。時間がもったいない。早くいこう」


「ねえ俺の意思は!?」


 ガンテツにがっちりと掴まれ、抜け出す隙がない。そのまま引きずられるように————というか本当に引きずられていた。まともに歩かせろや。


 このときの俺の絵面はさぞ滑稽だったはずだ。


 でもそんな俺を見送る親友2人はどこか暗い表情で。





 なあ、オヤカタ。ヨウキャ。


 最近、距離を感じるのは。

 お前らに対してもだからな。



 同刻。とある女子たちの会話。


「……さきな。私のウィンナー食べる?」


「うらか、腹減ってないのか? 珍しい」


「なんだか卑猥なモノに見えてきちゃって」


「なんでだよ」


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