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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
転校生は孤高でクールでミステリアス?
35/64

決戦前夜

 チャリできた。


 さっそく下野社宅の前までかっ飛ばしてきたわけだが、ここで俺はすっかり腰が引けてきた。なんて用件で下野を呼び出したらいいんだ。


 部屋番号は知っているがチャイムを鳴らすのは論外だし、携帯にかけるのも悩ましい。でも人家の前でこうしてウジウジしているのも不審者の極み過ぎる。人通りが少なすぎて通報されないのだけ幸いだけど。


「あの」


「あッ、すみません」


 とか思ってたらマジで人がきたし、声かけられて焦る。

 どう言い訳しようか振り向いて俺は固まった。


「キミ、どうしてここに」


 下野が信じられないものを見る目をしている。

 頭が真っ白になる。うっわ、すごい。何も考えられないってやばくないか。他人事みたいに思う。


「か、帰り道の途中」


「家こっちのほうだっけ」


「いや、あっち」


 俺は全然違う方角を指し示した。

 いや、ちがうんだって。帰り道っていうのはムラサキの家からって意味で、ああ、それでも不自然だな。下野はグランシャリオ結衣山を知ってるから誤魔化せないし。


「ふーん」


 ストーカーだなんだと騒がれるでもなく、下野のリアクションはそれだけに留まった。

 こっちはこっちで気になることがある。


「なんで制服のままなんだ」


「ああ、これは……」


 自分の服装を見下ろして下野は言う。


「今日はまだ家に帰ってなかったから」


「こんな時間までか」


「なんとなく帰りたくなくて。そのへん歩いてた」


「………」


 まてって。

 そんな暗い顔で言うことかよ。

 まるで見納めみたいじゃねえか。


「うわあ。5時間も経ってる。気付かなかった。やば」


「………」


「汗のにおい」


「えっ」


 いつの間にか下野が近い。

 そのまま顔を寄せてくる。


「今日も練習してた?」


「ああ、おう」


「ごめんね。ずっと一緒できなくて。最近はそのう、忙しくて。あ、言っておくけどこれ嘘とかじゃないから」


「わかってる、それくらい」


「それならいいの」


 ほっとして下野が笑う。

 何故だろう。いまはその笑顔が無理して作られたものに見えてくる。


「それじゃ、また学校で」


 ここを逃してはいけない。

 俺は自分の直感を信じることにした。


「もう少しいいか」


「え?」


「あっちの山は登ったか」


 このあたりで最も標高があるそれを指し示す。実際には小高いくらいの印象にしかならないけど。

 下野が首を振った。


「ついてきなよ」


「えっ」


 返事を待つことなく俺はペダルを漕ぎ出した。

 これでついてきてくれなかったら赤っ恥だな。でもその心配はなさそうだ。

 背後から足音がついてくる。徐々に駆け足になって、勢いよく地面が蹴られる。わずかな振動とともに、俺の両肩に手が添えられた。


「ついてこいって言いながら急に行くな」


「ナイスな飛び乗りだ」


「私じゃなきゃ出来ないでしょ」


 え、そうか? もう1人できそうなやつがいるけど。まあいいか。

 俺は軽快にペダルを漕ぎ続けた。夜が更け始めたからか、人の気配は全然しない。まあ日中でもあんまりだけど。おかげで通行人や対向車の心配は必要ない。


「悪くない乗り心地よ」


「さりげなく重心移動してくれてるおかげ。どこかの誰かさんと違って」


「それって、さきなでしょ」


「わかる?」


「だって想像つくから」


 マジか。

 嬉しいような恥ずかしいような。


 ほどなくして目的地に着いた。

 麓に自転車を置いてそのまま山道に入ろうとすると、下野が顔をしかめていた。


「ローファーのままなんだけど」


「大丈夫」


 このあたりの道は舗装されている。歩きづらいということはないはずだ。

 すぐに下野も気付いたのか安心したようについてきた。


「ここ、なにかの名所?」


「ぜんぜん。この町に名所なんてありません」


 あれ。ちょっと悲しくなってきたな。


「でも綺麗に整ってる。案内板だってある。よく人が来る場所ってことなんじゃないの」


「へえ、賢い着眼点。テストもそれくらい出来たらなあ」


「なんか言った???」


 殺気を感じた俺は早足で階段を駆け上がった。

 下野の気配が近い。ほぼほぼ背後を陣取られている。すげえこわい。


 ペースを上げた甲斐あって山頂にもすぐ到達。


「はあ。疲れた」


 俺は無造作に地べたに座り込んだ。下野といると無駄に走ることになる。

 制服をよごすのを嫌がったのか下野は同じようにはしない。そんで、何故か警戒したような目を向けてくる。


「ねえ。もしかして私いまから襲われるの?」


「なんでそうなる」


「人っ子ひとりいない場所に連れてくるから……。変なことしようとしたら全力で股間蹴り上げるからね」


「すぐキ〇タマ潰そうとする」


 俺のムスコに恨みでもあるのか。

 子孫繁栄の可能性を残しておきたい。変な誤解を与えないようにしなくては。


 立ち上がった俺は下野から適切な距離感を保ちつつ、結衣山の町並みを見下ろした。


「どうだ。良い眺めだろう」


「気は確か? 暗すぎて何も見えないけど」


「もしかして視力悪い?」


「両目とも1.5」


「夜目は利かないタイプか」


 仕方ない。色々教えてあげよう。


「あっちの神社が見えるか。あそこは夏祭りと初詣で賑わうんだけど、毎年俺らは屋台を出してる。正月は餅つきだな。オヤカタの本領発揮が見もの」


「………」


「あそこ、奥まったところに川が流れてる。結衣山の夏は暑いから避暑地としてよく遊びにいくんだ、子供の頃から。ムラサキとか、一日中家に帰らなかったりするから心配で俺も行く羽目になってさ」


「………」


「学校のすぐ近くに商店街があるのは知ってたか。去年、秋の学園祭じゃ地域のジジババも巻き込んで楽しかった。ヨウキャも看板づくり頑張っててさ、写真残してるんだけど————」


「ねえ」


 調子よく話が乗ってきたところだったのに、下野がそれを遮ってしまう。


「どうしたの」


 少しだけ俺を気遣うような声音。

 裏表のない綺麗な瞳を向けられたせいだろうか。

 素直な本音を口にしていた。


「今言ったこと全部、今年は下野と一緒にしたい」


「え……」


「叶ったら文句ない」


 下野の気持ちは東京にある。

 その意思は尊重されるべきだ。俺の都合で縛りつけちゃいけない。

 でも、もっと結衣山のことを知ってほしい。俺たちのことも。


「それくらい……」


「うん」


「お安い御用よ」


「それはよかった」


 下野の返事に満足した俺は再び結衣山を見渡した。

 俺の見ているものが下野にも見えるといいな、なんて考えながら。






 そして、6月30日がおとずれる。


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