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1話 婚約者に偽物、詐欺師と罵られました

連載版始めました!


2話までは短編版とほぼ同じです!

 ロステア聖王国を統べる王家が過ごす居城、その中庭にて私は「聖女」として今日も働いていた。


 この聖王国は精霊と呼ばれる大自然の化身たちの恩恵を受けて生活している。


 水精霊たちの力で上水道を動かし、火精霊たちの力で生活に必要な炎や熱を賄う。


 情報網は風精霊の力で手紙を速く飛ばしたりと、精霊たちの力はこの国の維持に必須だ。


 けれど精霊たちも無償で人間に力を貸してはくれない。


 聖女と呼ばれる精霊と会話できる人間が窓口になり、精霊に食事として魔力を渡す必要がある。


 聖女は基本的には一人のみのようで、私は平民出身ながら当代の聖女ということになっている。


 また、精霊とは半分幽霊みたいなもので、人によって見え方は異なるものの、多くの人にはふわふわした光の塊に見えるそうだ。


 けれど聖女である私にはその姿がはっきりと見えていた。


「ルーミエ。今日も美味しい魔力をありがとうね。これで今週も聖王国中の精霊が力一杯働けるよ!」


 そう話す水の精霊は、水色の髪をした小さく愛らしい女の子だった。


「当代の聖女様は魔力の質がいいねぇ。俺らも頑張れるってもんだよ」


 そう語るのは小柄な男の子のように見える火の精霊。


 ちなみに魔力の食感はこの子たち曰く、東洋の綿飴みたいなものらしい。


 私はその綿飴というお菓子を見たことも食べたこともないので、よくは分からないけれど。


「そっか。皆に気に入ってもらえて私も嬉しいな。私にはこうやって、魔力を皆に渡すことしかできないから……っ」


「あっ、ルーミエ!」


 少しふらついてしまい、精霊たちが心配して駆け寄ってきてくれた。


 私は笑顔を作って「大丈夫」と精霊たちに応じた。


 ……魔力は人間にとっての生命力でもある。


 歴代の聖女たちは魔力が豊富で、だからこそ国を支える多くの精霊たちに魔力を与えることができていた。


 私の魔力も人よりは明らかに多い。


 けれど……一人で精霊たちに魔力を与え続けると貧血のような症状、眩暈が出て少し辛い。


 謂わば今の私は、自分の生命力を削って、国を支える精霊たちを裏から一人で支えている状態なのだ。


 それでも……弱音は吐けない。


 私の婚約者、カイル第一王子。


 彼は平民出身の私にもいつも優しく接してくれた。


 彼のためにも私は頑張り続けたい。


 精霊と話せて魔力を渡せる聖女であっても、貴族でも王族でもない私は、このお城で小さな頃から肩身が狭い思いをしてきた。


 平民だから作法がなっていない、尊い血を持たぬ平民、たまたま聖女に産まれただけの女と。


 でもカイル王子……カイル様だけは違った。


 一緒に泣いて笑って、多くの時間を紡いできた。


 カイル様が王として継ぐこの国を、私も一緒に支えていきたい。


 だから私は……どんなに辛くても、笑って頑張りたいのだ。


 私に優しいカイル様の国を、私も大切にしたいから。


「皆、いつもありがとうね。今週もよろしくお願いします」


「おおー! ルーミエのためなら!」


「私たちも頑張るねー!」


 精霊たちがわいわいと盛り上がる傍ら、中庭に兵士たちがやってくるのが見えた。


 ……輝く太陽の意匠が施された鎧、それは王族を守護する近衛兵団にのみ着用が許されたものだ。


 つまりは王家の方がこの中庭に現れるということ。


 でも一体誰が。


 幼子の姿だからか精霊たちが怖がるので、魔力を与えている間は兵士を伴ってこないでくださいとお願いしていたのに……。


 平民が嫌いで、私に散々嫌がらせをしてきた王女のシーナ様だろうか?


 けれど予想に反し、兵士たちを押し退けて現れたのは仏頂面のカイル様だった。


 ……どうしたのだろう。


 今までこんな表情のカイル様は見たことがない。


 それに側には綺麗な女性も控えている。


 流れるようなプラチナブランドは陽光を受けて輝き、整った顔立ちは物語の主役のよう。


 煌びやかな衣服から察するに、貴族の方だろうか。


「あの、カイル様。どうかされたのですか?」


 心配で駆け寄るけれど、カイル様は私を睨み、叫ぶようにして言った。


「聖女は王国にただ一人……詐欺師め。今まで僕を騙していたのか!」


「えっ……?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 詐欺師? 騙していた?


「カ、カイル様。一体何を……」


「とぼけるな! こちらにいる、マーセラス伯爵家のクラリスこそが真の聖女であると、城仕えの神官から報告が上がってきた。何より彼女の腕には歴代の聖女の持っていた聖印が現れている。……クラリス!」


 クラリスと呼ばれた女性は、カイル様に呼ばれると左手をこちらに見せてきた。


 そこには十字の紋章が刻まれていた。


「……君にはこの聖印がない。でも精霊と話し、魔力を渡していると語っている。……君は何様のつもりだ? 幼い頃から精霊が見える、話せると嘘をつき、僕らを騙してきたんだな?」


「違います! 私は精霊たちが見えて、話せて、今だって魔力を渡して……!」


 聖印。


 それは聖女の左手に現れる紋章と言われている。


 私には聖印は現れなかったけれど、精霊たち曰く「聖印? 別にあんなの飾りだから」とのことだった。


 だから私は気にしなかったし、カイル様もそうだと思っていたのに……。


「カイル様、信じてください! 私はあなたのために、あなたが継ぐこの聖王国のために! 幼い頃からずっと……!」


「黙れ詐欺師! 嘘が露呈しそうになったら泣き落としか? 聖印こそが明確な聖女の証拠。そうだろう、クラリス」


「はい、カイル様」


 クラリスはこちらを見て蔑むような笑みを浮かべてきた。


 その時、私は思い出した。


 クラリス、この人は幼い頃、聖女としてお城にやって来た私をいじめてきた一人だったと。


 私が気に食わなくて、散々悪口を言ってきた子だったと。


「このルーミエって子は間違いなく聖女ではありません。魔力もそんなに感じませんし? きっと聖女としての立場を追われて平民暮らしに戻るのが嫌なのでしょう。ここでの生活は天国ですから」


 嘲笑しながらそう語るクラリス。


 違う。


 私の魔力が少ないのは精霊たちに魔力を渡した直後だから。


 何よりこの子……クラリスは本当に聖女なのだろうか?


 逆に私はクラリスの方から魔力を感じないし……なんだろう、あの聖印からは嫌な気配を感じてしまう。


「カイル様、どうか信じてください。今まで一緒に泣いて笑って過ごしてきた日々は嘘ではなかったはず。私はあなたに嘘をついたことなんてなかったはずです!」


 私は精一杯の声で訴えた。


 お願い、想いは通じていて。


 ……けれど。


「ああ。そうだね。……君は最初から大嘘つきだったようだ。婚約も破棄させてもらうよ。お前たち、ルーミエを連れて行け」


「ハハッ……じゃあね、ルーミエ。自分の″嘘″を牢で悔いるといいわ」


 兵士たちに左右から掴まれた私には、抵抗することもできなかった。


 何より精霊たちに魔力を渡した疲労感で意識が遠のいてしまう。


 ……多くの魔力を渡した後はいつもこうで、普段なら自室で静かに休んでいた。


 でも今は……まだ、まだ眠る訳にはいかなかった。


「カイル……様……。お願い……信じ……て……」


 そう言い残して、私の意識は闇に閉ざされた。


 ……次に目覚めた時、私は牢の中にいた。


 扱いとしては腐っても″元″聖女だからかちゃんとベッドもあって、私はその上に寝かされていた。


「……ああ……」


 目覚めた瞬間、私は酷い絶望感に襲われた。


 カイル様は私を信じてくれなかった。


 今まで彼のために全力で尽くしてきたのにこんなに簡単に捨てられてしまうなんて。


 クラリスが偽物の聖印でカイル様を騙している可能性もある。


 でも……でも、そんなのもうどうでもよかった。


 彼を愛していた分だけ、婚約を破棄され裏切られた今は、心に傷が深く残ってしまった。


 私とカイル様の出会いは十年前。


 両親も知らない浮浪児だった私は街の片隅で友達代わりの精霊たちと話していた。


 その様子を兵士に見られ、聖女として見出された私はお城に連れて来られ、カイル様と出会った。


 昔から優しく正義感に溢れた方だった。


 虐められていた私をよく助けてくれる方だった。


 彼の力になるためならと、辛く難解な宮廷作法を寝る間も惜しんでゼロから学んだ。


 聖女だからというのもあっただろうけれど、正式に第一王子であるカイル様と婚約を結んだ時には泣いてしまったほどだった。


 でも……全部、終わってしまった。


「これから私、どうなるのかな」


 お城を追い出されて済むのか、処刑されるのか、一生このまま幽閉されるのか。


「でも……どうでもいいかな。全部全部、もうどうでもいいの」


 この世で一番愛おしかった人に信じて貰えず、裏切られた私は、全てどうでもよくなってしまった。


「今日、まだ魔力を渡していない精霊たちもいるけど……」


 こんな牢屋に呼び出して魔力を渡す気にはなれなかった。


 それに真の聖女が現れたなら、私がわざわざそうやって働く必要はない。


「もう……全部どうでもいいもの」


 私は体から力を抜いて、もう一度眠りにつくことにした。


 ……けれど夢の際、どこからか精霊たちの声が聞こえた気がした。


「ねぇねぇ。ルーミエをこんな目に遭わせる国に力を貸す必要ってあるかな?」


「うーん……ないと思うけど、私たちの王様に聞いてみない?」


「さんせー! 精霊王様は頭がいいものね。きっとルーミエを助ける方法も教えてくれるよ!」


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