新訳ラグナロク
寝過ごした
「じゃあ、文化祭の出し物をきめるぞ! 大和田!」
学級委員長の大和田が前に行き文化祭の催しものを決めるようだ。
「では、私が仕切らせていただきます。まず今年度の文化祭の説明からさせてもらいますが…」
そして大和田が意気揚々と説明を始めた。
我らが希望が丘高校の文化祭は3日間。
一日目、二日目は全クラス出店を行う。
そして2年生からは最終日、つまり3日目にはなにか劇を行うこととなっている。
開始時期は7月終わりごろ、ちょうど夏休み前だ。
わが校は、一応は進学校なので夏休み前に文化祭を終えて3年生は受験勉強に集中する。
なので最後のモラトリアムというやつだ。
とはいえ、今は7月初め、あとひと月ほどしか準備期間もないのだが。
「では、出店の案から聞きましょうか! 意見のある方はお願いしますぞ!」
そして次々とみんなの案が出てくる。
やきそば屋、たこ焼き屋、お好み焼き屋。食べものばっかだな。
「ふむ、もう少し色物も欲しいところですな。他に意見はないでしょうか!」
すると隣の席のレイナが話しかけてくる。
「剣也君…何がしたいですか?」
「出店なー。お化け屋敷とか、あと定番でいえばメイド喫茶とか?」
「メイド好きなんですか?」
「メイド嫌いな男はいないだろうね。レイナはすごく似合いそうだ、見てみたいな」
剣也が笑顔で答え、レイナのメイド姿を想像する。
(おかえりなさいませ、ご主人様…か。興奮するな。お仕置きしたい、いや、されたい)
にやにやが止まらない剣也をみて、レイナがまっすぐと手を上げる。
「おぉ、レイナ嬢! どうぞ!」
教室を静寂が包む。
普段無口のレイナの発言とあっては耳を傾けるしかあるまい。
一体どんな発現をするのかと、全集中。
「私メイドになりたいです。メイド喫茶を提案します」
「……」
教室を静寂が包む。
レイナの発言は、あまりに意外で全員が虚を突かれる顔をする。
しかし直後地響きが鳴る。
地震? いや、違う。
これは男達の武者震い。
「レイナさんのメイド喫茶……それってつまり」
男達は妄想する。
なぜかオムライスを、そしてなぜかケチャップを持つメイド姿のレイナを。
そして…
(萌え萌えキュンッおいしくなーれ! はい、できましたよ。ご主人様! あーんしてくださいね♥)
レイナに♥のオムライスをあーんされる妄想を。
「「「うわぉぉぉぉぉ!!! いただきまぁぁーす!!!」」」
男達は叫び声をあげる、隣のクラスが何事だと様子を見に来るぐらいの声量で。
満場一致、すべての票がメイド喫茶へと流れた。
反対しようものなら血の涙を流しそうな男達の勢いに押され女性陣も了承する。
「ま、まぁ? 楽しそうだしいっか!」
「そうだね、こんな機会じゃないとメイドなんてなれないしね」
「レイナさんと比べられるのだけは嫌だけど…」
そして2-1組、剣也のクラスの出店はメイド喫茶に決定した。
勇者レイナのメイドとあっては、売れ行きは期待できる。
というか学外含めテレビの取材まで来る可能性すらある。
「ふ、ふぅ。素晴らしい提案ですな。私興奮してきました。レイナ嬢なら2次元の嫁達ですら上回る可能性が…」
大和田も興奮し取り乱していたが、何とか落ち着きを取り戻す。
「で、では。メイド喫茶は決定としてですな。次は劇ですな!」
流れるように決定したクラスの出店。
そして次は劇をどうするかを決定する。
「有名どころでいえば、シンデレラとかの童話だよな」
「でも普通じゃ面白くないしなー」
「せっかく勇者がいるんだし…」
勇者レイナがいるんだから、それを使った劇にしたい。
そんな思いを全員が共有し、うーんと思案する声が充満する。
その時一人の生徒の頭に電球がつく。
「新訳ラグナロクはどうかな!!」
「あ! それいい!」
「今年の映画で一番人気だったもんなぁ!」
すると、聞いたことのある映画の名前が聞こえてきた。
確か宣伝がすごくて、興行収入が何百億いったとか、全米が泣いたとかの映画だったか。
ハリウッド映画だった気がするが。
「レイナ知ってる? 新訳ラグナロク」
「話は知りませんが、お仕事でどうかときたのは記憶にあります。まぁ私演技ができなかったのでお断りしましたが」
剣也もレイナもタイトルぐらいしかしらない新訳ラグナロク。
「説明しよう!」
するとその会話を聞いていたのか、大和田が新訳ラグナロクの概要を話してくれる。
お前さっきまで前にいたよな? いつの間にここまで来た。
「ネタバレは厳禁ですからな! おおすじだけですが」
新訳ラグナロクは、古くからある神話を現代版にリメイクした映画のようだ。
CGをふんだんに使い、果ては装備品まで使用して激しいバトルシーンを再現したらしい。
ラグナロクといえば神々の最終戦争で有名だ。
フェンリルや、ヨルムンガンドなどの魔物達が神々と戦争をするという話だ。
雰囲気だけはよく小説や、漫画、アニメででてくるので知っている。
それぐらいの知識しかないが。
「そして、化物達のボスを魔王、そして神々の神兵のリーダーを勇者と呼んだのです」
そしてこの作品に登場するのが魔王と勇者。
最後には勇者が魔王を倒すのだが、その結末がとても悲しいものだったらしい。
魔王が化物達を操り、神々から神器を授けられた人間達が化物を倒す。
それが新訳ラグナロクの話のおおすじだ。
「せっかくレイナ嬢がいるのです! 新訳ラグナロクなら相当目立ちますぞ! その分期待は高まりますがな」
「レイナどう?」
「うまくできるかわかりませんが、今なら昔よりは演技できると思います」
「おぉ! レイナ嬢のお許しが出ましたぞ! では賛成の方は挙手をお願いします!」
そして全員の手が上がる。
これで2-1の劇は決まった。
新訳ラグナロク 主演俳優つまり勇者はレイナと決定する。
「では、他の配役も決めていきますか」
そして次々と配役が決まる。
そもそも台本もできていないのに、よく決まるなと思ったが登場人物はそれほど多いわけではないらしい。
「あ! 台本は私がつくるね!」
演劇部の女の子が台本の作成を提案する。
彼女は、早乙女 一花さん。
演劇部らしく、明るく元気で声のよくとおる女の子だ。
多分あの子が演技指導をするんだろう。
「ふむふむ、どんどん役が決まりましたな。残すところは後一つですな。まぁレイナ嬢と美味しい場面もありますし…やはり」
そして最後の配役を決める。
なぜか全員が僕を見る。
「では、御剣氏! 魔王をお願いできますか?」
また夕方一話あげます




