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でもお高いんでしょう? 値段も階層も。

 翌日僕らは国際展示場駅に赴いた。

ここは、東京湾が目と鼻の先の駅。

どうせギルドの本部を借りる、もしくは購入するならこの辺がいいだろうということになり田中さんと相談した結果だ。


「さてと、田中さんが言うにはいけば向こうから声をかけてくれるといっていたが…」


 レイナに車椅子を押され、奈々と美鈴の4人で駅の改札を出たところで待機した。

相変わらずレイナが指を刺されている気がするが、話しかけてまではこない。

さすがは東京、有名人には慣れている。


 埼玉とは違う。ディスではないぞ?

単純に遭遇率の問題だ。

あとは車椅子を押していることもあって気を使ってくれているのかな?


 時刻は、土曜の14時ごろ。

季節は、初夏。

日差しが強くしかし、心地よい風が吹いて気持ちいい。


 すると剣也達に大手を振ってスーツの男が走ってくる。


「御剣様でございますですね! 私田中様からご紹介されました。根津と申します!」


 出会いがしらに、挨拶を手早く済ませ名刺を渡すサラリーマンで出っ歯の男。

紫のスーツが怪しさを加速させ、根津という名前とその見た目からネズミを想像させる。

しかし懇切丁寧な態度から見た目で少し損をするタイプのようだ。


「初めまして、根津さん。御剣です。今日はよろしくお願いします」


「いえいえ、御剣様率いる勇者レイナ様のギルドの本部とあっては、私も熱が入るというものです」


 手をもみもみさせて、こちらを持ち上げに持ち上げてくる。

でも悪い気分ではないな、これがごまをするというやつか。


「お話は聞いておりますが、レイナ様と、妹の奈々様、あとはギルドメンバーとして美鈴様でよろしいでしょうか?」


「はい、当分はこの4名で暮らすことになるかと」


「了解いたしました! ではお車をご用意しておりますのでこちらへどうぞ!」


 そして僕達は車に乗って、物件へ向かう。


「いやーそれにしてもその若さでご立派でございますな! うちの息子に爪の垢を煎じて飲ませたいものです!」


「いえいえ、そんなことは。ちなみに今日はどんな物件なんですか?」


「私共の精一杯の物件でございます。お値段も田中様のご紹介とあっては全力で頑張らせていただきますよ!」


(そういえば、条件とか特に決めてなかったけどどうなんだろう。田中さんが任せておけというからそのまま任せっきりになっちゃったな)


 そんな話をしていると、物件についたようだ。


(ここかな? うん、綺麗そうなところだ)


 巨大なホテルの傍に隣接された中型のマンション。

交通の便もよさそうで、ここからなら徒歩でダンジョンにすらいけるだろう。

しかし、こんな一等地のマンションだ。

この大きさとはいえ、相当な値段だろう。


 僕がそのマンションを車椅子から眺めていると、レイナが僕を押しながら通り過ぎる。


「レイナ? 通り過ぎたよ?」


「根津さんは、あっちに歩いてますが?」


「へ?」


 そして僕はレイナの目線の先を見る。

まるで帝国のホテルを思わせるその巨大なホテルに根津さんが入っていったから。

そして自動扉が開き、僕らを誘う。


「ささ! こちらでございます!」


 中には高級ホテルのロビーのような空間が広がる。

っていうかホテルのロビーだった、なんせ受付がいる。


「こ、ここですか? 根津さん」


「はい! 自信をもってご紹介できるお部屋ですよ!」


「お兄ちゃん…」

「先輩…」


 美鈴と奈々も面食らってしまっているようだ。

美鈴も施設育ち、僕らは貧乏育ち。

こんなホテルとは縁もなく育った、ならば一歩踏み出すのですら緊張もするというものだ。


 僕らはゆっくりと一歩を踏み出す。

あー涼しい、この広い室内を冷やすためにどれだけの電力が使われているんだろう。

我が家なんていまだにうちわしかないんだぞ、人力オンリーだ。


 そして部屋まで案内されることになる。

エレベーターだけでうちの家の半分以上あるんだが?


「室内温水プールをはじめ、コンシェルジュサービス、スカイラウンジ、スポーツジム、屋上にはバーもございますよ」


(ここマンションだよな? 高級ホテルみたいだ…僕ら全員未成年なのでバーは無理だけど)


チーン!


「ささ! つきました、この階でございます。新築ですがご予約でいっぱいでして、この階も御剣様のために残しておりますです、はい!」


(すげぇー、まるでテレビで見る豪邸の中だよ…)


 豪華なエレベーターを開けた先に待っていたのは、カーペットの床の廊下。

ここは、32階層。ダンジョンですらまだ到達していない高階層だ。


 そして案内されるがまま綺麗な真っ白なドアを開けると、僕の家より広い玄関が待っている。

今日僕の部屋より広いしか言ってない気がするが、黒と灰色の大理石でできたピカピカの玄関だ。


「うわぁー、すごいね。お兄ちゃん、うちより広くない? この玄関」


 唖然とする奈々。


「きゃー! まるでテレビの中みたい!!」


 テンションが上がり、飛び跳ねる美鈴。


「…」


 無表情のレイナ。


 三者三様の反応をしながら、中に入って探索を開始した。


「どうぞどうぞ、ご自由に見てくださいませ。仮にご購入することとなりましたら置いてある家具はすべて差し上げますです、はい!」


 家具は全てくれるらしい、この意味の分からない前衛的なオブジェクトもくれるんだろうか。

なにを表しているんだろうか、僕には全然わからないが多分おしゃれなんだろう。


 枯れた木を組み合わせて作られた何かのオブジェクトをはじめ、おしゃれアイテムがたくさん立ち並ぶ。

何が書かれているかわからない絵も壁にかかっているし、これが芸術か。うん、まったくわからん。


「すっごい、このソファ! やわらかーい」

「ちょっと美鈴!………そんなに? うわすご…」


 二人は緊張が解けたのか、あっちへ、こっちへと笑い声をあげながら探索を開始した。

何部屋あるかわからないが、この部屋だけで50人ぐらいは入りそうだぞ。


 そして僕は、パーティーでもするのかと思うほどのその広いリビングを抜けてベランダに行く。

そこには、中にあるジャグジー付きの丸い巨大なお風呂とは別に、露天風呂用のお風呂スペースがあり高階層から海を眺められる。


 はずだった。

しかし目の前にあるのは、東京湾ではなく巨大な塔。

景色が悪いわけではない、むしろ海から空へそして星まで貫くその塔の迫力は幻想的ともいえる。

ここからダンジョンは目と鼻の先のようだ。

いつも満員電車で向かっていたダンジョンが徒歩で向かえる。


「すごいですね…。僕とは住む世界が違う、貧乏高校生とは」


「いえいえ、田中様からはご予算はこれぐらいと聞いておりますよ? すぐに完済するぐらいは稼げるはずだと」


「予算? そうだ、ここって…いくらになるんですか」


(いわゆる億ションという奴だろう、もしかしたら一億に近い金額なのかもしれない)


 しかし剣也の想像を大きく上回る金額が提示される。


「はい! こちらの物件4億8000万になります」

 

「4、いや5億!!?? そ、そんなの払えませんよ!」


 僕はめまいがするような錯覚に陥りベランダに用意された椅子に驚き座り込む。


(うわ、外に置いてるこの椅子ですら高そうだ…)


 僕の収入は月5000万、しかし税金等で3000万ぐらいになるらしい。

とてもじゃないが5億は払えない。


「そういわれるだろうと田中様から聞いております。その時は御剣様から田中様に電話するように伝えてくれと言われておりますよ」


 根津さんが、笑顔で答える。


(すべてお見通しですか…)


 そして剣也は、田中に連絡する。


プルルルル♪ プルルルル♪


「やぁ! 剣也君。連絡があったということは高すぎますよ!って感じかな?」


「うっ! はい…そりゃ部屋は綺麗だし、広いし、交通の便もいいので住めるなら住みたいですけど…5億は…」


「はは! 月収5000万の男が言うことじゃないね! まぁそういうと思ってね、いいバイトを用意しているんだが君の二週間をくれるかい? どうせその傷じゃダンジョンには潜れないだろ?」


「バイト?」


 僕の中にいいバイトという言葉が反響する。

イメージするのは、バーニラバニラ高収入…なわけないか。


「あぁ、まぁ難しいことじゃない。君にしかできないことだがね」


 説明するから今日このまま会社まで来てほしいとのことなので了承し電話を切った。

バイトにはレイナと二人でくるようにとのことだった。


「いかがでしたか?」


「はは、多分買うことになるんでしょうね…」


「それは、それは!」


 根津さんが満面の笑みで僕を見る。



「さて…お膳立ての準備を始めようか」

 

 電話を切った田中は、剣也に頼むアルバイトの準備をする。

そのために部下に電話をかける。


「あぁー私だ。少し買ってきてほしいものがあってね。あぁ、そうだ。それで布団を二つほど買ってきてくれるかい? できるだけカップルっぽいやつをね」



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