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十畳の焼肉屋

「奈々!」


 佐藤をボコボコにしたあと急いで我が家に帰った剣也。

きっと妹は泣いている。

早く帰って抱きしめてあげたい。


 そう思っていたのに。


「おかえり、お兄ちゃん!」


 家の外で兄の帰りを待つ妹は、想像より元気だった。


「よかった、心配したんだからね!」


「あ、あれ?」


 なんか思ったより元気だぞ?


「な、奈々? 大丈夫なのか?」


「うん、お兄ちゃんが帰ってきたってことは悪党を成敗してくれたんでしょ?」


「あ、ああ。ボコボコにしてやった。今度謝らせにくるよ!」


「い、いいよ! もう」


 そして妹は兄に抱き着き、胸に顔をうずめる。


「無事に帰ってきてくれただけで十分…」


「奈々…」


 兄も優しく、抱き返す。


◇時は少しだけ戻る


「美鈴、奈々を頼む。やらなきゃいけないことがある」


 そういって、剣也先輩は奈々を私に預けた。

服がボロボロで、涙を流す彼女。

想像はたやすい、きっと男に襲われたんだろう。 


 そして剣也先輩は、その悪漢を成敗しにいったと。


「奈々…」


 美鈴は、ゆっくりと奈々に近づき抱きしめる。

その胸でひとしきり泣いた奈々はなんとか落ち着きを取り戻す。

 

 泣きながら断片的に状況を話してくれたが、どうも体をまさぐられたが最後まではされなかったようだ。


 だから美鈴は、奈々を勇気づけようと話すことにした。

友達から同居人、そして親友になった奈々に話すことにした。

せめて少しでも彼女の気持ちが明るくなればと。


「わたし、汚くなっちゃった…」


 そういって自分の身体を何度もこする。

私はこの気持ちを知っている。


「奈々は汚くなんかないよ」


 奈々は、その美鈴の言葉を否定し首を振る。

自分は汚れてしまったと。

それを見て美鈴は話し出す。


「ねぇ、奈々。私は汚い?」


「え?」


「私もね、襲われたことがあるの。しかも中にまで出されちゃった。私汚い?」


 衝撃の事実を話す美鈴。

その驚きに、涙も引っ込む。


「う、ううん! 美鈴は汚くないよ! 綺麗だよ!」


 奈々は必死に否定する。


「じゃあ、奈々は汚いの?」


 言葉に詰まる。

もしここで汚いといえば、親友のことも汚いということになってしまうから。

だから首を振る。

そして美鈴は優しく微笑む。


「少し触られただけだよ! 犬にでも舐められたと思ってさ! 気にしない、気にしない! ちょっと夢見させてやったって思ってさ!」


 軽い言葉で、気にすることじゃないと笑い飛ばそうとする。

その意図を理解した奈々も少しだけ笑顔を見せる。

そして美鈴は、奈々をもう一度抱きしめた。


「ほら、もう涙も引っ込んだ。それにきっと先輩が悪党共をボコボコにしてきてくれるからさ! 大丈夫!」


「で、でも、お兄ちゃんじゃ…」


「奈々、知らないの?」


「え?」


「剣也先輩って、めちゃくちゃ強いよ!」


 それから美鈴の過去を奈々は聞いた。

ダンジョンで剣也が美鈴を悪党共から助けてくれたことも。


 いつの間にか涙は収まる。

美鈴の話を聞いてると、あんなに辛かったのに大したことじゃないと思えてきた。


「ふふ、美鈴って強いね」


「あたぼうよ! 伊達に親に捨てられちゃいないぜ!」


 腕を組み、鼻息を荒くし男らしく振舞う。

その自虐的ギャグに、思わず声を出して笑ってしまう。


「なんか、ちょっと元気でちゃった」


「よかった! 私も犯された甲斐があったってもんよ」


「もう。美玲その見た目でメンタル強すぎ」


 二人の少女は笑い合う。

すでに過去を乗り越えた少女の力で、一人の少女も乗り越える。

そして奈々は立ち上がった。


「私、お兄ちゃんを外で待つ!」


「うん!」


◇そして今


「おかえり、お兄ちゃん」

「あぁ、ただいま」


 無事帰ってきた兄を妹は抱きしめる。

そして二人で家に戻る。


「おかえり! 先輩!」


「あぁ、ただいま。ありがとな美鈴」


「ちゃんとやっつけた?」


「おう、ボコボコだ。歯なんか全部抜けたぞきっと」


「さすが、先輩!」


 よっしゃ!っと美鈴と剣也がハイタッチする。

それを見て奈々も笑う。


ぐぅぅぅ~


 突如お腹の音がなる。

誰だと、周りを見渡すと恥ずかしそうに手を上げる奈々。

緊張が解け、安堵によってお腹が思い出す。


 もう夕飯時はだいぶ過ぎている。

それを見た剣也は思い出したかのように、手を叩く。


「よし! 待ってろ!」


「え? どこ行くの?」


「買い物!」


 そして剣也は外へ駆け出した。

ものの10分ほどで帰ってきた剣也、装備のステータスを全力で使って走ってきたんだろう。

そしてその両手には、ビニール袋。


 乱れる息を整えながら、剣也はビニール袋を掲げてこういった。

もちろんその中には…。


「今夜は焼肉だ! めちゃくちゃいい肉だぞ!」


 奈々が食べたいと言っていた大好物の焼肉だった。


「まじ? やった!!」

「お、お兄ちゃん…」


 美鈴は飛んで喜び、奈々も剣也の意図を理解して微笑む。

そして始まる焼肉会。


 ジューっと肉が焼ける音と、煙が部屋いっぱいに充満する。


「あ! 美鈴それ俺が育てた肉だぞ!」

「早いもん勝ちだよ!」

「ほう、俺に勝負を挑むか…フン!」

「あ! 肉が! ず、ずるい! 先輩装備品つけてるでしょ!」

「もう! まだたくさんあるから!」


 3人の笑い声が部屋いっぱいに充満する。


 狭くて古くてぼろいけど、とてもこの部屋はあたたかい。

肉を焼いてるから? それも一つの理由だろう。


 でもそれだけじゃないはずだ。

たった十畳の焼肉屋、今日は兄のおごりだからたくさん食べよう。


 お腹いっぱいにして、胸をいっぱいにして、いっぱい笑おう。

今日は色々あったけど、たくさん悲しくて泣いたけど。

それでも最後に笑顔になれたならきっとその日は良い日だから。


ここまで読んでくださった読者の方々ありがとうございます。

追放ざまぁものを書いてみようと思い立ち、書いては見たものの、想定よりざまぁまで時間がかかってしまいました。


またムカつく適役を作ろうとしたらほんとに胸糞過ぎて不快に思われた方も多いかと思います。

申し訳ありませんでした。

また性的な表現が苦手な読者の方もいらっしゃりその点については弁解の仕様もありません。

大変申し訳ありませんでした、前書き、あとがきに記載するべきでした。


これにて追放ざまぁ編完結です。

導入までに30話?かかってしまいました。

次の話からなんと30話にして、やっとヒロインが登場します。

遅すぎる(笑)


とはいえ、彼のサクセスストーリーは始まったばかり。

まだ10畳一間から抜け出せてもいませんし。


一応章の終わりになりましたので、一度だけ。

もし少しでも楽しんでいただけたのなら下から★で評価をしていただけると励みになります。


では、第2章からもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしいかった! 人が何かを乗り越えた瞬間というのは読むのがわくわくしますね。
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