半透明でシャキシャキの同盟
「あ!?」
「剣也君のところに行かせるわけにはいかないね」
「あいつの仲間か! なんだてめぇは!」
「なんだ?…か。確かになんだろうね」
そこに立つのはスーツを着た黒光りする眼鏡の男。
田中一世だった。
眼鏡を上げて、佐藤の質問に思考を巡らせる。
「彼と私の関係は、なんだろう。ビジネスパートナー? うーん、ちょっと違うな、そんな損得だけの関係ではない」
「だからなんだってんだよ!」
「うーん」
思考を巡らせ、うーんと唸る。
もっといい表現がありそうだと。
「あ、そうだ! いい言葉があるじゃないか!」
そして田中は、手のひらをポンと叩いて閃いたという仕草をする。
そしてお茶らけた雰囲気を吹き飛ばし、まっすぐ佐藤を見据えて答える。
「同盟相手」
その得も知れぬ圧に佐藤は一瞬怯む。
しかしその恐れを吹き飛ばすように大きな声で命令する。
「ふ、ふざけんな! やっちまえ!!」
男達が田中に殴りかかる。
ただの社長でビジネスマンだ。
この量の探索者相手では何もできずに、ボコボコにされるだろう。
「佐藤君、武力で勝てなかったから、より強い武力を持つのは正しい」
危機的状況のはずなのに、田中は一切手を出さない。
まるで殴られるのを待っているように。
「まぁ少し詰めが甘いがね、正しくは、目には目を、歯には歯を、武力には」
そして殴られる寸前でこう答える。
「より圧倒的で、最強の武力を、だよ」
そして田中に殴りかかった探索者達が吹き飛ばされて空を舞う。
何が起きた? 銀、金級探索者達だぞ!?
吹き飛ばされた探索者、そこから現れた一人の男。
「一世さん、俺も暇じゃないんすけどねぇ」
煙草をくわえて、だるそうに。
身の丈ほどの大剣を肩に担ぐナイスミドルのナイスガイ。
無精ひげを生やしながら、それでもムキムキな筋肉質のTHE・兄貴。
その正体は…。
「て、天道…り、龍之介!?」
震える声で佐藤は、気づき後ずさる。
探索者なら誰でも知ってるその人物。
上には上がいるという言葉が、ただ一人この世界で通用しない存在。
トップギルド【宵の明星】団長、最高階層到達者。
彼の肩書は多く伝説も多い。
しかしそれでも一番呼ばれる肩書が、シンプルに彼を表すだろう。
ただ一人世界中で彼だけが名乗ることが許される肩書。
【世界最強】の探索者。
その笑ってしまうほどのわかりやすい看板を引っ提げた男が佐藤達の前に立っていた。
「まぁ、そういうな。いずれ一緒に戦うことになる仲間のためだ」
「へいへい」
そして男は一歩を踏み出した。
気だるそうに、まるでゴミを掃除するように。
「正当防衛だが、龍之介。気絶程度にな」
そのためにぎりぎりまで引き付けて証拠も抑えたのだから。
まぁ、この映像の目的はそれではないが。
「ひっ!」
佐藤達は後ずさる。
銀級? 金級? そんなものが相手になるわけがない。
だって彼は、日本初のダイヤ級冒険者なのだから。
…
「ば、化けも…の…」
30人からなる佐藤の軍勢がものの数分で、全員が地面に倒れる。
ステータスの暴力は、戦いを数から個へと変えていた。
強大な個の前では、有象無象は象の前の蟻に等しい。
それを見ていた佐藤は、何が起きているかいまだ理解できないという顔で口をパクパクさせる。
唯一理解できるのは、あの化け物があの無能の味方をしているということ。
なぜあいつの味方をする。
なぜあんな無能の味方をするんだ。
もはや自分がその無能にボコボコにされた事実など忘れている佐藤。
「なんだよ、なんなんだよ!」
そして最後の一人、既にボロボロの悪童の前に、立つのは天童。
「一体何が起きてんだよぉ!!」
相手になるはずもなく天の裁きを受けるが如き一撃で意識を失う。
「さてと、片付いたな。じゃあ最後の仕上げに向かおうか」
偶然田中がここに居合わせた? 天道を連れて? そんなはずがない。
あの契約の日、特A級待遇の剣也のことを心配し調査した田中は、佐藤の存在に気づく。
しかもこの佐藤という粗暴な男は、あのライバル会社の社長の息子だというから驚きだ。
ある目的のために、あのライバル会社の何か弱みを握れないかと苦心していたところに、舞い降りたチャンス。
そして剣也を見張らせていた部下からの報告で、田中の作戦は決行された。
(まったく詰めが甘いな、剣也君も。まぁそのおかげで計画もすんなりうまくいったが…)
倒れる探索者達を見ながら田中は思った。
もしこの探索者が全員剣也の元へ向かっていたらただではすまなかったはずだ。
それこそ死の可能性すらも。
向こう見ずで真っ直ぐな少年は自分の赴くままに行動したのだろう。
(まぁいいさ、こういう裏工作や、謀は私の役目だ)
田中も綺麗事だけでここまで成り上がったわけではない。
汚いこともたくさんしてきた。
そういったことも必要な場合はある、それでも…。
(探索者は、それでいい)
汚い役は自分が請け負う。
だから君は望むがままに、行動するといい。
望むがままに、欲望が赴くままに、夢を追いかけるといい。
(それがきっと)
田中は、天高く聳える塔を見る。
そしてその見えない雲の先を見据えた。
(あの塔の頂きへと君を導くはずだ)
血、骨、涙、絶望そして夢。
欲望渦巻くあの塔へ、そしてその頂へ。
(でも今は少しの間だが、僕が導いてあげよう)
空を見ながら田中は笑ってつぶやく。
「同じくモヤシで成長した先輩としてね」
そして田中は、最後の詰めに向かった。
お昼ごろに2話連続投稿して、一区切りです、お待ちください。




