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ご飯で釣れると思ったら大間違いなんだからね!

「っとその前に…剣也君お腹減ってるかい?」


 お腹? モヤシしか入ってませんが、その状態を減っているというなら減ってます。


「モヤシ炒め(モヤシのみ)を食べてきました、でもまだまだいけます」


「ははは! モヤシ炒め(モヤシのみ)ね! ははは!」


 そんなに笑わなくてもいいだろう。

貧乏を笑うな、モヤシは偉大だ。

僕がブスっとした顔をしているのに気づいた田中さんは、謝りだす。


「いやーごめん、ごめん。つい懐かしくてね。僕も昔はよく食べたもんだ。モヤシと焼肉のたれのみでね」


 なんと、田中さんはモヤシっこだったか、ならば同盟を結ぼう。

もやし好きに悪いやつはいない、悪いのはいつだって僕らを貧乏にした世間だ。


「私もね、昔は貧乏でね。親を早くに亡くしたもんだから高校も途中でやめてしまった…。なつかしいなモヤシ炒め毎日食べたよ…」


 懐かしむような眼で田中さんは空を見る。

過去を振り返っているのだろう、こんな大企業の社長なのにそんなこともあるのか。


「全然見えませんね、こんな大企業の社長さんが」


「まぁそのハングリー精神とでもいうのかな、それが功を奏したよ。今では毎日高級料理ばかりだがね」


 さすがは成功者。

モヤシ同盟は、破棄させてもらおう、残念でならないが。


「それで剣也君。回らない寿司と、鉄板で焼かれる肉どちらがいい?」


 え? もしかしておごってくれるんですか?

餌付けしようなんて、僕はそんなものに屈しないぞ!!



「な、なんじゃこりゃぁぁ!!」


 僕は、まるで肉のような赤身の魚、つまりはマグロと酢が適度に効いた米、つまりはシャリの合体した料理を食っていた。

寿司という食べ物らしい、寿司ぐらい食べたことあるだろうって? そりゃありますよ。回転するやつとスーパの特売ね。


 あれを寿司というなら、これは寿司じゃない。

これを寿司というのなら、あれは寿司じゃない。


 いままで食べてきたものの中で一番おいしいかもしれない。

食費計算ミスって二日断食した後の牛丼並みにうまい、あれは辛かった。


 口の中でとろけて消えるその大トロは、一口で我が家の食費10日分はあるらしい。

これが、ザギンでシースーというやつか。ここ銀座じゃないけどね。


「はは、そこまで美味しそうに食べられると私もうれしいよ」


「めちゃくちゃうまいですね! あ、もう一つこれください」


「あいよ! 田中さん、この子も探索者? まだ若いのに立派だねぇ」


 目の前で、頭にタオルを巻いたいぶし銀なおじさんが寿司を握ってくれている。

まるで、魚とシャリがひとつなぎのような一体感。

宝石のように輝くこの寿司。


 テレビの中だけだと思っていたが、ひとつなぎの大秘宝は実在する!


 適度な温かさで口当たりが良い、何個でもいけそうだ。

ここが最果ての地か。


「あぁ、うちのエース級になる予定の子だからね、この店を紹介がてら連れてきた」


「なります! 精一杯頑張らせてもらいます。自力でここに来れるくらいに!」


「はは、うれしいねぇ、ほらサービスだ。たくさん食いね、どうせ田中さんのおごりだ」


 剣也は、簡単に餌付けされていた。

だってこんなにおいしいんだもん、人生で感じる幸せの3割ぐらいはうまいものを食べることだろう。

いつか奈々や、母さんもつれてきてあげたいものだ。



「おいしかったです~」


 寿司をたらふく食った剣也達は、社長室に戻る。

そして受付のお姉さんが、温かいお茶をもってきてくれた。

染みわたる緑茶が上品な魚の油を溶かして流す、至福って感じ。


「それじゃ、おなかも膨れたことだしそろそろ契約の話をしようか」


「はい! あ、これ母の委任状です。僕の人生なので、好きにしなさいと言われてきてますので!」


「理解のあるお母さんで助かったよ」


 剣也が委任状を田中さんに渡す。

そして田中さんも契約書を広げる。


「まぁ、こういう書類だ、難しい言葉をつかって書いてあるからね、要約しよう」


 田中さんが契約の内容を要約してくれた。


 一つ 僕は、特別な事情でもない限りほかの企業へ装備品を卸さないこと

 

 これは、田中さんが買い取ってくれるなら何も問題はない。


 二つ 王シリーズは、月に最低50個納品すること、ただし田中さんが騎士シリーズを用意できなかった場合はその限りではない。


 これは、田中さんが配慮してくれた。

錬金を使って強くなっていくこともあるだろうし、とりあえず限界の一日2個ではなく、無理のないように月で50個でと。

正直この提案は、とても助かる。


 三つ ギルドを設立すること


 これは、田中さんからのお願いだ。

個人でもできなくはないが、ギルドをつくったほうがいい。

ギルドといっても実際は、法律上は法人のようなものつまり会社だ、それを探索者が集まる会社なのでわかりやすくギルドと呼んでいるだけ。

実際契約するには、個人より会社のほうがもろもろが都合がいいらしい、おんぶに抱っこで設立を手伝ってもらうため正直よくわからん。


 以上が契約の内容だった。

ギルドを作ること以外は、特に問題はない。

確定申告とかよくわからんけどね。


「で、これが月の取引予定金額と君の収入だ。まぁ税金等の差し引き前だがね」


 そして、見せられた資料。


「う、うそ…」


 僕は騙された。


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― 新着の感想 ―
[良い点] よくもだましたアアアア!!(ヒストリエ並感)
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