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圧倒的な王の力

「お、おい! 武!」


 もう一人の男が、飛ばされた男に駆け寄る。

頬をさすりながら、揺れる脳を抑え男は立ち上がる。


 二人は、こちらを睨みながら振り向いて怒声を上げる。


「な、なにしやがるんだ!」

「いきなり殴りやがって! 殺される覚悟できてんだろうな!」


 二人の男が立ち上がり剣也に殴りかかり、切りかかる。

一人は剣士、もう一人はモンクのようだ。

さすがに殺す気はないようだが、それでもこのままだと相当に痛い思いをすることになるだろう。


 剣也は、右手一本で日本刀を振り切る。

その一閃は、その男の鋼の剣をはじいて遠くへと吹き飛ばす。

男は何が起きたと唖然とする。


 もう一人の殴りかかってきた拳は左手で握る。

その拳を剣也は受けて上から握り返す。


「何しやがる? それはこっちのセリフだが?」


 信じられないぐらい低い声が出た。

まるで佐藤への怒りをそのままに。

 

 そしてその握った拳に思いっきり力を込める。


「痛たたたた!! タイム! タイム!」


 男は膝をつき、許してくれと嘆願する。

剣をはじかれた男も自分との実力差を感じたのか、謝りだす。

多分この男達の装備は騎士シリーズ。

王シリーズの剣也には、相手にならない、圧倒的な王の力。


「す、すまねぇ、なにかしたなら謝るから許してくれ」


 掌を高速回転させた男達は、とりあえず謝りだした。

これ以上やっても叶う相手ではなさそうだ、その判断はできるほどの冒険者。


「あの子に謝れ、そして自首しろ」


「な、何の? お、お前!」


 剣也が指さす先には美鈴がいた。

男達は美鈴を見た瞬間意味を理解した。


「あの子に見覚えがないとは言わせないぞ」


「あ、あ、そういうこと…あんたあの女にたぶらかされた、痛い! 痛い!」


「謝るのかどっちなんだ?」


「す、すみません、ごめんなさい、謝りますから手を離して!!」


 そして剣也は手を離す。

男達は、両手をついて地面に額をこすりながら美鈴に謝った。


「す、すみませんでした!!」


 謝り慣れているかのような見事な土下座だった。

少し感心してしまう。

ここまでプライドを捨てて掌を回転できるものも少ないだろう。


「い、いいんです、私が悪いんですから」


 美鈴は、手を前に出し首を振る。

自分も悪いんですからと後ずさる。


「美鈴!」


「ひゃい!」


 いきなり剣也に大きな声で呼ばれた美鈴は、驚き変な声を上げる。


「君は何も悪くない、いじめられたほうも悪いなんてことは絶対にないんだ。いつだって虐めたやつがわるい。被害者は被害者で、加害者は加害者だ」


 まるで自分に言い聞かせるように、剣也は美鈴に言う。

虐められたわけではないのだが、剣也にとっては同じこと。


「そして、こいつらは加害者、君は被害者だ。謝る必要なんか君にはない」


 その剣也の言葉に美鈴は、素直に謝罪を受け入れることにする。


「はい…じゃあ謝罪を受け取ります。今後こういうことはないように」


「へ、へぇ!」

「ありがてぇ!」


「じゃあ、俺たちはこれで…」


 そそくさと帰ろうとする二人の肩を剣也は叩く。

そして笑顔でこういった。


「自首しろ、相応の罰を受け取れ」


「やっぱりだめ?」


「だめだ」


 そして剣也は一階層へのゲートをくぐり二人をダンジョン協会に突き出して自首させた。

これでゲートが解放され次からは1階層から直接10階層へと挑戦できる。


 ダンジョン協会とは、このダンジョンを取りまとめる協会だ。

警察や、軍人とはまた違うが、結局は国が運営している協会である。


 ダンジョン内での法整備が進まないなか発足された特殊な組織だ。

今回のことは、ダンジョン協会の規定に照らせば多分裁かれるはず。


 結果として二人は冒険者資格を剥奪された。

冒険者は申請しなければなることはできない。


 その資格を永久に剥奪されたので、彼らは二度とダンジョンへ潜れないのだ。

とはいえ正直殺人未遂として刑を執行されてもおかしくないのだが、そこは美鈴が収めた。

そこまでのことではないと。


「いいのか?」


「いいんですよ! どっちかっていうと剣也さんのほうが怒ってますし」


「いや、はは、すまない」


 確かに、僕は自分を美鈴に、あいつらを佐藤に重ねてしまっていた。

用事は終わったので、それじゃ! と別れて愛さんのところにいこうとすると美鈴が剣也の袖をつかむ。

.

「それで剣也さん、連絡先だけ教えてほしいです。冒険者になったけど頼れる人がいなくって…」


「ん? それは構わないよ」


 そして僕と美鈴は連絡先を交換する。

ピロン♪ という音と共に美鈴の連絡先がスマホに入る。


「あと高校どこですか?」


「高校? …希望が丘高校だよ」


「あ、中学の時の友達がいってます! あと、住所も教えてください」


「じゅ、住所!? な、なんで?」


「一応です、念のためです」


「なんの念かわからないけど…埼玉県XXXXXXだよ?」


 美鈴はスマホに、剣也の住所を早打ちする。

その長い爪でよくもそんなスピードで打てるな。


「あと家族構成も教えてください、念のため」


「なんの!? い、今は妹と二人暮らしだけど」


(妹さんか…親がいないならわんちゃんあるかな)


 なにかぶつぶつと美鈴は言っている。

そして作り笑いではない満面の笑みで顔を上げた。


「じゃあ、今度お礼させてくださいね! また会いましょ! 剣也セ~ンパイ♥」


 そして美鈴は行ってしまった。

最後の笑顔が、とても印象的に頭に残る。

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