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作者: 水底に眠れ

化け物には化け物をぶつけンだよ!

 バシー海峡沖をその艦は進む。1941年の終わりに生まれた彼女・・・<<大和>>は、半世紀以上を経た今、帝国海軍現役最古のフネとしていまだに海上に居た。米艦で言えば、DON'T TREAD ON ME(私を踏むな)、というやつだ。ちなみにその称号は<<ノースカロライナ>>がずっと保持している



『英艦隊、接近します』

『流石は英国だな、定刻通りだ』




 今回の国際観艦式に招待された艦のエスコートが<<大和>>の役目だった。即応部隊として第三艦隊にある本艦含め、その所属艦は海外艦艇のエスコート役を配される事が多い。実際、接近してくる英艦は顔馴染みである極東艦隊のフネ



『<<St.パトリック>>、<<ヴァンガード>>、航行序列に参加します!』

『邂逅を祝すと発光信号打て』



 チカチカと発光信号を送る。<<St.パトリック>>、英海軍が最後に建造したN級、いや、改設計を行い超N級とも呼べる艦である。この大和級の2隻、そしてほぼ船体を同一し、モンタナ級対抗の為に建造された紀伊級4隻を打ち倒す為に4艦建造され、名前からは守護聖人級ともされる。この大和を倒す為に、本来の設計であった18in3連装砲3基から20in砲を連装3基にしており、まるで紀伊級の原計画であった超大和級を英国でやったようなフネである

 極東艦隊で戦艦同士としては良く顔を合わせるのもあって、お互いに相手をどう殺すかをよく考える仲である。良いライバルというべきか。1発の火力では2t近い砲弾を放つパトリックが上回り、速力もパトリックが勝るが、防御に関しては速力維持のために多少劣り、投射重量では本艦、大和が上回り、18in連装四基の紀伊級は同等、火力がある為に砲塔が損害を受けて使用不能になるなどが発生する場合を考えると紀伊級の方が戦闘の相性としては良いとされる


 続く<<ヴァンガード>>は、当初フッド、そしてレナウン級の2隻の巡洋戦艦に一隻足して運用に幅を持たせる為に計画された艦であるが、第二次欧州大戦初期に戦没したフッドに代わり守護聖人級が就役するまで、英国の誇りとして君臨した艦であり、KGⅤ級の5隻と合わせて英国の屋台骨を支えている。本邦の白根・高千穂級、あるいは既に南米諸国に売却されてしまったが、米アラスカ級、そしてソ連の保有するクロンシュタット級やスターリングラード級といった大型巡、あるいは新弩級艦を殺す艦である。実際、欧州大戦の時に<<シャルンホルスト>>をKGⅤ級が打倒しているので実績もある。フォークランド紛争の際にサッチャー政権が海軍の主力艦部隊の投入を渋ったせいで敗戦、退陣に追い込まれたという曰く付きのフネでもある。



『引き続き、イタリア艦隊が接近してきます!』

『こちらも定刻どおり。東洋の海は久々だろうが大したものだ』



 予定としては観艦式の後は天津へ寄港すると聞き及んでいる。イタリア東洋艦隊が海上にあったのはそれこそ本艦が誕生するより前になる



『<<クリストフォロ・コロンボ>>、航行序列に参加します!』

『こちらにも邂逅を祝すと打て』


 <<クリストフォロ・コロンボ>>。欧州大戦後の欧州新秩序の担い手となったソ連に対抗する為に、西ドイツやイタリアなどのケツ持ちをせざるをえなくなった英国が、守護聖人級の初期案で用意していた18in砲をそのままイタリアに供与して建造された2隻の戦艦のうちの1隻である。そもそも日米ソの建艦に付き合って自国で守護聖人級を4隻整備するのにも窮していた英国にとってみれば、建造をイタリアで行い、維持費はイタリア持ちで指揮権をイギリスが握るという核シェアリングならぬ戦艦シェアリングは渡りに船であった。

 この2隻と戦中に戦没したローマを除くヴィットリオヴェネト級3隻がイタリア海軍の主力として黒海から抜けてくるであろうソ連のソヴィエツキー・ソユーズ級、あるいはスターリングラード級、そして今となってはミサイル巡戦ともいうべきキーロフ級などに対抗して立ち塞がる役目を担っている。

 その船型はヴィットリオ・ヴェネト級の拡大版として優美な姿をしており、3連装砲を大和と同じく配置して伊製大和とも呼ばれるのもむべなるかな。

 本艦との違いは近距離から対艦ミサイルの鶴瓶撃ちを喰らう可能性が高いという前提から、圧倒的なまでの近接防御火力の充実にあり、片舷にOTO社製の5in砲が4基、3in砲が雛壇配置で8基並ぶ姿は、近代化改装時にスポンソン等増築して5in連装4基、副砲塔跡を利用して連装の短SAM発射機を装備した本艦と比べてもかなり重武装に見える。

 近年は法改正による空母の取得や、指揮権の返還に向けて外交交渉中ともきく。これだけの大戦艦が首輪付きと言う表現もされるのは、確かに感情的には理解できる。上手く折り合って欲しいものだ



『米艦隊、来ます!』

『やれやれ、待ちきれずに予定を繰り上げて来たか』



 順次合流の予定として合流時間を定めていたのだが、より早めに現れるのはいかにもヤンキーらしい。そして先頭を進むのは、戦艦ではなく原子力空母のニミッツ級8番艦、<<ジョン・G・タワー>>である。7番艦の<<ジョン・C・ステニス>>と一緒に建造された為に彼女たちだけでツインズ、双子のジョンなどと呼ばれたりしている。現在米海軍が保有する15隻のCVNの一隻であり、【Fifty For Freedom】戦艦18隻、大型空母18隻、戦略原潜14隻を以てなる自由の為の50隻の一翼である。

 各国が国際観艦式に見栄えから戦艦を先頭に出してくるのに対し米国が空母を主体として出してくるのは、核戦力の整備が一番早かったが為に米海軍はモンタナ級6隻の整備で戦艦の整備を取り止めている為である。そして艦としても新しい事、原子力機関というパワーで式典を振り回すのがいつもの事である。御転婆娘は扱いに困るが、甲板をフラットにして来てくれるので、一般参加者を大いに載せてくれるという意味では一番ショーボートとしてきっちりしてくれているのは興行的にもありがたい



『<<アイオワ>>から発光信号。出迎えを謝す・・・えっと』

『よいよい。みなまでいわんでもわかる』



 後続する<<アイオワ>>からの発光信号に伝令が口ごもる。大体把握した。追伸、白帯はどうした。というのは、平時の射撃訓練で最優秀だった艦に我が海軍では煙突に白帯を描く、今回は栄誉を<<武蔵>>に譲った為に<<大和>>は白帯を失っていた。そして<<アイオワ>>は前回、前々回には煙突に無かったEの文字が描かれている。


『さらに追伸、NDK、NDK』

『・・・極東配備が長過ぎるのも困り物だな』


 どこでそんな言葉覚えた!?というようなスラングを最近の米海軍は投げかけてくる事がある。当然ジョークみたいなものだから可愛いものだが



『うるせぇ!次はちゃんと白帯で来てやるから首洗って待ってろ!』

『そうだそうだ!てめぇこそちゃんとE抱えてやがれよ!』


 まぁ、艦内の士気が上がったので良しとしよう。顔なじみになり過ぎるのも考え物であるが



『<<クレマンソー>>、接近します!続けて発光信号あり!出迎えを謝す、貴艦にエスコートを受ける名誉を賜り光栄である。以上です』

『今度は今度でだいぶ感情的ウェットだな』


 フランス海軍極東艦隊、その旗艦を務める<<クレマンソー>>はリシュリュー級の3番艦にあたる。純正なリシュリュー級である<<リシュリュー>><<ジャン・バール>>と改リシュリュー級である<<ガスコーニュ>><<フランドル>>の間にあって、欧州大戦で特に放置された期間が長かった<<クレマンソー>>は、一時期我々とコミットしてた頸木から離れ、欧州でも自主独歩を進めるタカ派のドゴールが進める核戦力による、厳然たる中立を維持するという名目で行われた核ミサイル搭載戦艦のプロトタイプとして後部甲板に装甲BOXをもってSLBMを搭載した艦である。

 これが新時代の戦艦である、と<<クレマンソー>>に満足したド・ゴールはこれ幸いと<<ガスコーニュ>>と<<フランドル>>の後部砲塔を引っぺがして<<クレマンソー>>以上のSLBMを搭載したミサイル戦艦化を行うなどをした。

 これは英国の守護聖人級やイタリアのクリストフォロ・コロンボ級に対抗するには核しかない!という海軍内での意向もあって実現したもので、確か命名基準が無かったので艦載のSLBMはレーヴァテインとかいう名だったか・・・結果はというと、この改装を受けなかった2艦が、後部甲板に対空火器を増設などしての通常戦力として使いでが良いのとうってかわって、対空能力に完全に劣後し、ガスコーニュ級に至っては砲力も4門しかない、核弾道弾などその性質上滅多に使えるものでもないという至極真っ当に周辺の介助が必要な艦となってしまっている。

 今現在、<<クレマンソー>>はその装甲BOXの中身を巡航ミサイルに変えて、武器庫艦アーセナルシップの試験運用艦としてソ連海軍の後追いをしているのが現状である。日仏関係がド・ゴールの死後復活したので、なんとか・・・なっている、ともいえる艦のためか、妙に詩的に訴えて来ることが多い。言葉は悪いが、後方彼女面ともいうべきか




『司令。予定の全艦、出迎え完了しました』

『では艦長、こちらも指定の航行序列に戻るとしよう。<<葦原>>が首を長くして待っているだろうからな』


 これまで黙っていた司令が満足したように頷き、そう告げる。<<葦原>>は二番艦の<<瑞穂>>と共に帝國海軍が、そして恐らく世界でも最後に建造した戦艦となるであろう超大和級の名だ。22in砲3連装3基9門搭載にして10万トン超のビッグガン・・・量産された大和・紀伊級の改良拡大型最終タイプともいうべき姉妹は、栄えある第一艦隊の旗艦として君臨している。久々の国際観艦式だ、気を揉むのも無理はない。

 ふん、大和から、随分と遠くに来ちまったもんだな。いや、みんなそうだ。大和を知ってから、こんなふうに(フネ)を回答として出してきた、その血脈の中にいるのだ。Yの系譜の中に・・・



『嬉々として造りすぎてしまったのかもな』



 誰にも聞き取れぬよう、小さく呟く。我々は空母になった<<信濃>><<薩摩>>を含めれば、8隻もの大和及びその改級をその性能に惚れ込み、喜び勇んで世に送り出した。まったく罪な女にしてこの罰と来たらもはや嬉しくもなる。こうなったのはお前のせいだ、といえる(フネ)などそうそう出会えるものではない



『本当に大したやつだよ、お前は』



 艦長のその呟きは、海風の前に消えていった。そして、それぞれがこれからどういった航路(みちゆき)を辿るかは・・・まだ誰も知らない

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― 新着の感想 ―
[良い点] 各国の戦艦が一堂に会するシーンと、通信のやり取りの内容。 [一言] 御参加ありがとうございます。 架空世界の戦後に、列強の戦艦が勢揃いするとは。個人的には核シェアリングならぬ戦艦シェアリ…
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