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ストローグラス第二章  作者: sakurazaki
9/12

9我が子

シギは不思議な者に会う。

    我が子


「元気でね~かあさんによろしくね~」

 そう言って手を振るヒタキは、島を発った頃より顔つきが大人っぽくなり色が白くなったようにも思われてシギは黙って手を振った。

「そうだ~オオババ様に似た人に会ったよ~」

 もう空高く怪鳥に乗り言葉の終わりは消えて聞こえなかったが、ヒタキが底抜けに明るく笑顔で話しているだろうことは父であるシギに、手に取るように感じられてほほ笑んだ。

 青く抜けるような空に銀色の翼をはためかせて、ぐんぐん上昇していく大きな鳥。その背に小さな身体を両手いっぱい広げてしっかりとしがみついているヒタキ。

 かつて感じた事のある、振り落とされてしまうのではという心配を感じさせないのはなぜなのだろうか。

 小さい頃、熱をだし不治の病に侵されこの世を去ってしまうのかと思われた、そんな事など嘘のように感じさせてしまう今の元気な生きる力の溢れるようなヒタキ、わが娘。

 親は我が子に辛い出来事や不幸な事件を経験させたくない、できれば一生。

そんな風に思うのは親心なのだろうが、抱く興味や未来への夢、希望、それに突き動かされる衝動、そんなものに蓋はできないのも確かな事だ。

 シギは遠くなってゆく空のシミを、目を凝らして見つめた。

 そうだ、自分の若い頃と同じ。

 空は澄んでもうじき一日の終わりを告げる時刻になるのだろう、風が冷たくなってきた。


『ほほう、若い頃の自分をみているようだと思うておるようじゃの』

 振り向けば、大きな岩の影に隠れた窪みに先ほどの影が腰を降ろしている。

 ヒタキが最後に言っていた人物とは、目の前にいるこの影と同一だと確信して、シギはなぜだか安心した。

「あの子は、守られているのですね」

 身体をおおった黒い羽がぶるっと身震いした。

『守られているのかどうかはわからんがな、大地の意思を感じるのはあの娘じゃしそれを大地もわかっておるようじゃ。自分の理解者は大切に思うであろうからのぅ~』

 立ち上がって身体を伸ばすと、ふぅっとため息をもらした。

『実を言うと、あの娘がなぜここに向かったのかは、わしにもわからなかったのじゃ。じゃが、そういう事じゃったのか、ふ~む、なるほどなるほど』

 羽毛に覆われた顔の表情が柔らかくなった気がした。

『お前さんの娘は、様々な者を救う。本人にはそんな自覚はありゃせんがのぅ』

 シギは尋ねた。

「ヒタキは人を救う事ができるのでしょうか?何かの役に立つのでしょうか?」

 かつて、自分の考え作り出したもので人々の命を奪った。その懺悔の気持ちは今も、きっと生きている限り続いていくだろう。

『大地がつながる時、わしの役目も終る。大地は機嫌の悪い時もあろうし良い時もある。頭がかゆけりゃ頭をかこうし、足が痛けりゃさすりもしよう。大地の機嫌を損なわないで、わしらは生きて行かねばならん。あの娘は使者にも似ている。娘の心に寄り添うように大地の意思を感じる事ができるのも不思議な事よ』

 窪みの影がいっそう暗くなったと思うと影が次第に曖昧になってゆく。

『良い娘を持ったのぅ~』

 シギは目を凝らして一歩近づいてみたが、そこには岩があるだけでどこにも人影は見当たらない。


 ゆっくりとあたりをもう一度見回して、息を漏らす。

「不思議と言えば不思議だが、オオババ様と相違ないな。オオババ様も相当不思議な方だったからな」

 笑いながらシギは空を仰いで遠い、海の向こうにかすかに見えている塔の天辺を見やった。

 ヒタキが憧れた異国の地、自分が若い頃に過ごした苦い思い出の地。

 しかしその苦い思い出を、少しでも救ってくれるのが自分の娘のような気がして、胸が熱くなってきた。

「どうか、可愛い娘を見守ってください」

 誰に言うでもなくシギは、低い声でつぶやいた。

 もう、さっきまで大きな声で話していた娘は何処にもいなくて、のせて飛んだ銀色の鳥の姿もどこにもなかったけれど、シギには娘がたくさんの笑顔に囲まれている場面が想像できてほほ笑んだ。


「さて、ヒタキが来たと言ったらオオルリに怒られるやもしれんな」

 シギは大岩を背にして山を降りて行った。

 小さな島の周りには白く泡立った海の波が寄せては返ってゆく。

 昔ストローグラスに覆われた島は、いまでは航海の船の拠点として多くの旅人が訪れ活気にあふれている。

 沢山の異国の者たちが、島に訪れて島人と笑い歌い、その時を楽しんでいる。

 山はいつまでも昔のままだが、村はどんどん華やいてゆく。

 ヒタキが見たら驚くだろう、娘が目を輝かせているそんな場面を想像しながら、シギは山を降りて行った。

 むかし木の杭で囲まれたストローグラスに面した池は今では、沖の船との連絡船でいっぱいになり桟橋ができている。

 島の広場では、旅人相手に店が軒を連ねてにぎわっている。

 島もどんどん変わっていくのは、ヒタキの目にどう映るのだろうか?

 シギは目をつぶって娘の顔を思い出していた。

 少し大人になった、それでもまだまだ幼い娘の顔を。



明日、アップします。

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