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ストローグラス第二章  作者: sakurazaki
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すべてが変わってゆく。

ヒタキの笑顔とともに。


      再生


 ずっと長い間都市を覆っていたストローグラスの根っこでできた天井は今、もう存在してはいなかった。

 青い空が茜色に変わってゆく。

「空をここから見ることがあるなんて」

 セキレイが息を吐きながらつぶやいた。

「しかも、この洞窟と同じ目線で街が広がっているなんて」

 改めて目の前に広がっている建物や民家、真っ直ぐに続く広い大通りを見つめてうっすらとほほ笑んで傍らでにこにこ可愛い笑顔で立っているヒタキを見つめる。


「あたしね、空を飛んでいる時この町が頭の中に浮かんだんだよ!」

 ヒタキはおかしくて仕方ないという風に笑ってハヤブサを見上げた。

「そうなんだね、ヒタキがこの地に住む人々を救ったんだね」

 ハヤブサはヒタキの頭を撫でて笑う。

「はねっかえりの世話を焼いてやるオレたちの身にもなってほしいもんだがな!」

 すぐ脇で岩に腰かけたオオタカが深くため息を漏らしながら言葉にした。

「オオタカに面倒はかけてないじゃんか!」

 ヒタキが大きな声を上げた。

「けど、みんな心配で胸が張り裂けそうだったんだよ!」

 その脇からアジサシがヒタキに向かって声を上げた。

 アジサシとオオタカの顔を見やって、ヒタキは首をすくめて

「ごめんなさい」

 素直な言葉にオオタカがぎょっとした表情をする。

「ずいぶんとまた、素直じゃねぇか!おおこわ!また天変地異が起きるんじゃねぇか?」

 ぷうっと頬を膨らませてオオタカをヒタキがにらんだ。

「もうやめてよ、ヒタキ。急にどこかにいなくなっちゃうのは!」

 いつもならヒタキの味方のアジサシがこんな事を言うなんて。

 ヒタキは少し唇を尖らせて、下を向いた。


「あなた達にはどんなにお礼を言っても足りないわ、本当にありがとう」

 セキレイが、そんなやり取りを聞きながらゆっくり頷いた。


「我が国は、この国に向かう道筋をいくつか整備する事にしましょう。そして、あなたの病のための薬の研究や不思議な果実の効能なども調べさせて至急対処できるようにしましょうね」

 ハヤブサが通ってきた、洞窟から延びる道を振り返って言った。

 そこにはまさに道と言える幅の通り道が続いていた。

 迷った分だけハヤブサたちはその道の先がどうなっているのか知っていた。

 別れてゆく先はハヤブサたちの国であり、クイナの住む痩せた高地でありバンやオオバンの住む貧しい村だ。

 きっと整備することによって、どの地も変わってゆくことだろう。

 やるべきことはたくさんあるな、そうハヤブサは覚悟した。


 その晩、歓迎と再生の宴が催された。

 人々はそれぞれの住処を確認し、ある者はほっと胸をなでおろし、ある者は近隣の者に励まされそれでも命のある事に感謝して、崩れた家屋を見つめた。

 田畑は思ったほどの被害はなく、亀裂の入った場所は少し陥没していたが、これからの作付けに支障は無いようだった。

 バンとオオバンは田畑の整備に協力する事を約束して、しばらくの間この地にとどまる事にした。

 クイナと二人の子どもたちは、この地に残る事を進められたが断った。

「もともとはこの地が故郷なのかもしれないよね、だがね、あたしたちは意外にも自分たちが住んでいた土地を大切に思っていたんだ。残らないかって言われて初めて気がついたよ」

「遊びに来るよ」

「また来るよ」

 アオジとクロジは、周りの子どもたちとすぐに仲良くなった。

「ストローグラスの実がなるよ」

「きっともうじき実がなるよ」

 アオジとクロジは、その時が来たら皆を招待すると約束した。


 本来ならば避難場所であるはずの洞窟が街のはずれに位置していて、子どもたちも遊びにくることさえできるようになっていた。

 セキレイの家からすぐのところにある大きな広場にご馳走が積まれ、酒が用意されて周囲を人々が嬉しそうに踊っていた。


ストローグラスは揺れ続く


 その身はどこ行くどこに着く


 天をもかくし地をかくし


 なにを守り抜くのやら


 ストローグラスは揺れ続く


 小さな幸運見つけ出し


 生きる喜び分け与え


 ストローグラスは揺れ続く


 いつか世界がつながって


 天まで届け


 夢と未来を見据えつつ


 ストローグラスは揺れ続く


 鍵開け門開け笑うまで



 人々は飲み歌い笑いあい、お互いの無事を喜んでいた。

「この歌、あたしの島の歌とはどこか違うね」

 ヒタキは踊る人たちを見てアジサシに首をかしげて見つめると、微笑んだ。

「そうだね、前にも他の土地で聞いたけど、それもどこか違っていたよね」

 アジサシの言葉に

「不思議だねぇ」

 何かに誘われてあたしは、こんなところまで来たんだ。

 それさえも、不思議な事だな。

 ヒタキは遠い目をして胸に手を当てた。


 楽しそうな踊りが続く。

 美味しそうな匂いが漂って来る。

 ヒタキはそばにあった、焼いた肉を頬張り果実の飲み物を飲んだ。

「あんまり食いすぎると、デブになるぞ!はは、ちびデブはカッコ悪いな」

 そう言いながらオオタカがさっきから、何杯も酒を自分の器に入れては飲み干している。

「また、飲みすぎてひどい事になるよ、オオタカったら!酔うとひどい性格がもっともっとひどくなるのを自覚した方がいいよ!」

 「何言ってやがる!オレ様は酒には強いんだ。だいたい、性格がいいんだから少しくらい悪くなったって普通の奴と変わりないだろ!」

「うわぁ、自分の事性格いいって思ってるんだオオタカって。相当頭が悪いか鈍感なんだね!」

 更にヒタキは山盛りになっている芋を背を伸ばして取ろうとする。

 天辺に乗っている焼いた芋を簡単に手でつまむとオオタカは、ヒタキの頭の上にぶら下げた。

「これが取れる位に背が伸びりゃお前も一人前かな?はは」

 飛び上がってその芋を取るとヒタキは、反対の手でオオタカの高い位置にある頭をはたいた。

「うわっ忘れてたぜ、オレの目の前にいるのは、猿だった。子ザルか」

 口の中に芋を入れて美味しそうな表情を作ったヒタキはすぐにオオタカをにらみつけた。

「だれが、子ザルだって?」

 にらみ合う二人の間に入ってアジサシが

「もう、祝いの席なんだから、二人ともそれくらいにしておきなよ!」


 その様子を見つめてくすくす笑うセキレイとハヤブサ。

「本当に二人は仲がいいんですね」

 ハヤブサが頷く。

「本当に」

 話声がきこえたようで、二人が振り返り言う。

「仲良くなんかないよ!」

「そうだ、ない!」

 またハヤブサもセキレイも大きな声を上げて笑い転げる。

「なんて、楽しいのでしょう?こんなに笑ったのは久しぶりです。」

 明るく照らされた広場に人々の楽しそうな声がこだまする。

 今までとどこか違った大地、街、自然。

「この地から、初めて見ました。こんなきれいな夜空」

 セキレイは空を見上げてため息をついてほほ笑んだ。

 その先には降り注ぐような星々が輝き、明るく大きな月が街中を照らしている。

「もう、身体は大丈夫ですか?」

「不思議ですね、息をするのも苦しかった、身体さえ重苦しくていまにも倒れそうだったのに、今は空気がおいしくて身体さえ軽く感じます。あなた方のおかげですね。改めてお礼を言います。ありがとう」





大地の意思は揺らぎなくこの地をゆらす。

その意思をある者は利用しある者は反する。

それがわかれの道であり、生きる道に繋がる。

空に舞い大地に生き地中にかえる。


ある時大地は震え手を伸ばす。


(ストローグラスは大地の涙を受け止める)

 ヒタキの耳にどこからか、声が聞こえてきた。

(ストローグラスが開くとき、同時に門の鍵も開く)

「えっ?だれ?オオババ様?」

 ヒタキは振り向いて、暗い洞窟の先を見つめる。

 微かに何かが動いたような気がした。

(解き放つ者)

(鍵を持つ者)

 誰かはわからない、心に響く言葉はゆっくりと胸に広がってゆく。

 ヒタキは頷いた。

「うん、あたしの知らない世界はまだまだ広がっているんだね」

 夜空高い所を見覚えのある影が横切ってゆく。

「ピィ、また一緒に空を飛べるといいな」

 瞬く星々は降るように空いっぱいに広がっている。

 この空の下で星を見ている人たちは、どんなにたくさんいる事だろう。

 ヒタキは胸がどきどきして、思い切り息を吸い込んだ。

 楽しい夜は少しずつ過ぎてゆく。

 空からはきっと、暖かい眼差しがヒタキを、ハヤブサを、オオタカ、アジサシ、セキレイを見守っているのだろう。

 ヒタキはそう思うと、不思議と胸のどこかが暖かくなってゆくのを感じていた。

 目を閉じると懐かしい歌声が聞こえてきて、満面の笑みをたたえてヒタキは振り返った。


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

ヒタキの瞳は、まだまだ未来を見つめて輝いています。

また、お会いできる日を楽しみにしています。

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