10復活
セキレイは目覚めることができるのだろうか。
復活
「はやく!大丈夫だから!」
耳元で声がした。聞きなれた声ではないが、安心できる声で聞き覚えはある。
暗くずっとずっと深い所で眠りに入ろうとしていたセキレイは、声で我に返った。
この声の少女、そうだあの時目の前に立った異国の娘。
「大丈夫だよ!すぐに良くなるから!飲んで!」
そう声が耳元で確信に近い言い方をする。
口の中に甘い爽やかな香りが流れてきて、いっぱいに広がってゆく。
口にしたことのない酸味と香り。
ただ、懐かしさのようなものを感じて心地よい。
同時に身体から熱が引いてゆくのがわかる。冷たい感触が痛みで痺れていた片腕に感じ、微かに指の感覚が戻って来る。
冷えた腕と肩や胸に漂って来る香り。
何かを刷り込んでいるのだろうか。香りとともに身体が軽くなってゆく。
もう一度、口の中に感じる果汁は今度は飲み込むことができた。
甘い、そして微かに酸味もあるがフルーティーな果物の液体。
今度は口の中に小さな果肉を感じた。歯で噛み潰すとピリリと電気が走る。
この果実は何なのだろう。食べた事もないが、どこか懐かしい。
そう思うと重かった瞼が軽くなってゆき、セキレイは長い時間閉じていた瞳を見開いて周りを見つめた。
「ほらね、だいじょうぶだろ?」
あの時の娘が眩しいくらいの笑顔でセキレイの目の前にいる。
ハヤブサも他の人たちも心配そうにセキレイを見つめている。
わたしは、助かったのかしら。火のように熱かった身体から熱が抜けていく。
見ると身体中が藁のようなものに覆われていて、その中から果実の匂いが漂っている。
「喉は乾いていないですか?」
アジサシと呼ばれていた少年が声をかけてくれる。
気がつけば喉はからからに乾いて、声も出ない。感覚の戻ってきた手を上げてそばにあった器を受け取り飲み干す。
「わたしは、助かったのですか?この病から」
これだけ病状の進んだ状態から生還した者を知らない。
わたしの身体はもうこの世界から旅立つだけだったに違いない、きっと。
「あたしもね、小さい頃同じ病にかかった事があったんだ」
ヒタキと呼ばれた娘が笑う。
「冗談じゃねぇよ!だからって、突然一人でどこ行きやがったんだよ!」
オオタカがそっぽを向いて口をとがらせている。
「突然って言ったって、早くしないと手遅れになるところだったじゃないか!」
ふくれっ面になりヒタキが大きな声をあげる。
「だから、何とか一言言って行けよ!周りの者の事を考えて行動しろ!」
ヒタキに指をさしてオオタカ。
「あの時オオタカがどこにいたかなんて、覚えてないよ!」
さらにほほを膨らませてヒタキ。
「まあまあ、二人ともじゃれ合うのはまたにして。気分はどうですか?かなり長い間熱にうかされていたようでしたが」
ハヤブサが笑いながらセキレイに聞いた。
「誰がじゃれ合うっていうんだ!」
「やめてよ!ハヤブサ!」
二人は同時に声をあげて、セキレイを見た。
「はい、少しふらふらしますが、なんとかしっかりしてきたようです。わたしは何を飲んだのですか?」
セキレイは傍らで器を持っていたアジサシを見つめた。
「ストローグラスの実です。正確には亜種ですが」
脇からヒタキが瞳を輝かせて答える。
「この辺には実らないよ。あたしだって、これだけの実を取って来るのは大変だったんだ」
ヒタキが自分を救ってくれたのかと思うと、意識を失う前に夢の中で見た、空を飛ぶ大きな鳥とそこに掴まっている娘に違いないと思った。
夢の中の映像だと思っていたが、もしかしたらわたしは何かを見ていたのかしら。
「わたしの国は?」
人々の合間から隆起した自分の故郷が壊れずにそこにある事を確認して
「あなたが、この国もわたしの命さえも救ってくれたのですね」
すがるような表情でヒタキを見つめると、娘は照れて笑った。
愛くるしい、幼ささえ残った笑顔だった。
水曜日にアップします。




