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トラップマスターのゲーム記録〜バグ処理のために転生します〜  作者: 鳶崎斗磨
第二章 最弱職の最強者
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第53話 いざ、花の都へ

あとがきの方にミニバグ録も。

 



 ◇◇◇




【もう朝でしたか】


 神の間に柔らかな光が差し込む。その温もりゆえに二度寝しそうだからと、堪えに堪え私はベッドの上で上体を起こした。昨夜は怒涛の一日でしたし、お陰で疲れも取れたというもの。うーんと背伸びしながらベッドから降りる。それから欠伸を一つ。


 女神フィロリエル、只今起床。今日も一日、ほどほどに頑張っていきましょー!


 ところで。


【ヒビキ様達の進捗状況はどうなってますかね】


 寝る前にヒビキ様一行とのやり取りをしていた。疲れと言っても話し疲れ。でもおかしなことに、なんだか嫌な気分が私の中で蠢いているのです。


【ああ、ヒビキ様のせいでしたね】


 思い出した。「女神にこれ以上育つものなんてない」、そんな言葉だった。セクハラ、いや侮辱するにも程があります。女神を一体なんだと思っているのでしょうね。


 少し悪戯でもしてあげましょうか。


 私は両手を胸の前に合わせ、ゆっくりと開いていく。そこにはゲーム構成にあたる諸項目が大まかに分類された画面が映し出され、私は『バグ』の項目を選択した。


 各日のバグ処理にあたる日記やバグに感染した魔物達のファイルがずらりと並んでいる。その中から『ヒビキ・観察』を見つけると、私はクスッと笑った。


 昨日の私は、監視でもなく見守りでもなければ、観察なんて名前を付けてたらしい。本人にバレる訳がないので、別にいいでしょう。我ながらいいネーミングセンス。


【さてさて、見ていきましょうか】


 そのファイルを開くと、画面一杯にヒビキ様達が森の中の小道を歩いている姿が上空から映された。


 ヒビキ様は肩上に従魔の兎を乗せ、後ろには昨日旅仲間になったノーグリード様と、兎と同じく従魔である、馬に乗ったデュラハンが同行している。


【どこへ行かれるつもりなのでしょう? 】


 疑問に思い、ヒビキ様のマップを覗き見る。


【花の都……ファロール、ですか】


 バグ処理のためにバグ感染の酷い『蟲の山』ではなく、よりにもよってファロール。


『ファロール』はヒビキ様がこの世界にこられる前、私がバグ処理を行っていた地でもある。バグのせいで現地の魔物が突如凶暴化し、プレイヤーは愚かNPCまで立ち寄りを禁止にされた位。


 運営はファロールのあれこれを今まで手を付けてこなかったからか、今更バグ処理するのは困難だと判断し、ファロールという地を概念ごと消そうとした。そこへバグ処理にあたったのがこの私。それにより、運営側に貸しを作れたのは大きかったのだけれど。ほんっと、自分勝手な人達なんだから。


 けれど、プレイヤー及びNPCらはそんな事など露知らず、「ファロールは危ない地」として避けているらしい。本当は温厚な魔物だらけだというのに。


 そこにヒビキ様達が行かれるのはなんだか意外。ヒビキ様なら、彼らと同じような考えがあるでしょうに。


 悪戯を目論んでいたはずなのに、いつの間にかヒビキ様の謎めいた行動に首を傾げて考察し始めていた私。仕方ないですよね、気になっちゃったんですから。




 ◇◇◇




「キュウビ、結構遠いな」

「そうだな」


 あの大小屋があった所から歩いて30分は経ったが、距離はまだ6.3kmも残っている。浮遊石や大砲でも作れればいいのだが、生憎(あいにく)素材が足りない。


「貴様ら、まだそれほど時は経っておらぬぞ」

「キュー」

「いいよな、お前らは! 兎はキュウビに乗るわ、アンデッドの王とかいう奴は馬に乗るわ。クソっ、俺にも土台になる奴がいれば」


 土台になる奴と言いながら俺を見るのはやめてくれ。白兎で間に合ってる。白兎は要領よく人型から元の姿に戻り、俺の肩上に乗って楽している。そのモフモフが気持ちいいから、寧ろ好都合。


 各々の疲労を鑑みるとそろそろ一時休憩でも挟むのが良いだろうと思い、皆に休憩のため一時解散を勧める。運良く近場に小川が流れていたので、各自顔を洗ったり澄んだ川の水を飲んで喉を潤したりした。

 中には食材のためにと素手で魚捕りを始める奴もいたが、夢中になる前に召集をかけ、再出発することに。


 それからも少しずつ休憩を入れながらファロールに向かった。


 そしてまもなく、ファロールに到着。昼間に差し掛かったところで着くことが出来たようだ。


「お、見えてきた」


 一辺倒な森道の奥に花畑のような景色の広がりが見える。あれが花の都、ファロールの入口だろうか。見つけるなり若干足が軽くなった。


「あれですね、あれがファロールです。久々にやって来ましたが、変わりないようですね」


 俺の肩から降りて人化した白兎がそう告げる。段々近付いてくるファロール。その名を耳にしたことはあっても訪れたことの無い地。俺は胸を躍らせる。


 ようやく到着したのはいいが、眺めても眺めても花畑。白兎以外は絶句する。黄色や橙、ピンクの花びらが波風に乗って舞っている景色は、より壮絶なのだ。どこまでも絶景が続いている。


「さて、私の知人がいる場所まで歩きましょうか。花畑を抜けた先です」

「かなりの距離だな……」


 地平線の彼方まで花畑、そんな光景生涯見たこともない。素晴らしいというか、呆れる程のものだった。


「退屈しのぎに、私の知人の話でもしながら向かいましょうか」


 それは気になる。白兎の知人ともなれば、やはりラビット族の者らだろうが。


「まず友人の種族についてですが、私と同じラビット族ではなく『ゴブリン』の『ゴブリンキング』です」


「……は? 」


「昨夜襲撃してきたゴブリンキングのような野蛮で凶暴なことはなく、温厚ですのでご安心下さい。それを踏まえて―――」

「いや、待て。待てよ白兎」


 ゴブリンキングって、そんなにいてもいいものなのか?ゴブリンロードやオーガなら分かるが、キングが複数いてたまるか。そうなれば、ゴブリン亜種なんて何体でもいることになる。そう考えると、今にでも恐怖に包まれる。


「あ、なぜ私がゴブリンキングと知り合いなのかに引っかかってたのですね? それなら―――」

「それもそうだが! ゴブリンキングが何体でもいるってのが不可解だ」

「ゴブリンキングの個体数……? それなら東西南北、それぞれに一体ずついるに決まってますよ」


 ゴブリンの王が、方角ごとに一体ずつ。それが許されるのなら、ゴブリン亜種複数体説も濃厚じゃないか。


「急にどうされたのですか? 」

「いやなんでもない。話を続けてくれ」


 ホロリと涙した。


「知人のゴブリンキング、名前はいつもキングと呼んでおりました。私の国の城下町で彷徨(うろつ)いていた所を自ら護衛にスカウトし、丁度2、3ヶ月前までラビット国で私の専属護衛として就いて貰っていたのですが、『ファロールに用が出来た』と言っていたので護衛任務から切り離してファロールへと送ったのです」


「人となりも良いのですが、とにかく怒らせると怖いのでご注意を……。可愛いもの、美しいものを愛でる性格でもあり、城内の庭に咲く花を近衛兵が踏んだ時の彼の怒号は……今も忘れられないですね」


 怒らせると怖い、肝に銘じておこう。

〜ミニバグ録〜



『女神の悩み』



ヒビキ「フィーさんに育つものなんて、もう何もない―――」


あんな酷いことを言われて、しばらく私はベッドの上でうつ伏せになり、枕に顔を沈めて言葉にならない怒りをぶつけていた。


吐き終わったら、大分気が楽になった。けれど今まで気にしていたことをヒビキ様から悪く言われ、ますます自分の体型が嫌になってきてしまった。


女神「ちゃんと牛乳だって、肉や魚だって摂ってるのに。仕方がないじゃないですか……」


ポツリと呟く。


私は背の高い女神になるために、数々の努力をしてきたつもり。


女神「結果がついてこなかっただけよね」


そうとしか考えようがない。私はよく頑張った方だと思う。それでもダメというのなら、いっその事諦めるしかないのか。


女神「身長なんてもう知らない! 私はこのロリスタイルを貫くわ」


女神は、開き直りも早い。







【注】作者は逆に体重に悩んでます。

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