第51話 主従関係?
内容が、全く進んでない話の一つです……。
その直後、彼らは片膝を地について首をうなだれる。
「遠くから見てたが、こりゃ傑作だな」
「この声はヒビキ、か。目が覚めたか……いつからそこに!? 」
「丁度その砂の城が出来た辺りからだ。散々な慌てようだったじゃないか」
「はっ、驚いただけだ」
嘲笑を交えると、チラと確認したデュラハンの顔がみるみる赤く染まっていく。恥ずかしいのか怒っているのか、よく分からない顔になった。
「それでだな……あのな……」
「モゾモゾとなんだ、はっきりしろ」
「昨夜にちょっと、な。め、迷惑かけたな」
「我は迷惑をかけられた覚えはないのだが? 」
「でも一応お前も心配してくれたわけだろうが」
「はっ、聞いてみればそんなことか。貴様が死ぬことで我も道連れになってしまうのではないか、という恐れがあったからだ。決して貴様への厚意などない、残念だったな。無様な姿、実に滑稽だったぞ」
少し苛つく台詞。でもこういうのは苦笑いでやり過ごすのが世上の体というもの。世に言う大人な対応をすべき。
「貴様、何が面白い。眠っている間に淫夢でも見たのか」
「もういい、とんだ勘違いだったようだな。じゃあな」
大人な対応なんてくそくらえ、俺は身勝手にもその場から離れることにした。これ以上ここにいたら状況悪化に繋がるのは目に見えてる。堪忍袋の緒がはち切れそうなのだ。
「主様。ノーグリードさんから預かった伝言の方はよろしいのですか」
背後から白兎の声がした途端、俺は来た道への歩みを止めた。背中越しにデュラハンにその要件を伝えるために。だとしても、悪い顔を崩せないまま。
「おい、デュラハン。別件だが聞いておけ」
「ん、なんだ。聞いてあげるぞ」
「ノーグリードがそろそろ朝飯にするらしいからぼちぼち来い」
「ほう、あやつからの供物とな」
「だがお前は気にするな。お前、食えねーから」
「…………は? 」
「だから、食えねーって。お前だけ召喚を解除してやるからな」
デュラハンの顔が凍りついたかと思うと、ゆっくりと歪んで終いにはあられもない鬼の形相が象られた。
「貴様、余程我に殺されたいらしいな」
「図星か。お前、余程ノーグリードの飯を食いたいようだな」
互いに嫌悪感を敷き詰めた一言を掛け合い、いがみ合う。
やれるものならやってみろ。響は体術に加え罠をいつでも使用出来るよう早急に準備を行った。両者が構え、一触即発に陥る。
周りのゴーレム達は止めようか止めまいかであたふたしていた。
「おーやーめーなーさいっ! あと、えい! 」
一発目はデュラハンの頬に、二発目は俺の頬に、白兎のビンタが直撃する。倒れはしないが、地味に痛い。
「何すんだ、白兎」
「なぜ我を殴るか、白兎よ」
二人の矛先が白兎に転じる。
「いい加減にして下さい。あなた達の幼稚な喧嘩を黙って見ているほど私は気楽じゃないですよ。お二人とも、相手をからかった時点で悪いです。言葉が悪いようで申し訳ありませんが、ゴーレム達以下ですよ。反省して下さい」
突然振られたゴーレム達はより一層困惑する。
けれどまあ、悪巧みは反省しないとな。だが、
「デュラハンが先に―――」
「あ・る・じ・さ・ま〜? 」
「い、いや、なんでもない。デュラハン、すまんな」
「我も。我も、悪かった」
白兎のにこやかな顔から溢れ出るおぞましい殺気と、単調な言葉に付属する怒りを感じ取った俺らは、お互いに悪戯を謝り合った。率直に、怖かった。
「さて、行きますよ、お二人とも。着く頃にはきっと、ノーグリードさんが朝食を準備し終えているでしょうから」
「だが我は、まだこのゴーレム―――」
「行・き・ま・す・よ? 」
「そ、そうだな」
「ゴーレムさん達、それでいいですよね? あなた方にもこの広場周辺を警備する務めがあるでしょう? 」
白兎の言葉に誘われ、ぎこちなくではあるが次々にコクコクと首を縦に振っていき、群れは解散した。
白兎の圧が強すぎて、俺とデュラハンにはどうにも出来ないままただ大小屋へ向かうその後をついて行く他になかった。
一番大人な奴は白兎だと認めざるを得なかった。
◇◇◇
「おう、来たか。もう出来てるぞ」
「それは丁度良かったです」
「……で、どうした二人とも、そんな滅入った顔して。白兎、なんかあったのか? 」
「いえ、何も」
ゾクッと背筋が凍ってしまう。
「まあどうだっていいが」
俺らにとってはどうでも良くない案件なんだがな。




