第50話 憩い
拙い描写がさらに増した話になりました。
なにとぞ、ご了承下さい……。
順次修正していきます(><)
◇◇◇
扉の先、少し遠くでノーグリードがバルガノムを持って素振りしている姿が見える。
朝っぱらからこれとは筋肉バカにも程があるというものだ。
呆れた顔で見ていると、ノーグリードがこちらに気付いた様子で手を振った。薄らと「おーい」だなんて呼び声が聞こえる。すかさず俺も手を振り返す。
すると素振りを中断させ、バルガノムを片手に持ったままこちらに歩いてくるではないか。ただでさえ重そうなバルガノムを片手で運ぶ、怪物並の力を感じて止まない。剣士の基準をぜひとも知りたいものだ。それ次第では奴が異常なだけだともいえよう。
「よお、キュウビ。よく眠れたか」
「お陰様でな」
「いやー、しかしお前がいきなり倒れるもんだから驚いたぜ」
「すまんすまん。疲れてたんだ」
「それにしては派手に……まあいいけどよ」
この件にとやかく触れる気がないわけではないが、そこにノーグリードまで介入させなくてよい。言うなれば、俺と女神フィーさんとの問題。
だから、疲弊していたのを口実にしておけばいい。詳しくはフィーさんとの通話がとれるようになってから彼女に聞いてみよう。
「なあ、ノーグリード。デュラハンの奴がどこに居るか分かるか。召喚解除してないから、野良に放ったままだと思ってな」
「解除ってのは、今使えねーのか? 」
「目視できる範囲内で使える。つまりだな、今は使えない」
「不便で何より」
「全くだ」
腐っても以前冒険を共にしていた間柄。思いの丈は言うに及ばない。
「あいつなら向こうにいるぜ。お前の作ったゴーレム達と一緒に、だな」
ノーグリードの指さす方向に、黒馬に跨ったデュラハンと、その周辺にはゴーレム達が集っている。なぜあいつの元にゴーレムらが……純粋に理解不能。
「デュラハンさん、人気者でなにより。あ、主も人気者ですから、ご心配には至りませんよ! 」
白兎がこうフォローしているのはきっと、俺が無意識に顰めっ面だったのが原因。ゴーレムらの不可解な行動に気になっていただけだが、変に気を遣わせてしまった。
従順なのもほどほどでいいのに、と苦笑いを浮かべながら、白兎の頭に手を置き柔く掻き乱す。
「あいつ、根はいい奴なんだ。ただそれを上手く表現できてない」
「そうかぁ? 」
ノーグリードの目が、愚者でも見る目に変容する。そんなにか。そんなに、デュラハンが嫌いなのか。
「お前、変わったな」
「……なにが? 」
「昔はな、人の心配なんぞ捨て置け、てな態度だったろ。今じゃ相当緩くなってる」
「そうか」
「ああ、そうだ。だからって嫌じゃねーけどよ、違和感がどうもな」
なるほど。ネット越しだと強気な態度をとれたが、生身の人間として生きる今でも同じようには出来ない。恥ずかしい、その一心。あとはなれの問題。
「あ、ありゅじしゃま……」
「おお、すまん! 」
撫ですぎた。
急いで手を退かすが、白兎はその場でへにゃへにゃになって座り込む。上手く発声できてない様子を見るに、俺は白兎の性感帯やらなにやらでも触れてしまったのだろうか。だとしたらまた不味いことをしてしまった。迂闊な行動、控えねば。
「そこの兎、お前が倒れた直後に人に化けてな、『主様、主様』って叫んでたんだぜ? さすがにお前の体は俺が運んでやったけどよ、その後も付きっきりみてーだったし。あんなに心配されるなんて、羨ましい限りだぜ」
そうだったのか。少し照れるが、それよりも俺の体を緑葉製のベッドまで運んだやつがノーグリードだったとは。感謝はすれど、頭まで下げるのは癪に障るからやめにした。
「あいつは、ただ見てるだけだったな。冷たい野郎だぜ」
「デュラハンさんは主様を抱えたノーグリードさんに代わろうかと言っておりました。けれど貴方が拒んだのであって、見てるだけではございませんでしたよ? 」
「お前は少し、黙っとれ」
ノーグリードが白兎にポカっとゲンコツを一つかました。
「痛いじゃないですかぁ。なんで頭叩くんですかぁ」
白兎が涙目で訴える。そりゃそうだ、誰だって理不尽にやられりゃ気が収まらない。
「お前趣味悪いな」
心の底からそう思い、サラッと吐き出す。
「んな事言ってもいいのかぁ、キュウビ。朝飯抜きにするぞ? 」
そんな、理不尽な。
「……もうこんな時間か」
ノーグリードが何食わぬ顔でそう呟く。
俺も時間を確認する。
現時刻『7:25』。
「そろそろ朝飯用意するから、ついでにと言ってはなんなんだが……飯時までにはあいつを呼んでおいてくれ」
「分かった」
「それじゃあ、後でな」
片手に持ったバルガノムをアイテム欄に戻し、ノーグリードは大小屋の中へと入っていった。昨夜みたいに外で料理するのではなく、大小屋の中の台所でするのだろう。昨夜に続き、楽しみである。
「さて、行こうか」
「え……あ、はい! 」
召喚解除すれば早い話だけれど、デュラハンは孤独を酷く嘆いているせいもあり、もしゴーレム達と戯れているようなら、喚びだすのは可愛そうで仕方が無い。
ほんのり気怠さを匂わせながら奴の元まで向かった。
◇◇◇
「何も言葉交わさぬが、そなたらには口がないのか? 」
デュラハンの問いに、数十にも及ぶゴーレム達は次々と黙ってこくりと頷く。
「不平などあれば遠慮なく言えばよかろうに」
皆揃って首を横に振る。ただそれだけ。
「ううむ、解らぬ。我には解られないというのか……そうか」
困ったような、哀れんでいるかのような面相でシュンとしたデュラハンを見て、ゴーレム達はどこか焦り始める。
そんな中彼らの内一体が前に出て、彼女の前で両膝を地面につく。
デュラハンは戸惑う。が、ゴーレム達に動揺はない。分かりきった態度である。
その一体は両手を地面に置き、それから土を己の眼前へと沢山かき集める。いつしか、他のゴーレムも同じ行動に走っていた。
奇妙な動きが広がってまもなく、デュラハンの目前―――先駆者のゴーレムの目の前に、成木程の高さに及ぶであろう砂の山が創作された。
デュラハンにはまだ解りもしない。
彼らは目も口も耳も持たないというのに、意思を通じ合ったのか、それぞれがぬかづき、同時に砂の山を見上げ、同時に砂の山に飛びかかった。
「なっ!? 」
デュラハンの驚嘆をもろともせず、彼らはある作業に取り掛かった。
砂の山が、どんどん原型を失っていく。
数十に及ぶゴーレム達の作業は驚くべき早さだった。
あっという間に、まるで魔法でも使ったかのような光景がデュラハンの目に映る。
砂の城が、出来た。
「なんだこれはっ! お、驚いたぞ」
声を震わせるも、興奮を隠せない。
決して一般的な城、言うなれば彼女の住んでいた城に並ぶ大きさではないが、実に巧みに再現されてある。
そこでやっと、ゴーレム達の凹凸無き顔面に安堵感が降って湧いた。
ミニバグ録、おやすみ!




