第49話 白兎
新年あけましておめでとうございます!
(もう遅い。)
しばらく体調を崩していたため、執筆活動に励むことが困難でありまして……。
いつものように言っておりますが、ゆったりまったりと連載していくつもりです。
また、今回、それから次回の後書き【ミニバグ録】はお休み致します。
さて、今回の話としましては、急ではありますが、可愛さをプラスさせて頂きました。
描写は最悪ではございますが、なにとぞ……。
「うぅ……ん、んん……」
柔らかな光が、瞼を透かし眼孔に流れ込んでくる。
ひたすら眩しい。
強かさの失せた柔らかな触感もまた、背から伝わってくる。薄目で眩しさを堪えるようにして目覚める。
徐に体を起こし、握り拳を作って解して作って解してを繰り返してみたが、異常はない。
目覚めた時に真っ先に見えていたものは、木造の天井。
起きてからは左下をちらと見てみる。緑葉で出来たベッド。微かにぼやけて見えるが、多分そうだ。ガサついているかと思えば案外そうでもなく、肌触りも実に良い。
あの時、ここに至るまでに倒れた記憶が僅かにある。顔面と腹に地味な痛みが滞っていることから、間違いない。倒れた理由を今すぐにでも求めたい気で沢山だけれど、この身体を運んでくれた者への感謝が幾分も勝る。
起きてそうそう申し訳なさを噛み締めていると、ある気配を感じた。恐る恐る首を右にかつ申し訳程度下に傾ける。
ぼやけが薄れてきたため、それは俺の目に精緻に映っていく。
頭に白耳をちょこんと生やした、白い髪の可愛らしい子供がむにゃむにゃと呟きながら添い寝……。
考えるよりも先に体が動くとはこのことだろう、丸くなっていた俺の背筋が反射的にピンと張った。ついでに、視線は正面へ。
先行するは、「誰だ」という突拍子もない疑念。
たとえこれが夢でも、俺はこんな願望を抱いていないし、抱いた試しもない。今の状況は傍目からして正しく犯罪そのもの。
いつの間に、こうなった。
それでも気になって、二度見する。
するといきなり、その子供の両耳がぴくりと動く。それに合わせ、小さくも愛らしい欠伸をし、目をゆっくりと開いた。両腕を頭上に伸ばし、再度欠伸。
その時、俺と目が合う。目と目が合うこと数秒後、少々顔を赤らめ、慌てて起き上がる。ジャンプしたようにも見えたが、そのままダイレクトに正座した。
絹の服一式が備わった、可愛い容貌ゆえに性別区切りがたい子供である。
「お、お目覚めになりましたか! どこか悪いところでもありませんか!? 」
俺は、飛び交うあらゆる感情を押し殺し、静かに首を横に振る。
「良かったです……主様が突然倒れられてから、ずっと心落ち着けないままで」
「あ、主、様? 」
「そうですよ。ま、まさか、主様! 私のことを覚えておいででない……」
「すまない、ちょっと、ほんのちょっとでいいから待ってくれ」
どういうことだ。俺が主と呼ばれるのは、デュラハンは除いてせいぜい白兎からのみ。でもこいつは、あいつじゃない。
「私ですよ、白兎ですよ! 」
思考回路に衝撃が走り、黙り込んでしまう。目をこすっても、目の前から白兎を名乗る何者かは消えない。
「あの後、人化のスキルを手に入れまして。今こうして使っているわけです。主様と同じ、人間になって」
そんな話、聞いてない。しかし、こいつは白兎だ。
あの時、新たに固有スキルなどが得られたとは聞いていたが、まさかそれが人化だったとは。目が点になるばかり。
「だって、ほら」
ボフンという音と煙が上がったかと思うと、先程までの容姿とは打って変わり、お馴染みの兎になった。
これは夢ではないらしい。
確認できたからと、再度人間の姿に戻った。
「これでよろしいですか? 」
「ああ……」
人化すると、姿形が変わるだけでなく、人間語を話せるようになるようだ。今まで自力で白兎の言葉を理解出来ずにいたこちらの身としては嬉しい。
「固有スキルですので、MP関係なく使えるようになってるみたいです」
「ほう、便利だな」
経験値は沢山得られた、だから他の奴らもレベルアップして白兎のような変化があってもおかしくない。俺以外は。
ステータスを見ても、Lv99を維持している。
ゴブリン亜種を倒したというのに、肩を落としてしまうくらいの残念な結果となった。
さらには、特殊枠にあった女神の慈悲の効果により一時的に倍加していた能力値は皆、元の値に戻っている。もしかしたら倒れた理由というのは能力値が戻されたからかもしれない。
つまり、女神の恩恵といえど、それなりの反動があるわけだ。十分に意識していなかった己の責任である。
「迷惑かけたな、すまん」
「いえいえ、とんでもない! 」
軽く頭を下げることに加え、配慮はなるだけ怠らないことを胸に刻む。
「急に話が変わって悪いが、あの二人は? 」
「あ、御二方は朝早くから外で鍛錬されてますよ」
今の時間は……左上に表示された時計で『7:12』。随分と早い起床だなと、苦笑する。
「私たちも参りますか? 」
「そうだな」
未だに白兎の人化の姿に慣れずたどたどしくなってはいるものの、主として堂々としていなければならない、なんて体裁を気にし、素っ気なく返事する。
緑葉製のベッドから二人して降り、だだっ広い空間の奥にある玄関に向かう。こうして見ると、いよいよ現実だと認めざるを得なくなる。
昨夜の夜襲は大体七時頃だっただろう。つまり、それから半日は寝ていたわけだ。格好がつかない。
「俺、だいぶ横になってたんだな」
「そうですね。口を閉ざして昏睡……とても心配しておりました。あ、ああ! お傍で寝てしまい、申し訳ありませんでした! 」
「そのことか。気にしてない、気にしてないって」
「なんて懐の大きい御方……」
そうとも言えんだろう。
しかし、目を輝かせて言ってくるものだからなおのことたった一言を言い出せずに結局玄関に辿り着く。
「なんだかなー」
「どうされました? 」
「なんでもない」
軽くため息をつき、紛らわそうと白兎の頭を撫でる。どうも撫でられることに拒絶はなく、寧ろ気持ちよさそうだ。こうしていると何故か、転生前のあの忌まわしき紺色クッションを回想してしまう。とはいえ憎めない肌触り……すんでのところで下手な逡巡を繰り返すも、ようやく木製のドアノブに手を掛ける。こういう箇所までずいぶんと凝ってある。ゴーレム達の知識面といい技術面といい、全くもって驚かされるばかりだ。
そんな感想を胸の中で浮かべながらガチャリと優しく捻り、押し開いていく。
微かな冷気が扉の隙間より漂い始め、体を震わせる。




