第5話 ラビット王子
「キュキュ!? 」
〘ブラスト・ラビット〙がたったの一撃で倒された事が想定外だったのか、奴の後を追っていた〘ホーリー・ラビット〙と〘ナックル・ラビット〙達、そして一番後ろで仲間を指揮していた「ラビット王子」の称号を持つ〘ナックル・ラビット〙の動きが固まる。
数は多いが……レベルとか能力面の差からして、相手にできなくもない。でも、防護術を使いこなせるかどうかは分からない。
「キュッ、キュキュキュッ! 」
凍りついた局面に、遠くから白兎の指揮がくだる。すると、俺の元に迫り来ていた〘ナックル・ラビット〙達は皆して回れ右をし、指揮官の元へ戻っていく。それから〘ホーリー・ラビット〙達は、その場で「キュキュキュキュ」と声を上げ始めた。
「え、何それ」
〘ホーリー・ラビット〙各々の前に、白い玉が2個ずつ現れたのだ。なんのスキルだ?
「キュキュッ! 」
再び指揮がくだる。
「うおおぉっ!? そりゃねぇだろっ! 」
その玉全てが、俺の方に飛んできた。俺は大袈裟な反復横跳びで兎達の攻撃を避けまくる。
生み出された白い玉だまは、草むらに着弾しては光の粒子となって消えていく。これが「白魔法Lv3」っつーやつか!?
しかし、考えている暇はない。被弾しないようとにかく避け続ける。体力の差は見るからにこちらが上なのだが、なんせ痛そうな感じがしてならない。
「しまったっ」
いつの間にか、白玉が後ろから一つだけ飛んできており、振り向いた瞬間、横腹に見事に炸裂。
ポスッと、まるで赤ちゃん叩きのような感覚がした。痛みは、さらさらない。
「……ステータス確認」
その一言で、俺の目の前にボゥンという音を立ててステータス覧が表示される。
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〘ヒビキ 18歳 男性〙 【種族】:人間 【職業】:トラッパー
Lv :99
HP :9499/9500
MP :6200/6200
筋力 :1530
耐久 :1053
魔力 :3820
敏捷 :4900
幸運 :12
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なるほど、1発食らってもHPの減りはたった1だけか。けれど何故かは知らんがステータスを確認して2秒ほど経ったら、HPはすぐに全回復した。
スキルにそんな便利なものまあないし、回復ポーションも使ってない。まさか「女神の加護」ってやつのおかげ?
もしかして、白兎に殴られてもHPが減ってなかったのも勝手に回復したからか……? でもあの時、確かに痛みはあったんだが。
あれこれ考えていては時間の無駄だ。今の時点では、魔法を使われてもHPは簡単に尽きないことと、それによる痛みもないことが分かっている。
情報は、それだけで十分だ。
「覚悟しろよぉぉ? 」
今まで逃げてばっかだったが、なんだぁ? 心配御無用だったってわけか。
俺は怒りを覚え、魔法をためらわず使ってくる兎達を1匹1匹殴ったり蹴ったりして倒し始める。
八つ当たり上等だ。
数こそ多かったが、それぞれ1発で仕留めていくことで、下手にスタミナを浪費せずに済んだ。
だが、まだである。
俺はわざと白兎──「ラビット王子」だけを残した。
「おい」
俺はおさまらぬ怒りを無理に鎮めたように装い、1匹の〘ナックル・ラビット〙に声を掛ける。
「キュキュ……キュキュキュ……」
すると、そいつは両耳を垂れ下げながら俯いた。あたかも謝っているかのような仕草だ。
「ほう。それで許してくれるだろう、と」
「キュキュキュキュ! 」
白兎は慌てて首を横に振る。そいつは言葉を理解しているようにも見え、それに中々な知性を持っている。今ここで頷いたり無反応を通していたら、迷いなく武力行使に出ていたところだ。ちょっとした試しをやってみたつもりだが……こいつ案外使える奴なのかもしれない。
ステータスからして雑魚に変わりはないのだが、その知性は捨てておけない。
どうにかこいつを仲間にできないもんかね。そんな無理、通るわけがないだろうが──
「あ、そうだ」
俺は女神、フィーさんが転生前に説明してくれた『ヘルプボタン』を思い出した。
白兎に逃げられると困るため、急いでステータス一覧を開き、チャット枠の端に設けられた『ヘルプボタン』を押す。
「おっ」
ステータス一覧を開く時に鳴るあのボゥンという音とともに、『フィロリエル』とかかれたウィンドウが開いた。